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【第二章】その願い
23.ねむる愛し君【詩と風と祈り】
しおりを挟む寝る。
体を癒す手段としてはよくある行動だが、
生前の澪にとってはそうではなかった。
国を支える柱として、
意識は常に万が一に備えていた中での眠りは浅かった。
王妃の座を降りた後で気づいたらしい。
『僕といると、倦怠感が少なくて体が軽い気がする』と言っていたのが、
気づきのきっかけだった。
理由を二人で考えた結果は、眠り方。
些細な物音でも起きるのは変わらなかったが、
僕がいると分かると穏やかでいられる…だとか。
今は、どうなんだろうか。
寝ることが、体を癒す手段になれているのだろうか。
「……」
前夜に残した肌へ咲かせた花びらは薄くなっていたが、
夢ではないと語っている。
何があっても起きていた澪は、
小さな物音をさせても、隣で規則的な寝息で眠ったまま。
少しは、ここでの生活に慣れてくれているのだろうか。
澪にとって、安全だと思ってもらえているのだろうか。
「澪」
そっと髪を撫でると、
心地よさそうに手へ頭を寄せてくる。
小動物のような動きだが、澪がすれば可愛いく見える。
「澪」
その額に口づけをおとすと、身じろいだ。
程よい血色のある頬へ口づけると、
肩がわずかに跳ねた。
そして、待っていたような、
惜しいような気もする瞼の開きによって合う視線。
「あれん?」
まだ意識が半分眠っているような声が、少しだけ嬉しい。
その油断は良いことではないかもしれないが、
澪が油断してしまうくらい穏やかな場所だと思えるから。
「おはよう」
「おはよう」
なぜか、澪が抱き着いてくる。
その体は、わずかに冷たく震えている。
「どうした?」
「夢を…私が死ぬ直前の、
また一人になったかと思うと。
でも、アレンがいるから」
「僕はいつでも澪の傍にいる」
「ありがとう。アレン。
そういえば…私の亡骸は、もう白骨になっていそうね」
不安がなくなったのか、明るい声の澪。
その様子に安心する。
「亡骸はここにあるし、今も動いている」
「え?」
驚く澪が可愛いので、頬を撫でて口づけた。
「僕たちは、今でも生前と同じ器で過ごしている。
新しく創った器に生前の器を入れて、
生前のままで永遠の時間が過ごせるようになった」
「私は、埋葬されたのでは?」
「造った似姿を埋葬してもらった。
僕が、澪を、一部分でも誰かに渡すと思う?」
きっと、自分はとても醜い。
澪の全てがほしい願いを叶えてしまった。
今は、僕がいないと生きていけないようになればいいとも思う。
そんな感情を見透かしたように澪は数回ほど目を瞬かせ、
そして、柔らかく微笑んだ。
「思わない」
その言葉を聞いた瞬間、唇同士が触れ合った。
すぐに離れたが、笑みを浮かべている澪を抱きしめた。
「僕は、澪の全てを愛している」
「ありがとう。私もアレンの全てを愛してる」
抱きしめ返された腕は、とても温かかった。
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