上 下
25 / 41

第25話 鬼蝙蝠

しおりを挟む
「キキキィーーー!」

「くそっ! こいつはなんてモンスターだ?」

 通路の両側を黒が埋め尽くしたかと思うと、鳥程の大きさのモンスターが飛行して襲ってきた。

「これは鬼蝙蝠(おにこうもり)と言うもののけです。集団で行動し飛び回り、牙で噛みついて攻撃してきます」

 キキョウがモンスターの説明をしている間も、鬼蝙蝠は俺たちに攻撃を仕掛けてくる。

 コマイヌの身体から現れた警報器は、いまだけたたましい音を立てており、剣を振るって倒している間にも俺たちを囲むモンスターの数は増えていった。

「こいつらの弱点は火です。『ファイア』」

 彼女は巻物を取り出すと、火の魔法を使った。
 天井を焦がすのではないかという勢いに、鬼蝙蝠が焼かれボトボトと地面に落ちる。

「火よっ!」

 その様子をみた俺も、ちょうど火属性剣を装備していたので火の魔法を放った。

「キィィーーーー!」

 鬼蝙蝠は旋回して避けるのだが、何匹かは俺の火による攻撃を受けて羽が焦げ動きが鈍くなる。キキョウに比べて威力が低いのでしかたない。

「まずいな……」

 今の魔法攻撃で火が有効というのは証明されたが、撃った直後に身体の中から力が抜けて行ったのがわかる。

 たった一発撃ったところで即倒れるということはないが、魔法を加えた戦術となると、徐々に疲労が溜まり思考が鈍くなり攻撃を避けられなくなってしまう。

「ライアス! まだまだ集まってきています!」

「一匹一匹は問題雑魚なんだっ! 火で怯ませて倒し続けるしかない!」

 隙を見せると齧られる。空を飛び、全方位から攻撃されているので流石に防ぎようがない。

「痛い痛いっ! 耳を噛まれていますっ!」

 キキョウは耳や尻尾を重点的に狙われている。警報は既に鳴りやんでいるが、視界一杯を鬼蝙蝠が覆っているので状況がわからない。

 たった二人で、大量にモンスターを倒しきる魔法の専門家もいない状況で、現状を覆すのは無理だろう。

「こうなったら……」

 俺は剣を振り、彼女に取り付いている鬼蝙蝠を斬り落とすと、彼女を抱き締めた。

「ら、ライアスこんな時に何をっ!」

「結界を張れっ!」

 次の瞬間、キキョウが破邪の指輪を使い結界を張る。

「で、ですが、中に残っている鬼蝙蝠が……」

 結界は透明な膜のようなものを張ることができるのだが、押し出すように効果を発揮するわけではなく、彼女を中心にドーム型に出現する。

「こいつらさえ倒せば、ひとまず休むことができる!」

 見えない膜で中と外が隔離されたので、中にいる鬼蝙蝠さえ倒せば問題はない。

「な、なるほどっ!」

 彼女はハッと気づくと武器を持ち、残った鬼蝙蝠を倒すため斬りかかって行った。




「何か、凄く落ち着かない気分ですね……」

 結界内の鬼蝙蝠を倒し終えた俺たちは、地面に向かい合って座りながらも結界の外に張り付いている鬼蝙蝠をみた。

 先程まで倒していた鬼蝙蝠は牙などのアイテムを落として残りは迷宮に吸収されてしまった。

 ガーゴイルのやコマイヌのドロップに関しては、回収する間もなく鬼蝙蝠に襲われてしまったので、どうなっているのかわからない。

「確かに気持ち悪いな……」

 赤い目を光らせ口を開いて牙をむき出しにしている。
 至近距離でこうして観察していると嫌な気分になる。

「それにしても、キキョウが破邪の指輪を選んでくれて良かった……」

 二階に登ってからそれなりに強いモンスターが現れても平気だと考えていたが、まさか弱いモンスターを大量にけしかけてくるとは思わなかった。

 あのまま戦っていた場合、それなりに傷を負わされ苦労していたのは間違いない。

「それを言うのなら咄嗟に思いつくライアスも凄いです。私は結界内に敵が入ることばかりに気を取られていて、張った後に倒すなんて考えもしませんでしたから」

「なら、お互いの手柄ってことでいいな?」

 俺はそう言うと無限の腕輪からアイテムを取り出す。

「回復石使うからな」

 次の瞬間、キキョウの身体を優しい白い光が包み込む。

「ん、自分でヒールの巻物を使うより暖かくて気持ち良いですね」

 目を瞑り、回復の力を受け入れるキキョウ。やがて、光が収まると目を開けた。

「どうですか?」

「ああ、齧られた場所は完全に元通りになっている」

「本当に痛かったんです、ミミも尻尾も……。毎日丁寧に扱っていたのに……」

 キキョウはそう言うと、外にいる鬼蝙蝠を睨み付けた。

「とりあえず、こいつらがある程度離れるまでは結界を張り続けてくれ。今日はここで休むとするか」

 警報器も鳴りやんでいることだし、後ろに詰めて生きるモンスターもその内散るだろう。

「そうですね、まだ二階に上がったばかりです。慎重に行動しましょう」

 そう答えると、キキョウは俺に身体を預けて寛ぎ始めるのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...