澄み透る渡りの世で

秋赤音

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深傷の会再

6.懐

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「これからは、永遠に二人きりだ」

柔らかな、楽しそうな声だった。
秘部から指がぬかれた瞬間に生まれた疼きに戸惑う。
魔力が尽きたのか、鎖が消える。
死が近い体で、これからどうなるのか。
分からない。
ふと、体が支えられながら宙に浮いた。

「これで、我らは同じだ」

相変わらず、柔らかな声。
何が魔王を楽しませているのだろうか。
重ねられた唇から、魔王の魔力が流れてくる。
生きようとする本能が力を受け入れる方が強く、抗うことはできなかった。
魔王の魔力は浄化したはずなのに、どうして残っているのだろう。
どうして、こんなにも魔王の魔力が体に馴染むのだろう。

「どうして?とでも言いたそうだな。
玉座に蓄えていただけだ。
我は王でなくなったから、座を消して魔力を回収しただけだ」

しっかりと備えがあったようだ。
短剣と鎖と私だけでは、結局封印できなかったのかもしれない。
どちらにせよ、私の役割は終わっていた。
王様は私を魔王に捧げたのだから。
どこに運ばれるか分からない不安も、もつだけ意味が無いだろう。

「憂いた顔をすることはない。
汝は巫女として魔王を封じた。
我の足掻きが一手多かっただけだからな」

どこかの廊下にある、どこかの部屋の扉が開いた。
魔王が部屋に入る。
客間のような内装の部屋だ。
浴室の床に膝をついた魔王は、ゆっくりと私の背を浴槽にもたれさせる。
そして、目の前で服を脱ぎ始めた。
纏う服がない魔王は、惜しみなく鍛えられている体を晒している。
私の身に残されていた服だった布を取り払われ、首筋に顔を寄せられる。

「長旅で疲れているだろう。
妻を癒すのは夫の仕事だ」

「魔王、何を、言って「バレッタ」

魔王は私を妻と言った。
贄の扱いは自由だろうが、一応、名目は下僕ではないらしい。
しかし、なぜ妻なのか。
わからない。
優しく抱きしめられる理由が、分からない。

「覚えていなくて当然だ。
我らは、かつて伴侶だった。
ようやく元の暮らしに戻っただけだ。
だが、ミーシャとして過ごせばいい」

「どういうことですか」

「かつて、我らの力を欲する人間がいた。
我から奪えない奴らは、我から最愛を奪った。
我を狙う人間は、最愛が、リーシャが成人していないことに目をつけた。
そして、我をかばう状況を作り出し狙った。
リーシャと共に体を貫かれたが、我は幸いにも急所を逃れた。
思惑が成功した人間は、瀕死の我を鎖で拘束した。
我の目の前でリーシャの魂を消し、リーシャの肉体を攫った。
リーシャの体にはミーシャと名づけられ、魔の力を聖なる力に反転させていた。
浄化の巫女として仕事をしていたが、民を思い懸命に仕事をするミーシャは、とても綺麗だった」

苦しそうな声で、ゆっくりと、途切れながら話をした魔王。
説明されても、やはり覚えがないものはどうしようもない。
今思えば、魔王が名乗る前に魔王だと確信したことは、おかしかった。
私だけ城の空気に苦しむことがなかったことも、おかしかった。
ルシェ様が拘束され犯して楽しむ魔王を、犯されて悦ぶルシェ様を見たくなかったのも。
魔王の愛撫を当然のように受け入れた体も。
きっと、すべてがおかしかった。
ふと、思う。
玉座に魔力をためる念入りで足掻きの上手い者が、最愛の魂を消したままにするだろうか。

「消えた魂は、まだあるのですか」

あったら、どうしようか。
考える前に言葉が口から出ていた。

「ある。
だが、今の体に渡せば、消えるかもしれない。
我は、リーシャも、ミーシャの生きる全ても失いたくない」

何が、消えるのだろう。
私だろうか。
大切にされている魂だろうか。
せっかく贄で自由にできるのに、魔王はそうしない。
おそらく、私の体が愛妻の体だからだろう。
少しだけ、羨ましくなった。

「ミーシャ。思ってはいけない」

魔王が、私の名を呼んだ。
何を思ってはいけないのだろう。
首筋から顔を上げた魔王と目が合った。
まっすぐに私を見つめる瞳には、私が映っている。

「まお「バレッタ」

「バレッタ、様」

私は、魔王が求める妻ではない。
なのに、名を呼ぶと体が熱くざわめく。
私が呼んでもいいのだろうか。

「ミーシャは、ミーシャだ。それは、受け入れなくていい」

「なに、を…ぁっ、んっ、んぅ…っバレッタ様…ぁっ」

魔王は唇を塞いで、深く舌を絡ませてきた。
昔もこんなことをしていたのだろうか。
ぼんやりと考えようとすると、舌を強く吸われる。
何かが少しずつ入ってくるような感覚に不快感は無く、むしろ在るべきものが揃うような。
なのに、魔王は何かから私を守るように強く抱きしめた。


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