操り人形は幸せを見つける

秋赤音

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【第一章】祈り

33.王子の見栄

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笑って見送る一壬を背に、レオンは走る。
赤い顔を一秒でも見られないように全力で走り、試験場についた。

「そんなに焦らなくても…あー」

少し息切れしながら呼吸を整えているレオンに声をかけ、レイアが向かった先を見る。
揃いのペンダントの持ち主を見て、何かを察する。
美少年から漂う淡い色気に、そこにいた生徒たちは性別を問わず目をそらす。

「なんですか」

照れ恥ずかしく反射反応で先生を睨みつけ、そして失礼な態度をとったことに焦る。

「いいえ。試験、始めてもいいですか?」

絶えず朗らかに笑う先生に肯定の返事をし、二人で水晶の方へ移動する。

「良い恰好しすぎるなよ」

空間へ向かおうとすると、ごく小さい声で告げられる。
それに軽くうなずき、空間へ入った。

「始めます」

合図とともに、詠唱したレオン。
空中に青白い満月が浮かび、空間をくまなく照らす。

「【アース】」

地面から蔦を模した鉱石が一面に生まれる。
月の光に照らされて輝くそれは、空間に美しい景色を作っている。

「【エア】」

そこへ黒い光の粒子が混じる風がそよぐ。

「【バブル】」

さらに大きさが大小さまざまな丸く薄い水膜が生まれ、風に流れて壊れていく。

「【ヒート】」

水膜がすべて消えると、黒い光の粒子が炙られて、粒子の芯が赤く揺らいでいる。

「【シールド】」

風が止んだ直後、半透明の箱が空間の内側の半分を覆い、その景色を閉じ込めた。
手のひらの大きさにまで小さくなった箱の中には、月が輝き続けている。

「試験終了です」

空間に入って立ち、指の一本も動かさず終える。
声が聞こえると、レオンはすぐに空間をでる。
亀裂の入った水晶を横目に、失敗したか…と内心落ち込む。

「お疲れ様です。これは気にしなくてもいいですよ。
あと、一壬さんを呼んできていだたけますか」

と、先生は新しい水晶をとりに移動した。
すれ違う時、わかっているならいい。小声で言うと、先生はその場を後にする。
レオンがレイアたちのところへ戻る途中、王族への安堵と過度な期待の声がにぎやかだった。
少しの油断が命取りになることを思い出し、ヴァン先生の言うことが胸を刺す。

「「お疲れ様です」」
「ありがとう」

レイアと一壬が和気あいあいとしているのを遠目に見ながら近づいて、労いの挨拶をかわす。
傍から見ると、二人の美少女が和やかに話すところへ来た、美少女に笑いかけられる一人の美少年。
一線距離を置いたかなり遠目から、一部の恍惚な視線とため息がこぼれている。

「一壬を呼んでこいと言われた」
「はい」
「練習通り、です」
「…です」

レオンは、一壬の正面に立ったまま、黙ってゆっくり手をとる。
すると一壬の少し青白い顔の頬に血色がもどり、
レオンが心配そうに目を合わせようとするとうつむく。
その光景を眺めながら、もう面倒だから内緒で両親に告げ口したい、と。
実行はしないが、心で思うレイアだった。

「空間から一番近い観覧席で待っています」
「ありがとうございます」

うつむいていた一壬は、隣にいるレイアに声をかけられ顔を上げる。
慌てて手を離すレオンは気にも留めず、一壬の目を見て微笑んだ。
そして晴れた顔の一壬を見送り、真っ赤な顔のレオンを見るとため息がこぼれた。
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