願いと欲望

秋赤音

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願いと幸せ

安息を求める者(3)

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その後は何もなく身を清めて夕食を食べ終える。
与えられた部屋で眠っていたが、ふいの寒さで目が覚める。
暖炉に牧をくべようと思ったが、予備を使い切っていた。
寒さを我慢して資材置き場に向かっていると、どこかから悲鳴が聞こえた。

「ひゃう、ぅ…っ、そこ、もっと…っ」

「いいのか?こんなにグズグズにして」

「んっ、あ、ぁっ、こわれ、る…からぁっ」

悲鳴の元は必ず通らないといけない通路にあるらしい。
怖いけど、寒いよりはいい。
わずかに開いている扉の前にさしかかると、隙間から見えたのは大人の、男性に跨る女性の姿。

「ん?誰かいるのか?」

壁越しにかけられた声に驚いた。
思わず隠れて足を止める。

「ぁ、あっ、待って、誰か、いる、のにぃ…っ」

「見られるの、いいんだな。初めて知ったよ」

「ひ、ゃぁああああぅっ、らめ、ぃ、くぅううううっっ!」

大きな悲鳴が聞こえた。
部屋で何があったのか、
問題が起きたのなら知らなければいけない気がするが見るのが怖い。

「おい。入って来い。クオン」

名指しで指示された。
驚いた。怖い。見たくない。
行かないといけないのに、動けない。

「しかたねえな」

足音がした。
扉が動いた。

「ほら」

体が浮いた。
扉が閉まった。
ベッドの上に降ろされた。

「この水に何があるか、分かるか?」

誘導された手が、女性からこぼれる水にあたる。
それは、ただの水ではなかった。

「魔力」

「正解だ」

明るい声で、いつものように褒めてくれた大人。
誘導される手は動いて、体から生える棒に向けられる。
自分にもついている排泄器だ。
でも、大人からは排泄物ではない何かが出ている。
女性とは違う魔力が混じっている。

「これにも、何があるかわかるか?」

「魔力、です。さっきとは違うけど」

「正解だ。
クオンも大人になって、結婚する人ができたら真似るといい。
魔力を限界まで使う訓練もいいが、これも魔力を増やす方法になる」

男性は、うつ伏せて寝ている女性の排泄器に指を入れてかき回している。
ぐちゃぐちゃとこぼれていく水を男性が舐め始める。
声を殺す女性の顔は赤い。
女性は拷問を受けているらしい。
大人同士は、罰を直接与えるのかもしれない。

「二人は結婚するんですか?」

「…ぁー、結婚してるから、してるんだ。
あと、これを教えたのは俺たちだけの秘密だ」

「わかりました。勉強になりました。
ありがとうございます。
俺、部屋に戻ります」

「ああ、おやすみ。
夜は出歩かなくていいように備えておくんだよ」

「はい。おやすみなさい」

ベッドから降りて歩く。
自分の部屋の扉の前まで、歩き続ける。
部屋に入ってゆっくりと扉を閉めると、走った。
ベッドにもぐりこみ、毛布をかぶる。
怖い。怖かった。
響く女性の悲鳴と楽しそうに笑う男性の様はまるで拷問だ。
軟禁室の入り口を思い出した。
噂は本当だった。軟禁室から時々聞こえるらしい悲鳴の正体を知ってしまった。
結婚も怖い。
できれば、眠って全てを忘れたかった。
目を閉じて、朝が来れば知らなかった自分に戻っていればいいと願った。
俺は今まで通りに勉強しながら、俺の訓練をしよう。
魔力を増やす方法はあるんだから。
心で唱えて目を閉じる。
明日も寝るところがあって、ご飯に困らない穏やかな日でありますように。

翌日から、なぜか男性から毎日声をかけられるようになった。

「クオン」

「おはようございます」

「今日は武術を教えよう。
これでも強い方だから、安心して習うといい。
特別だから、少しだけここから離れてくれ」

「ありがとうございます」

俺をじっとみて、ニッと笑う大人。
秘密を話さないように監視しているみたいだ。
しかし、何か役に立ちそうなことを教えてくれるのは助かっていた。
俺は魔力が多い方、らしい。
不定期で急に始まる特別扱いの個別授業は意外と苦痛ではなく、むしろ勉強に集中できる良い環境だ。
使えるものは全て使うだけ。
穏やかな暮らしを死ぬまで得るために、今日もできることを増やす練習だ。


忙しない毎日はあっという間に過ぎる。

「クオン。アンナ。孤児院を頼んだ」

「はい」

結局、監視の目が消えることはなかった。
新しく来る子供を見ながら、引き取り先が見つかる子供たちを見送りながら、
自分の道をさがしていた。
六歳の生誕祭を終えた後、眠れないので月灯りの下で音をたてないで武術の練習をする。
魔力を増やす訓練の一つであり、身を護る手段になるので欠かせない。
しばらく続けていると、大人が近づいてきた。
そして、先生の役割をする誘いをもらった。
少しだけ考えて、引き受けることにした。
誰かに教えることで身につくこともあるからだ。
まずは先生候補として、今まで通りに学び続ける。

「お元気で」

「アンナ。皆で助け合えば大丈夫ですよ」

「はい。ありがとうございます」

女性の後継者はアンナと名乗る人だった。
初めて会った瞬間に、なぜか悪寒で背筋がざわめいた。
魔力の相性が悪いのかもしれないので、手合わせはしないことにしている。
俺はもうすぐ来る無事に七歳を迎えたい。

季節が変わる頃。
先に成人の七歳になったアンナは、魔力測定の後で巫女に選ばれた。
その後、ついに俺も成人した。
これからも孤児院で静かな暮らしを続けると思っていた。

「クオン。この魔力なら、勇者の適性がありますね」

魔力測定の結果は、俺を穏やかな暮らしから遠ざけていった。
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