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第31話 酒宴

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「ぷはっ! 喉が焼けそうだ」

 俺が酒を煽ると一気にお腹の中が熱くなった。

「ライアスはわりと豪快に呑むタイプですよね」

 キキョウはそう言うと自分のコップに麦酒を注ぐと口をつける。

「今まではこんな酒呑んだことがなかったからな、少量で酔えるのはありがたい」

 迷宮から戻り、ようやくありつける酒だ。
 俺もキキョウもこの宴を心の底から楽しんでいた。

「確かにそうですね、私もライアスの故郷のお酒、結構好きですよ」

 お互いにそれぞれの国の酒を堪能する。ツマミになるものは亜空間にしまってあった焼き魚と木の実くらいだが、これだけで十分に美味いと思えた。

「それにしても不思議な気分です。ほんの一ヵ月前まで、私は故郷で物の怪退治を生業にしていたというのに、このような場所に転移させられ、今ではライアスと寝食をともにしているのですからね」

 そう言いながらも葡萄酒に手を伸ばしている。

「確かにな、俺だって本当なら今頃はパーティーメンバーと一緒に新たな迷宮に挑んでいたはずなんだよな」

 クラスチェンジの際、違ったメッセージが表示されて承認したところこの場へと転移させられたのだ。

 あの時、しっかりと出てくるメッセージを読んでいたらここにいなかったかもしれない。

「ライアスは、今こうして私といるよりも元の仲間たちと一緒の方が良かったですよね?」

 その言葉に驚き顔を上げる。

 いつの間にか移動してきたのか、真横にキキョウが座っており俺をじっと見つめていた。

 酒のせいで顔が赤く、白装束がはだけ肩や胸元が見えている。迷宮に潜る間ずっと意識させられ続けていたのだが、こうして酒で思考が混濁していると一層欲望が膨らみそうになっていた。

「いや、決してそうとばかり言えないぞ。確かにこの場所は強力なモンスターが湧くから油断ならないが、モノリスを通じて今まで呑んだことのない酒や食べたことのない料理。元の場所では手に入らないレアアイテムが簡単に手に入り、それらを使用することで強くなることもできる。ここにきて2カ月になるが、過去と比べてとんでもなく強くなっている自信がある」

 元の場所では一人で倒せないであろうリザードマンウォーリアやガーゴイルなどを単独で軽々と倒し、属性剣と魔石を使用することで魔法の威力を上げることもできるようになった。

 最初は一人で大変だったが、今では信頼できるキキョウというパートナーもいるので、最近ではこの迷宮探索を楽しんですらいる。

 元の場所に戻るための手掛かりが欲しくて始めた迷宮探索だが、こうして彼女と過ごす間にこの生活も悪くないものと感じるようになったのだ。

「ふふふ、私もです。この場所に来てから段々と強くなっている実感が湧いてます。恐らくこの場所で過ごした一ヶ月は故郷での数年分の修行に匹敵するかと」

 常に強敵と戦闘することができ、傷ついても回復石やヒーリングの巻物で癒すことができる。

 強力な武器や防具も買い揃えることができるし、この場所にはおよそ強くなるために必要なすべてが揃っていた。

「しかし、そうなるとどうして俺たちはこの場所に呼ばれたんだろうな?」

 別に俺やキキョウでなくても良かったのではないだろうか?

 住む場所も種族も性別も違う俺たちがこうしていることの理由を知りたかった。

「何ですか、ライアス。そんなこともわからないというのですか?」

 ところが、キキョウは俺たちがこうしている理由に心当たりがあるらしい。

「何か知っているのなら教えてくれないか?」

 俺が頼むと、彼女は俺の肩に頭を乗せる。獣耳が動き、俺の耳をくすぐった。

「その答えは明白ですよ」

「と言うと?」

「私はあなたと出会うため、あなたは私と出会うため。遠き地よりこの場所に転移させられたのです」

「あのなぁ、俺はもっと真剣に――」

 まったく意図してなかった答えに、俺がキキョウをたしなめようとすると、彼女は俺と目を合わせると優しい表情を浮かべた。

 その表情に魅せられ、しばらくの間言葉を失っていた俺だったが、

「そっか……。そうかもしれないな」

 確かにこの場に転移させられた理由はわからない。だが、俺も彼女と出会ったことを幸福だと思っている。

 ならばそれがこの場にいる理由でも良いのかもしれません。

「どうやら納得したみたいですね」

 キキョウが満足そうな声を出す。そして俺から離れると、コップを二つ用意し、そこに米酒を注ぐと片方を俺に渡してきた。

「私の故郷では親しい者と親交を深める際、こうして同じ酒を呑むことがあります。ライアスはどうですか?」

「ああ、俺もキキョウのことは戦友だと思っているよ」

「そうですか、あなたにそう言ってもらえるのが何よりも私は嬉しいです」

 お互いにコップを持ち上げるとぶつけ、酒を煽る。

「明日からも、よろしくお願いしますね」

 そう告げるキキョウの言葉を耳にしながら、俺は酔いのせいで、瞼が落ちていくのだった。


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