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第60話 デート? いえ、安心してください、特訓です!

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 日中の繁華街を、俺とサリナは手を繋いで歩いている。彼女は御機嫌な様子で鼻歌を歌いキョロキョロと周囲を見回していた。

「コウ、次はあれが食べたいっす。買ってこい!」

 サリナは目についた屋台を指差すと、俺にたかってくる。
 その無邪気な笑顔は、アリサにも劣らぬ美しさを放っているのだが、俺は青筋を浮かべサリナに怒鳴った。

「てめぇ、いい加減にしろ!」

 先程から、何度もこのやり取りをしていて、使いパシリをさせられている。
 黙って言うことを聞いていたらだんだん図に乗ってきたので我慢の限界だ。

「んん~? 師匠の命令には逆らっちゃいけないんすよ~?」

 サリナは右手を口元に当てニヤニヤと笑うと、挑発するような態度をとる。

「くっ……覚えてろよ、てめぇ!」

 俺は拳を握り締め、彼女を睨みつけた。

 『オーラ』を習う上で彼女から「教えるからには私の命令は絶対っすからね!」と念押しされ了承している。今の俺は彼女の命令に従う必要があるので、言い返すだけ損なのだ。

 俺が屋台の料理を買って戻ると、彼女はそれを幸せそうに食べながら、ふたたび手を繋ぐ。俺は、まるで子どもの面倒を見ているような気がして溜息を吐いた。

「いい加減、特訓に入って欲しいんだが?」

 俺は『オーラ』を身に着けたくてサリナに従っている。なのに一向に特訓は開始されず、なぜか繁華街を歩き回っているのだ。

「特訓なら、もう入ってるじゃないっすか」

 ところが、サリナはキョトンとするとそんな言葉を口にした。

「どこがだよ! さっきから屋台を制覇してるだけじゃねえか! ずっと手を繋いで、これじゃデートしてるみたいだろうが!」

 ときおり、にぎにぎと指を動かすので、サリナの手の温もりが伝わってくる。
 指を絡めたこのつなぎ方ははたから見れば恋人にしか見えず、すれ違う人々から生暖かい視線を向けられたので、間違いなく勘違いされていることだろう。

「で、デートだなんて、滅多なこと言わないで欲しいっす! コウとデートなんて冗談じゃないっすよ!」

 ところが、俺が指摘をすると、サリナは顔を赤くすると、不機嫌そうに反論する。顔を逸らしてブツブツと呟いており、完全に嫌がっている様子だ。

 少しして、彼女は俺を睨みつけると、

「こうして手を繋ぐことが『オーラ』習得の最初の特訓っすから」

 そう言って左手を持ち上げ、見せてきた。

「あん、どういうことだ?」

 俺は意味がわからず、彼女に聞き返す。

「そもそも『オーラ』とは魔力と異なる力を引き出すものっす。この力は誰でも持っているものっすけど、扱える人間がほとんどいないんすよ。それというのも、この力を習得する方法と言うのが『オーラ』を持っている人物と長時間接触する必要があるからなんす」

 サリナは食べ終えた串を俺に渡しながら説明をする。
 俺は彼女の召使よろしく、受け取った串をゴミ袋に入れた。

「コウが『オーラ』に目覚められるかどうかは正直わかんないすけど、私の『オーラ』が見えたのなら可能性はあるはずっす。それというのも、これまで『オーラ』を習得できた人物は覚える前からその輪郭を見ることができていたらしいっすから」

「つまり、サリナの『オーラ』が見えた俺には才能があるってことだな?」

「ええ、不本意っすけどね……」

「そこでどうしてそんな言葉がでるんだろうな?」

 師匠ということで調子にのっているのではないか? 俺は彼女の頭上に拳を振らせようかと思うのだが……。

「なるほど『オーラ』の習得には使い手と接触する必要があるのはわかった。だからって、なぜ繁華街を歩く必要がある?」

 今の話からして、別に触れていればいいだけでデートの真似事をする必要はないはず。

「それは、私の目的が人探しだからっす! こうしてコウと一緒に歩き回れば周囲からは麗しい美少女と下僕が買い食いをしているように映ってカモフラージュにもなるし、相手の情報を得られるかもしれないっすからね」

 一石二鳥の作戦とばかりにサリナは胸を張る。そんな自信満々な態度と、主張が激しい胸を俺は見るのだが……。

「そうだな、無事見つかるといいな」

 その探し人がまさか真横にいるとは気付いておるまい。
 サリナが俺の正体に気付かない限り、彼女の人探しが終わることはない。これは『オーラ』を習得するためサリナを拘束したい俺にとっては好都合だったりする。

「まあいい、そういうことならとことん付き合うから、行きたい場所に行こうぜ」

 俺はそう言うと、サリナを連れて歩くのだった。

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