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第65話 『オーラ』習得の条件

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「それで連れてきたわけなんだが……」

 俺が宿舎の部屋に戻ると、アリサは嬉しそうに振り返った。
 そしてその後ろにサリナがいるのを見て一瞬で憤怒の表情を浮かべ俺を睨みつけてきた。

 肝を冷やした俺は、どうにか彼女の誤解を解こうと思い、サリナが襲われた件と、その後何故か俺とそういった行為をしたいと言い出したことを説明したのだが……。

「あんた……馬鹿なの?」

 説明を続けている内に、アリサの機嫌がますます悪くなるのがわかった。
 彼女は今や、射殺さんばかりの目で俺を睨みつけている。

「大体さ、私という恋人がいるにも拘わらず他の女を連れてくる? あまつさえ『こいつとエッチしていい?』って聞いてくる神経が理解できないわ」

「いや、俺はそこまで言ってないぞ」

 その許可を求めているのはサリナだ。

「同じことよ、私には、あんたがそう言っているようにしかみえない」

 だから連れてきたんでしょ? と瞳を潤ませ悲しそうな顔を一瞬見せた。
 俺とアリサの間に亀裂がはいったのが誰の目に見ても明らかだ。このままだと、別れ話を切り出されるのは時間の問題。
 そんな緊張状態にもかかわらず、サリナは……。

「まあまあ、私のために争うなっす」

 普段通りの調子で笑顔で煽ってきた。

「あんたのせいで争ってるのよ!」

 アリサはサリナに顔を向けると怒鳴る。一触即発の状況が生まれ、俺は息を呑む。

「それで、コウとエッチしてもいいっすか?」

 まるで俺たちの会話など知らないとばかりにあっさりと言葉を放つ。
 アリサは顔を真っ赤にすると思いっきり叫んだ。

「金輪際あうな!」

 呼吸を乱し「はぁはぁ」言いながらサリナを睨む。

「ひ、酷いっす。私とコウの仲を引き裂こうとするなんて……」

 大げさによろめいて見せるサリナだが、この程度でへこたれる女ではなかった。

「えっと、考え方を変えるっすよ」

 サリナは名案を思い付いたとばかりに指を一本立てる。

「はぁ?」

 こんな状況でも他人の話を聞こうとするアリサ。彼女の素直な部分は嫌いではない。

「コウは一般的なエロい男子。間違いないっすよね?」

「ええそうね、恋人がいるのに他の女に目移りするのは軽蔑するけど、男なんて皆そんなもんよね」

 俺への口撃が激しくなった。

「無理もないっす、私のような美女が傍にいればコウもムラムラするのは当然っすから」

「無性にお前を殴りたいんだが……」

 自意識過剰と言い切れないのが余計に腹が立つ。アリサを散々煽ってこいつは一体何がしたいのだろうか?

「男は性欲を持て余して困った時、風俗に行くっすよね? つまり、これもそういうことだと割り切ればいいんじゃないっすか?」

「「はっ?」」

 俺とアリサの声がはもった。こいつは一体何を言っているんだろう?
 理解できず、こんな時だというのに互いの目を合わせてアイコンタクトを送る。

「お前……それは流石に……」

 俺とエッチをしたいにしても自らを下げすぎだろう。
 アリサも呆れたのか、

「……なんか、あんたと話してると疲れるわ」

 こめかみに手を当てて視線を逸らし、サリナを視界にいれるのを拒否した。

「どうして、こいつじゃないとだめなの?」

 それでも、相互理解を深めようと、アリサはサリナに聞く。俺に執着する理由について。

「それは、男どもから身を挺して私の身体を守ってくれたっすから……」

「その代わりに身体を差し出してたら本末転倒でしょう!」

「それに……契約の件もあるっすから……」

「契約って……『オーラ』を習得させるやつよね?」

 アリサは俺に顔を向けると確認してきた。

「話したんすか、コウ?」

 サリナも俺をみて驚いた様子を見せる。

「そりゃあ勿論。アリサに許可をもらわないと後が怖かったし」

 財布を握っているのはアリサだし、サリナと二人きりになるのを良く思っていなかったので許可はとってある。
 手を繋がなければ習得できないという情報も即日共有済み。でなければ、偶然街で遭遇して浮気認定されるというすれ違いが発生しないとも限らなかったからだ。

