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お正月に現れておせちを見つめる親子の気の毒な話

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お正月。
1月1日は親戚が集まり、おせちを食べる。
「さ、食べて」
みんないっせいにおせちを食べる。
「あたしは伊勢海老ね」
「俺はサーモンだな」
「僕はダシ巻き卵」
そして、話をして盛り上がる。
ふと、テーブルの隅を見る。
おせちを食べようとしない親子がいた。
「あれ?誰だろ?」
お正月には遠い親戚も来る。
「まだまだ会ったことがない親戚がいるんだな・・・」
私はお皿を持ち、その親子に近づいた。
「なにを食べますか?よそいますよ」
と聞いた。
でも、うんともすんとも言わずに、ジッとおせちを見つめている。
「じゃ、適当にとりますね」
お皿に子供が好きそうな料理を取り分けた。
「ここに置きますね」
テーブルの上に置いた。
みんながおせちを食べ終えて、散らばる。
ふとテーブルを見ると、あの取り分けたおせちは手付かずのままだった。
「食べなかったんだ・・・」
「どうしたの?」
母親が聞いてくる。
「あそこに座っていた親子なんだけど、なにも食べなかったんだ」
「親子って・・・30代くらいのお母さんと小学生くらいの男の子だった?」
「そう」
「ああ、まだ未練があるのね」
「未練?」
母親が言うには、兄には子持ちの婚約者がいた。
だが、初婚の兄がその女性と結婚することにひどく反対。
「金を渡すから、息子の前から消えてくれ」と告げる。
その後、親子は行方不明になってしまった。
きっと、もうこの世にはいない。
幽霊となり、正月には家に現れるんだろう。
だが、兄には見えてないようだ。
「お父さんは昔の人だから・・・受け入れられなかったのね」
母親は仏壇の遺影を見ながらため息をついた。
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