上 下
15 / 41

第15話 石碑

しおりを挟む
 お互いに相手の発言を聞いて目を丸くする。

「ライアスはずっとここで暮らしているのでは? ここがどこだか知らないのですか?」

「いや、俺がここで暮らすようになったのは今から二ヵ月前だ。そっちこそここに住んでいたんじゃないのか?」

 俺はキキョウに聞き返した。

「私は、いつの間にかここに飛ばされていたんですよ」

「それは俺もだ。もしかして転移させられる前、モノリスに触れなかったか?」

 どうやら俺と同じ境遇のようだ。俺は彼女に質問をする。

「モノリス? それは何ですか?」

 俺は彼女を手招きすると、小屋へと案内する。

「この黒い板みたいなものに触れたんじゃない?」

「ああ、石碑のことですか。確かに私は飛ばされる前、これに触れましたよ」

 地域によって呼び方が変わるのか?
 俺たちの世界ではモノリスで統一されていたかと思うのだが……。

 そもそも、獣人など物語にしか出てこない存在が目の前にいる時点で考えるだけ無駄な気がする。

「いずれにせよ、どうやらこれが原因というのははっきりしたな……」

 これまでは自分ひとりだったので、確証を得ることをできなかったが、キキョウの証言がある以上、転移にはモノリスが関係しているらしい。

「キキョウはいつからこっちに?」

「一昨日からですけど?」

「ということは、そこに干してあった干物を食った?」

「ええ……、食べるものに困ってましたので……」

 ここに至って、干物は俺が作っていたものだと気付いたのか、彼女は気まずそうな顔をした。

「まあいいさ、俺の方が先に来ている分教えられることもある。このモノリスではポイントを利用することで色んなものを購入することができる。水や食料なんかもあるから、キキョウも利用するといい」

 モノリスに触れ、画面を開きながら説明して見せるのだが……。

「文字が良く読めません……」

 彼女は目を凝らして難しい表情をした。

「これが『買い取り』でこっちが『購入』だな。それぞれ選択して決定の文字に触れるとそこの箱から品物が出てくる」

「なるほど、ちょっとやってみるので見ていてもらっても構いませんか?」

 キキョウは真剣な顔をすると横に並んだ。そしておそるおそるモノリスに触れてみる。

「あれ? 画面が切り替わりましたね……あっ、読めます!」

 キキョウは顔を近付けると目を左右に動かし始めた。

 今度は俺が読めなくなっている。

「なるほど、この石碑を通して買い物をすれば、様々な道具が手に入るのですね?」

 そう言うと、キキョウは文字に触れてみるのだが……。

「駄目ですね、ポイントとやらが足りないみたいです」

「どうやら、俺が溜めているポイントは引き継げないようだな?」

 それぞれが別扱いとなっているらしい。

「ポイントは迷宮にいるモンスターを倒した際に得られるドロップ品を売ることで手に入るぞ」

 俺が教えてやると、彼女は口元に手を当て考え込んだ。

「モンスターと……戦闘ですか?」

 途端に耳がペタリと伏せ、尻尾が震えはじめる。

「ああでも、金を入れるとポイントにしてくれるかもしれない。俺も最初はそうだったからさ」

 あまり乗り気ではない様子だったので、別な提案をしてみた。

「お金……」

 彼女は手を差し出してきた。俺は握手をする。

「いえ、そうではなくて……。貸していただけないかなと?」

「もう全部入れてしまったからないよ」

「そ……そんな……」

 絶望した表情を浮かべる。先程、俺に斬りかかってきた時の勇ましさはどこにも残っていなかった。

「はぁ、仕方ない。俺もちょうど狩りに行こうと思ってたから一緒に行くか?」

 キキョウ一人でも問題ないとは思うが、こうも不安そうな顔をされては仕方ない。

「いいのですか? ライアスは良い人ですね」

 耳をぴくぴく動かし、尻尾を揺らしながら抱き着いてくる。

 キキョウの服装は胸元が開きやすくなっており、抱き着かれた腕に柔らかい感触を感じてドキドキする。

 俺は無防備な彼女を連れると、迷宮に入って行くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。 一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...