「それで、契約とエッチにどんな繋がりがあるって言うの?」

 アリサは話を戻すとサリナに聞いた。

「それは『オーラ』を習得する条件がエッチだからっすよ」

「はあああああああああああああっ!?」

 あっさりと言い放つサリナに、俺は大声を上げた。

「あんた……知ってたのね?」

 大げさな態度に、アリサは俺も共犯とばかりに目を吊り上げた。

「いやいや、知らないって!!」

 ここに来て初めて聞く条件に俺は困惑した。

「本当にエッチしないとだめなの?」

 先程からとんでもない話ばかり飛び交うのだが、それが逆にアリサを冷静にさせたのか、彼女は淡々とサリナに疑問をぶつける。

「正確には粘膜接触っすね。でも、御母様からは『将来を誓い合った人じゃなきゃ駄目』って言われてるっすからエッチでもいいっすよ。コウには最初に話してあったっす」

「いや、確かにそれは聞いた! でも、そんな深い理由まで知らなかったぞ!」

「……あんなに情熱的に迫ってきたのにっすか?」

 サリナは口元に手を当て、頬を染めると身体をくねらせた。

「おまえっ! それ、わざとかっ! これ以上誤解されたら殺されるからやめろっ!」

 アリサからの殺意が高まるのを感じ、背中から汗がドバドバと流れた。

「はぁ、わかったわ。それじゃああんたの仕事はここまでで終わり。お金は支払ってあげるから、もう、彼に付きまとわないで頂戴」

 状況を把握したアリサは、手切れ金を支払うことでこの契約を終わらせようとしていた。
 俺も『オーラ』の習得は惜しいのだが、アリサに振られてまでは欲しくない。彼女に従うことにする。

「ところが、これ、神様に誓った本契約なんすよ!」

「「はっ?」」

「うっかりしてたっす。元々、別件で来ていたから心構えをしていたんすけど、目の前に大金が転がり込んできたんでつい……っすね」

 口約束で破棄が出来る普通の取引に対し、本契約は成立するまで解くことができない。

「それって……」

「コウが『オーラ』を習得するまでは金銭も受け取れないし、契約内容を変更することもできないっす」

 確かに、大金がかかっているから思わず契約で縛ろうとするのはわからないでもないが……。

「というわけで……しよ? コウ?」

 サリナは近付いてくると頬を赤らめて俺の服を掴んだ。

「認めないわっ! 契約が継続中というのなら、永久に成立しなければいいだけだし」

「でも、こと『オーラ』習得において、私はコウに命令する権利があるっすよ?」

 確かに、そう言う話になっている。当初はとっとと『オーラ』を習得するつもりだっただけに、こんなことになるとは思っていなかったからだ。
 サリナが一方的に命令できる状態で契約を残しておくのは良くない。何か他に方法がないだろうか?

 アリサなら、冷静にその辺を考え付いてくれそうだと期待しているのだが……。

「……させない」

「ん、何すか?」

 アリサの声が聞こえず、サリナは顔を近付け聞き返した。

「あんたなんかに、ミナトを好きにさせないっていったのよ!」

「ばっ……おまっ!」

 興奮して、俺の本当の名前を告げたアリサに、俺は声を掛けるのだが……。

「んんっ? ミナ……ト? それ、コウのことっすよね? その名前……『オーラ』を扱えそうな資質、黒髪……格好いい顔……はっ!」

 こういう時は何故か頭の回転が働くようで、サリナは真実へと到達したようだ。

「異世界からの召喚者、アタミ=ミナト! コウだったのかああああああああああああああ!」

 とうとうバレてしまい、サリナは俺を指差すのだった。
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