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俺に襲いかかってきた幽霊を撃退した謎の物体

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家の台所は寒い。
外よりも寒いんじゃないかと思うほど。
それに、おかしいんだよね。
ただ寒いって感じじゃなくて、ゾクゾクッと鳥肌が立つような寒さだ。
台所の一角だけが。
俺はどうもそこが苦手で、近寄ることができずにいた。
近寄ると、何かが起きそうだから。
今はそこに使わないワゴンを置いてる。
置いてるっていうか、なにかを封印してるって感じ。

そんなある日。
俺は具合が悪くて会社を早退した。
家に帰って風邪薬を飲み、布団に潜り込む。
目を開ける。
何時だろうか・・・
時計を見ようと、顔を上げる。
トントントン
台所の方からなにかを切る音がする。
「なんだろう?気のせいかな」
また目を閉じ、寝ようとした。
トントントントンッ
「やっぱり、音がする・・・」
音のする方へと目を向けた。
台所に見知らぬ男が立っている。
真っ暗だから、顔はよく見えない。
トントントントントンッ
布団から半分顔を出し、息を殺して見ていた。
クシャンッ!
いっけね。
くしゃみをしちまった。
トン。
俺のくしゃみに気づいたのか、男は切る手を止めた。
そして、ゆっくりと俺の方へと顔を向ける。
「うわっ!」
窓からの薄明かりで見えた男の目。
俺をギロッと睨む。
「ヤバい!」
男は包丁を持ち、ゆっくりと足音も立てずに俺の方へと近づいてきた。
「くっ、来るな・・・来るな・・・」
そう心の中でつぶやくが、男は俺を睨みながら近づいてくる。
「俺、なんかした?!」
思い当たらない。
まったく知らない男だぞ?
なんで俺を襲うんだ?
なにがなんだかわからない状況に、俺は漏らしそうになる。
男が俺の目の前に立った。
「うわっ!助けてくれ!」
だが、男は無言で包丁を振りかざす。
「あっ!もうダメだ!」
その時だった。
ニャーオッ!
「ふがああああああっ!」
男の体がみるみる小さくなり、玄関の鍵穴から外へと吸い込まれるように出ていった。
なにが起きたのかよく理解できなかった。
俺はベッドの上で呆然としていた。
「確か、猫の鳴き声がしたよな?」
そう思って、部屋の電気をつけた。
だが、猫などいない。
窓から逃げたのか・・・
窓を見ても・・・開いてなんかいない。
ふと、台所に目を向ける。
ワゴンが気になった。
「なんだろう?気配がする」
ワゴンの後ろが気になってどかすと、1枚の写真が落ちていた。
写っているのは猫だった。
大家さんに聞いてみた。
「うちの猫だわ。もう3年前に老衰で亡くなってるけどね」
「え?!そうなんですか・・・」
「でも、どうして写真があなたの部屋にあったのかしら」
猫の写真を写真立てに入れた。
そして、下駄箱の上に飾った。
あの男は2度と出てこない。
それに、台所の一角が気になることもなくなった。
今では台所を広く使えてる。

ありがとな、猫。

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