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第66話 ベッドの上では豹変するサリナ

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 あらためて、気まずい沈黙が部屋を満たす。

 アリサは失敗したという表情を浮かべ膝に両手を置いて俯いているし、サリナは満面の笑みを浮かべ俺たちをみて笑っていた。

「いやー、まさか探していた異世界人がコウだったなんて、やっぱり私たちは運命で結ばれているっすねー」

 目的の人物が俺だと発覚したおかげで、国からの重要な任務を果たせそうだからか声が弾んでいる。

「黙っていたのは悪かった」

 本当はもっと早くに打ち明けるべきだった。
 サリナは俺を探すために無茶をして酷い目にあったのだ。うっかり口を滑らせて知られてしまったのは誠実な対応ではない。

「どうして、コウが謝るっすか?」

「そりゃ、俺が最初から正体を明かしていたらお前が危険な目に合うこともなかったろ?」

「どちらにしろ、コウが助けてくれたじゃないっすか。確かに嫌な目に遭ったし、怖かったし、あんな男たちに色んな部分を触られて気持ち悪かったすよ?」

「うぐっ……」

 気にしてないふりをして責めるような言葉を発するサリナ。

「でも、もしコウが最初から名乗っていたら、私はコウのことをこんなに大好きにならなかったと思うっすから」

 最初からターゲットとして接しなかったからこそ、俺のことを好きになったとサリナは言った。

 アリサは相変わらず難しい表情を浮かべ、何やら考えている。
 俺はというと、アリサが黙り込んでしまった手前、サリナの相手をしていて思考が纏まらない。

 他国の間者にバレたというのは最悪の状況なのだが、サリナ相手ならまだやりようはありそうな気がする。
 これまで接してきた中で、サリナは楽観的で短絡的、こちらの挑発にホイホイと乗る性格なので操縦しやすい面がある。

 間近で彼女の整った顔立ちを見つめていると、

「わかったわ。サリナ」

「ん、何すか?」

「ミナトとエッチしなさい!」

「はっ!? 何をいきなり言うんだよ!」

「いいから、こうなったのはそもそもミナトのせいなんだから言う通りにして」

 アリサは舌打ちをすると、目で圧力をかけ俺の言葉を封じる。

「エッチをすれば『オーラ』が目覚めるはずなのよね?」

「そうっすね、コウの資質は確かだし、この一週間の間、私が手を繋ぎながら『オーラ』を馴染ませてきたっすから、多分二・三十発もすれば行けるんじゃないっすか?」

「おまえ、もう少し恥じらいをもてよ……」

 花の乙女が口にするような表現ではない。

 俺は、突然のアリサの提案に困惑する。俺を真っすぐ見てくるサリナから視線を逸らし、彼女を見ると首を縦に振り頷く。
 一体どのような心変わりなのか、焦りを浮かべ、まるで急かすように行為に及ばせようとするアリサだが、彼女がそう判断したのなら必要なことなのだろう。

 俺はサリナの肩を掴むとベッドへと押し倒した。

「きゃっ!」

 サリナらしからぬ可愛いらしい声が聞こえ、黒曜石のような瞳が揺れ俺を見ていた。
 彼女の黒髪に触れ頭を撫でる。サリナは現実世界基準でもアイドル並みに可愛い。そんな彼女を抱けと言われて興奮するなという方が無理だった。

 右手が伸び、彼女の胸を揉む。

「んっ……くすぐったいっすよぉ。コウ」

 そのような言葉を出し身動ぎし、笑う姿により劣情が高まった。
 唇を寄せ、彼女にキスをしようとすると……。

「そっちはだーめ」

 なぜかサリナは両手で俺の口を塞いできた。先程、自分からしてきたくせにじらしているのだろうか?

「ミ、ミナト!?」

 アリサが焦り声を出す。行為を始めたあとも席を外す様子もなく、それどころか見届ける気で居座っていたのだが、やはり恋人が他の女に手を出す姿を見られたくなくて止つもりなのかと期待するのだが……。

「は、はやくそれをいれなさいよ!」

 逆だった、あまり長く見ていたくないからか、さっさと先に進めるように言ってきた。
 俺はサリナに覆いかぶさると、彼女と胸をすり合わせる。

「あんっ! 気持ちいいっすよ、コウ」

 表で話すとあれだけ憎たらしいサリナも、ベッドの上では可愛いところがある。彼女の言動一つ一つに興奮し、俺がいよいよ行為を行おうとしたところ……。

「はい、ストップっす」

「えっ?」

 視界が反転し、次の瞬間天井が目に映った。

「ふぅ、危なく流されるところだったっす。大好きな人と触れ合うのはこんなにも気持ちいいんすね」

 ひょっこりと、サリナが顔を覗き込んできた。
 お腹には彼女の尻が乗っており、湿っているのか少しぬるぬるする。

 完全に身動きを取れなくされた俺は、なぜいきなりサリナが豹変したのか気になった。

「ど、どういう……つもりよ?」

 アリサがサリナを睨みつける。もともとこの性行為はサリナの方から言い出したのだ。ここに来て翻す意味がわからないからだろう。

「どうって、流石の私もひっかからないっすよ」

「な、何の話よ?」

「一体、どういうことだよ?」

 アリサと俺の質問がはもった。

「はぁ、二人とも、演技が雑ぅーーーっすよ! そんなんじゃ誰も騙せないっす!」

 アリサは悔しそうに唇を噛み、俺は何が何やらわからなかった。

「しかし、危なかったっす『今回召喚された異世界人は切れ者だから気を付けろ。行動には必ず裏があるから疑え』秘書さんからの助言を思い出さなかったら失敗してたっすからね」

「だから、何が言いたいんだよ?」

 いい加減蚊帳の外というのは嫌だ。特にアリサとサリナが理解していて俺だけ解っていないというのが気分が悪い。

「コウと私『オーラ』習得するまで師弟の契約で結ばれてるっすよね?」

「ああ、その通りだな?」

 こいつのワガママでその契約が結ばれ、事実この一週間は命令三昧だった。

「コウとエッチして『オーラ』を覚えたら、契約が切れて命令ができなくなるっす」

「っ!?」

 アリサが痛いところをつかれたとばかりに苦い表情を浮かべ、顔を逸らす。

「このままエッチしなければ、コウは私に従うしかないっす。そうなれば、国に連れて行くのも余裕っすよね?」

「ミナト、強引にでもいいから! やって!」

 アリサが即座に言葉を発する。自分の思惑が見破られてしまったことで、他の方法がないと思ったのだろう。
 だけど、俺は動くことができない。

「無理っすよ『オーラ』を使えば私の方が力は強いっすからね」

 サリナの身体から『オーラ』が立ち昇る。まるで岩が乗っているかのようにびくともしなくなった。

「それに、粘膜接触で『オーラ』が習得できるのは、行為の時に私が『オーラ』を出していることが前提っす。強引にしようとしたり、身体の自由を奪ってしようとしても駄目っすよ?」

 彼女が先程キスを避けたのはそのためだったのだと気付く。

「お前! 普段は馬鹿なのに、馬鹿な振りしていたのか?」

 今までの言動からは想像ができないくらい頭が回る。普段の馬鹿が演技だったのではないかと疑う。

「失礼な! コウは私のことそんな風に思ってたんすね!」

 頬を膨らませたサリナは俺を睨みつけてきた。

「とにかく、二人には一度、国に来てもらうっすよ」

「……わかったわよ」

 サリナの命令に、俺もアリサも断ることができないのだった。

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