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町の日常
17.過ち~炎
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白崎 翠の高校生活は、報われない片思いを抱えたまま卒業した。
灰野 紅は彼の幼馴染の枯天 紫しか映していない。
私は、彼にとって親しい友人。
在学中、実らない恋の嘆きを幼馴染の黒鐘 蒼だけは茶化さないで聞いてくれた。
男性目線での提案をしてくれることもあった。
しかし、すべて空振り。
良くも悪くも、親しい異性の友人であり続けた。
楽しい忙しさに追われる仕事は心地よかった。
仕事を終えて帰る途中、偶然に灰野 紅と再会した。
場の流れで向かった居酒屋。
靴のせいで痛む足は、親しい友人だからこそ近づける無防備な隣にいる理由になった。
互いに酔いが回り始めたとはいえ、愚痴を言い合えるのも、きっと友人だから。
恋愛で苦しむ彼の話を聞くのは辛いが、親しい特権は心を温めた。
気づけば、何も着ていない姿で知らないベッドに寝ていた。
隣には眠る好きな人。
疼く下腹部に焦った。
状況から最悪を思い描くが、偶然とはいえ好きな人と触れ合えた悦びがこみ上げた。
お酒の勢いで肌を重ねた一夜の記憶がないのは残念だが、最初で最後の思い出に隣で眠る姿を目に焼き付けた。
あの日を最後に会わないでいる灰野 紅。
万が一にも過ちが恋人に知られたら、幸せになろうとする彼の邪魔になる。
二度と個人的には会わないようにすることを決めた。
しかし、五か月後に妊娠が確定した。
産んでいいのか。
産みたい。
産んではいけない。
彼に言った方が良いのか。
言えば彼が叶えたい幸せは壊れるかもしれない。
悩んでいると、幼馴染の黒鐘 蒼が「結婚しよう」と言ってくれた。
「子供は俺たちの子として産み育てればいい」と優しく抱きしめてくれた。
私は、幼馴染の優しさに甘えて生きることを選んだ。
無事に出産すると、ご両親も嬉しそうに世話を手伝ってくれた。
嬉しかった。
助かっている。
子供に罪は無いが、私の過ちの証が愛されることで安心している。
生まれて一年が過ぎ、私の体を労わってくれるご両親の計らいで初めて夫婦だけの夜を迎えた。
食事を終え、お風呂からあがると湯上りの蒼が長椅子へ手招いた。
二人で選んで買ったお気に入りの椅子には、水とすでに髪を乾かす用意がしてある。
「翠」
「蒼…自分でするから」
「いいから」
ニコニコと意思を曲げる気配が無い蒼に身を預けた。
水を飲んだ後、自分がするよりも完璧に乾いた髪を眺めていると、体が宙に浮く。
片手で背中を、片手で膝の裏に腕を通され抱えあげられた。
不安定さに思わず蒼の首に腕を回すと、満足そうに笑みを浮かべた。
「そろそろ我が子に兄弟を作ろうか。
お願い、されたからね」
蕩ける笑みにつられて頬が緩む。
白崎 翠で経験した過ちは消えない。
でも、白崎 翠と黒鐘 翠は幸せだと思う。
愛する幸せだけでなく、愛される幸せを知ったから。
「お願い、なら頑張らないと…ね」
初めは、私の全てを包み込む愛情に溺れるのが怖かった。
幼馴染として好ましく思っていたから、共に暮らす苦痛は無かった。
でも、いつのまにか、異性としても好きになってしまった。
気づいてしまえば、愛させることが馴染んでくれば、失うのが怖くなった。
「優しくする」
誓うように唇へ触れるだけの口づけをおとす蒼。
離れた温度が恋しくなり、同じように唇を重ねた。
注がれる熱く優しい愛情へ、私の愛も伝わりますように。
灰野 紅は彼の幼馴染の枯天 紫しか映していない。
私は、彼にとって親しい友人。
在学中、実らない恋の嘆きを幼馴染の黒鐘 蒼だけは茶化さないで聞いてくれた。
男性目線での提案をしてくれることもあった。
しかし、すべて空振り。
良くも悪くも、親しい異性の友人であり続けた。
楽しい忙しさに追われる仕事は心地よかった。
仕事を終えて帰る途中、偶然に灰野 紅と再会した。
場の流れで向かった居酒屋。
靴のせいで痛む足は、親しい友人だからこそ近づける無防備な隣にいる理由になった。
互いに酔いが回り始めたとはいえ、愚痴を言い合えるのも、きっと友人だから。
恋愛で苦しむ彼の話を聞くのは辛いが、親しい特権は心を温めた。
気づけば、何も着ていない姿で知らないベッドに寝ていた。
隣には眠る好きな人。
疼く下腹部に焦った。
状況から最悪を思い描くが、偶然とはいえ好きな人と触れ合えた悦びがこみ上げた。
お酒の勢いで肌を重ねた一夜の記憶がないのは残念だが、最初で最後の思い出に隣で眠る姿を目に焼き付けた。
あの日を最後に会わないでいる灰野 紅。
万が一にも過ちが恋人に知られたら、幸せになろうとする彼の邪魔になる。
二度と個人的には会わないようにすることを決めた。
しかし、五か月後に妊娠が確定した。
産んでいいのか。
産みたい。
産んではいけない。
彼に言った方が良いのか。
言えば彼が叶えたい幸せは壊れるかもしれない。
悩んでいると、幼馴染の黒鐘 蒼が「結婚しよう」と言ってくれた。
「子供は俺たちの子として産み育てればいい」と優しく抱きしめてくれた。
私は、幼馴染の優しさに甘えて生きることを選んだ。
無事に出産すると、ご両親も嬉しそうに世話を手伝ってくれた。
嬉しかった。
助かっている。
子供に罪は無いが、私の過ちの証が愛されることで安心している。
生まれて一年が過ぎ、私の体を労わってくれるご両親の計らいで初めて夫婦だけの夜を迎えた。
食事を終え、お風呂からあがると湯上りの蒼が長椅子へ手招いた。
二人で選んで買ったお気に入りの椅子には、水とすでに髪を乾かす用意がしてある。
「翠」
「蒼…自分でするから」
「いいから」
ニコニコと意思を曲げる気配が無い蒼に身を預けた。
水を飲んだ後、自分がするよりも完璧に乾いた髪を眺めていると、体が宙に浮く。
片手で背中を、片手で膝の裏に腕を通され抱えあげられた。
不安定さに思わず蒼の首に腕を回すと、満足そうに笑みを浮かべた。
「そろそろ我が子に兄弟を作ろうか。
お願い、されたからね」
蕩ける笑みにつられて頬が緩む。
白崎 翠で経験した過ちは消えない。
でも、白崎 翠と黒鐘 翠は幸せだと思う。
愛する幸せだけでなく、愛される幸せを知ったから。
「お願い、なら頑張らないと…ね」
初めは、私の全てを包み込む愛情に溺れるのが怖かった。
幼馴染として好ましく思っていたから、共に暮らす苦痛は無かった。
でも、いつのまにか、異性としても好きになってしまった。
気づいてしまえば、愛させることが馴染んでくれば、失うのが怖くなった。
「優しくする」
誓うように唇へ触れるだけの口づけをおとす蒼。
離れた温度が恋しくなり、同じように唇を重ねた。
注がれる熱く優しい愛情へ、私の愛も伝わりますように。
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