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【第一章】祈り
22.王宮
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アスカ国の王女は、それぞれの国へ予定通り着いた。
定刻通りに地面へ魔法陣が現れて、王女と一人の世話役が地に足を下す。
すると、魔法陣は赤い鳥となり、まばたきする間に強く輝いて消えた。
鳥の役割が無事についたことを母国に伝えることだと知るのは、
その日の夜にきたアスカ国王からの通信だった。
「驚かせてごめんなさい。でも、綺麗でしたでしょう?」
「伝書に書いてあったのを真似たものだ。高度な魔力の扱いが必要だが便利だな」
明日の天気は晴れでしょう。と、同じような感覚で話された。
国王と王妃であり両親が満足感あふれる声で言うのを、
口を意識してとじるほど驚く一花と一壬。
両親が就寝の挨拶とともに魔法具通信を切った後、
緊張しながら改めて与えられた部屋を見渡す二人。
「お夕食、美味しかったよ。王女様の隣で緊張したけど。
あと、国にきてからずっと誰かに見られている気が…」
オーヴァル国にある白を基調とした王宮のとある一室。
やはり白が基調で、植物の蔦が繊細に描かれた壁や床。
暁色に細やかな刺繍がある見るからに高級な敷物と、
金の縁取りがある家具で構成された部屋。
窓にはしっとりした質感の上品な布が部屋と外の景色を隔てている。
王女がつけていた「エメラルド」という緑の透明感のある宝石に似た色の布は、光があたると花と蝶の透かし柄が浮かぶ。
この不思議な生地は、王女が選び手を加えたとエルナ本人が言っていた。
上質で触れるのも恐れ多いが、通信しながらそっとあけると窓越しに見える景色が目に広がる。
「どうしたの?」
「あ、ごめん。景色が綺麗だから、つい見とれて。海や山が遠くまでみえるよ」
「うん。わかる。私も同じだった。ここは、遠くに連なる山や谷まで見渡せる」
クレセント国にある黒を基調とした王宮の一室で、一壬は答える。
黒曜石と呼ばれている鉱石が柱や床すべてに使われ、足元には丈夫で柔らかい紺の織物が銀の刺繍で縁どられた敷物。
紺色の生地は見る角度や光の加減で変わり、空が明るい時間は夜明けを表すような色合いになる。
一花と同じように、窓と外を隔てる光沢ある白銀色の布をあけて、
窓越しに広がる景色を目に映している。
「一壬も?もしかして、食事の席は王子様の?」
「うん。ここにいる間はそうなると思う」
「私も。緊張するけど、近くでお話しできるから嬉しい」
よかったね、と返事をする一壬に、花が咲くような声で話を続ける一花。
あっという間に頃合いの時間がきて通信を切り、柔らかな寝床で朝を迎えた。
同刻。
オーヴァル国の神殿では、神殿にある真新しい水鏡へ一花と乳母の緋和の姿が映っている。
それを、女神らしい微笑みの光の神のアルヴァと、
硬い表情の巫女の乙葉が静かに見つめている。
クレセントの神殿では、止める言葉も聞かずに二手に飛んだヴァーレンを待つ二人がいる。
闇の神セレンと神官の煉。
「ただいまあ。某、実は分身できるでござるー」
「神様は本当に見回りするのですね。実況までしていただけるとは思いませんでしたが」
「面白がってるだけだろ」
ヴァーレンが戻ると、さっきまで見ていた新しい水鏡に映る一壬と乳母の沙月から目をはずす二人。
無邪気で満足そうな全知の神は、関心と冷ややかなな目線を浴びていた。
定刻通りに地面へ魔法陣が現れて、王女と一人の世話役が地に足を下す。
すると、魔法陣は赤い鳥となり、まばたきする間に強く輝いて消えた。
鳥の役割が無事についたことを母国に伝えることだと知るのは、
その日の夜にきたアスカ国王からの通信だった。
「驚かせてごめんなさい。でも、綺麗でしたでしょう?」
「伝書に書いてあったのを真似たものだ。高度な魔力の扱いが必要だが便利だな」
明日の天気は晴れでしょう。と、同じような感覚で話された。
国王と王妃であり両親が満足感あふれる声で言うのを、
口を意識してとじるほど驚く一花と一壬。
両親が就寝の挨拶とともに魔法具通信を切った後、
緊張しながら改めて与えられた部屋を見渡す二人。
「お夕食、美味しかったよ。王女様の隣で緊張したけど。
あと、国にきてからずっと誰かに見られている気が…」
オーヴァル国にある白を基調とした王宮のとある一室。
やはり白が基調で、植物の蔦が繊細に描かれた壁や床。
暁色に細やかな刺繍がある見るからに高級な敷物と、
金の縁取りがある家具で構成された部屋。
窓にはしっとりした質感の上品な布が部屋と外の景色を隔てている。
王女がつけていた「エメラルド」という緑の透明感のある宝石に似た色の布は、光があたると花と蝶の透かし柄が浮かぶ。
この不思議な生地は、王女が選び手を加えたとエルナ本人が言っていた。
上質で触れるのも恐れ多いが、通信しながらそっとあけると窓越しに見える景色が目に広がる。
「どうしたの?」
「あ、ごめん。景色が綺麗だから、つい見とれて。海や山が遠くまでみえるよ」
「うん。わかる。私も同じだった。ここは、遠くに連なる山や谷まで見渡せる」
クレセント国にある黒を基調とした王宮の一室で、一壬は答える。
黒曜石と呼ばれている鉱石が柱や床すべてに使われ、足元には丈夫で柔らかい紺の織物が銀の刺繍で縁どられた敷物。
紺色の生地は見る角度や光の加減で変わり、空が明るい時間は夜明けを表すような色合いになる。
一花と同じように、窓と外を隔てる光沢ある白銀色の布をあけて、
窓越しに広がる景色を目に映している。
「一壬も?もしかして、食事の席は王子様の?」
「うん。ここにいる間はそうなると思う」
「私も。緊張するけど、近くでお話しできるから嬉しい」
よかったね、と返事をする一壬に、花が咲くような声で話を続ける一花。
あっという間に頃合いの時間がきて通信を切り、柔らかな寝床で朝を迎えた。
同刻。
オーヴァル国の神殿では、神殿にある真新しい水鏡へ一花と乳母の緋和の姿が映っている。
それを、女神らしい微笑みの光の神のアルヴァと、
硬い表情の巫女の乙葉が静かに見つめている。
クレセントの神殿では、止める言葉も聞かずに二手に飛んだヴァーレンを待つ二人がいる。
闇の神セレンと神官の煉。
「ただいまあ。某、実は分身できるでござるー」
「神様は本当に見回りするのですね。実況までしていただけるとは思いませんでしたが」
「面白がってるだけだろ」
ヴァーレンが戻ると、さっきまで見ていた新しい水鏡に映る一壬と乳母の沙月から目をはずす二人。
無邪気で満足そうな全知の神は、関心と冷ややかなな目線を浴びていた。
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