72 / 144
【第一章】祈り
68.明けない夜
しおりを挟む「レオン、くべる木が残り一本になった」
「とりあえず、今日の分は作るか
【トレース】」
レオンは、最後の一本を真似て複製した木を、暖炉にくべる。
まだ冷え込みが強いクレセント国では、暖をとる方法は生命線。
「【トレース】…私、レイアに渡してくる」
「待って。一緒に行く。
明日の講習は、ちょうどいいな」
「そうだね。”少ない魔力でたくさん生み出す”こと」
「会得すれば、魔法疲れが減るのがいいことよね」
正面からレイアがきて、話に加わる。
「くべる木を分けていただこうと思っていたけど…」
「リビングもちょうどなくなったから、作った。
ついでに分けに来た」
レオンは、一壬の方を一瞬みて、そう言った。
「ありがとう、レオン」
「行こうと言ったのは一壬だ」
レオンに名前を呼ばれた一壬は、少し肩をこわばらせる。
その頬は、少し赤い。
「そうだったの。一壬、ありがとう」
レイアは、レオンの行動と一壬の気持ち、
二人の様子に目じりをさげて微笑む。
「いえ。寒いのは皆同じですから。
ここまできたので、よければ運んでもいいですか?」
レイアの様子を伺うような笑みで、一壬はそう言うと、
レイアの部屋がある先を視線で見た。
「お願いするね。ありがとう」
そう言って、レイアは一壬がもっている短い木の束の一つをもつ。
一壬が申し訳なさそうに慌てていると、言葉を言う前に
一壬の目を見て笑う。
「…助け合い、だよね?」
「…はい。ありがとうございます」
観念した一壬と、満足そうなレイアの様子を黙ってみるレオン。
レイアの部屋につくと、暖炉へ木をくべて、予備を置く。
部屋の出口まで二人を見送ったレイアは、
寒さで指先や頬を赤くする一壬とレオンが手を繋いで、
きた道を戻るの姿を見て扉をしめた。
静かになった部屋で、窓のカーテンをあけ、
その先に広がる景色をみる。
漆黒と紫紺、赤みのある深い紫、そして昼のような青空が混じる明るい空。
月は変わらず、星も見えるが、これで眠ると長い夕寝のような気分になる。
気づけば当たり前になっていた、明るい夜。
日を追うごとに明るい時間が増えていると聞く。
長い日照時間、雨が降っても足りない程の干ばつから始まった異常は、
確実に日常生活の当たり前を変えている。
「何も、ないといいのだけれど」
レイアは平穏を祈り、カーテンをしめ、寝台にはいり、眠った。
祈るような思いは叶わず、魔法が使えない民から亡くなっていく。
家族のため、自分のためと、まだ続く寒さと、水と食料の確保に必死になる。
暴動や争いが起きないようにと、
王族は率先して必要な物を魔法で作り、民に分け与えながら、
民よりは安定しているが贅沢だらけの豪華さとは遠い自分たちの生活も維持している。
絢爛豪華な生活を送っている一部の貴族は、当然のように民への支援をするが、
非難を恐れて生活も少し質素に変えた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【本編完結・R18】旦那様、子作りいたしましょう~悪評高きバツイチ侯爵は仔猫系令嬢に翻弄される~
とらやよい
恋愛
悪評高き侯爵の再婚相手に大抜擢されたのは多産家系の子爵令嬢エメリだった。
侯爵家の跡取りを産むため、子を産む道具として嫁いだエメリ。
お互い興味のない相手との政略結婚だったが……元来、生真面目な二人は子作りという目標に向け奮闘することに。
子作りという目標達成の為、二人は事件に立ち向かい距離は縮まったように思えたが…次第に互いの本心が見えずに苦しみ、すれ違うように……。
まだ恋を知らないエメリと外見と内面のギャップが激しい不器用で可愛い男ジョアキンの恋の物語。
❀第16回恋愛小説大賞に参加中です。
***補足説明***
R-18作品です。苦手な方はご注意ください。
R-18を含む話には※を付けてあります。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる