俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい

文字の大きさ
上 下
55 / 76

第55話 迫りくる刺客

しおりを挟む
「ぐあああっがふがふんぐんぐっ! ……うううっ!」

 目の前では黒髪黒目の大和撫子が食事を摂っている。
 一体、あの小柄な身体のどこにこれだけの量が入るのだろう?
 積み上げられている皿は数十枚では済まない。

「ほら、水でも飲め」

 喉を詰まらせているサリナに、俺はエリクサーを注いだコップを差し出す。

「コクコク……ぷはぁ、死ぬかと思ったっす!」

 食べ物を流し込むと、袖で口元を拭う。その豪快な態度は大和撫子というよりは、現場で仕事を終えて居酒屋に繰り出す労働者のようで、荒々しい雰囲気を醸し出していた。

「それにしても、食事も美味しいし、水も美味い。この国はいいところっすね!」

「ああ。その水は俺が作り出したやつだからな?」

「マジっすか!? 城の魔導師が作った水を飲んだことあるっすけど、こんな清涼感もなかったっす」

 今の言葉で、サリナがどこぞの国に仕えているのがわかる。
 そもそもの話、日本人を親に持つということは、間違いなく召喚に関係している人物なのだ。

「それで、サリナは一体何しにここにきたんだ?」

 現実世界から異世界に渡った人物とその直系であるサリナの生き方には興味がある。それはこの先、俺とアリサが通る道だからだ。

「モグモグ……、実は人探しをしてるんすよ」

「ほぅ、人探しとな?」

 両腕を前で組み、目をキラリと光らせる。

「何でも、この国で凄腕の召喚者が現れたらしいんすけどね、そいつが超がつく程の切れ者で、様々な国からの勧誘を受けることを見越してフリーを貫いてるらしいんすよ」

「ん?」

 一体誰のことを言っているのだろうか?
 最近この国で召喚された人物と言えば俺しかいないはずなのだ。
 とはいえ、俺も最初「外れ召喚者」扱いされていてカウントされていなかったので、同じように外に放り出されてから才能が開花したパターンもあり得なくはない。
 俺は単に自由に生きたいから勧誘を断ったのであって、決して世界中の国々を天秤にかけるような意図は持ち合わせていない。
 それを「切れ者」などと言われるのは勘違いも甚だしい。

「そいつの名前は?」

 気になったので直接サリナに聞いてみることにした。
 おそらく秘密と言われる気もするが、いざとなれば飯を盾に脅せばいい。現時点で無一文のサリナには拒否する選択肢はないのだ。

「なんでも……アタミ=ミナトっていうやつらしいっすよ? 魔導を操り、武器を操る伝説の勇者を彷彿させるような超絶イケメンって話らしいっす」

 俺は両手で自分の顔を覆った。
 誰だよそれ! どんな噂が流れてるんだ?
 ここに召喚されたのは、元はごく普通の高校生だ。断じてサリナが言うような陽のオーラを纏いし者ではない。

「どうしたっすか? コウ? 腹が痛いならトイレはあっちっす」

 顔を覆ってるのに腹痛と思うあたりサリナは非常におかしいと言わざるを得ない。
 もしかすると、彼女の情報収集能力に問題がある可能性がある。そうだよな、よく考えたら目の前に本人がいるのに気付かない時点で色々残念過ぎるのだから。

「この情報は秘密っすよ。他国の人間もそのミナトという人物を狙っているっす。既に国内に多数の他国の間者が入り込み、ミナトに接触しようとしているんすよ。ここから先は時間との勝負。心配するなっす。私は運だけはいいっすから」

「うん、そうだね……」

 確かに、彼女の運は良いようだ。
 わりと速攻で俺のところまで来ているし、こうして一緒に食事をする縁までできている。
 問題は、俺が当の本人と気付かない点だけだ……。

 俺は食事を再開したサリナを改めてみる。楽しそうに料理を次々と口に運ぶ様子から、これまで幸せな生活を送ってきたのだろう。
 城や国の話が出ていたので、親娘ともども待遇は悪くなく、国に召し抱えられているのだろう。

 俺がこの国の勧誘を断ったことで、こうなると考えていたわけではないが、他国まで介入してくるとなると中々の大ごとだ。
 現時点で、俺がこの世界でやりたいのは、色んな場所に行って色んなものを見ること。
 アリサと仲睦まじく、これから先の人生を生きていくことくらいだ。

 サリナが言うように、色んな国から勧誘をしてくるというのなら、話を聞いてみるのはありかもしれない。
 この国での勧誘を断った元々の原因は、貴族と神殿の対応が問題だったのだ。中には気が合う団体も存在しているかもしれない。

「ちなみに、サリナはどういう条件で契約を持ち掛けるつもりなんだ?」

 手始めに、俺は彼女に条件を聞いてみることにする。こんな残念な言動をしているとはいえ、サリナはこれでも国を代表して交渉に来ているらしいので、一つの判断基準にしてみるのも良いかもしれない。

「ふっふっふ、コウは『契約』って知ってるっすか?」

「ああ、神様が異世界人をこの世界に定着させるため、契約を用いた条件を誓約により順守させるやつだよな?」

 アリサから説明を受けている。これにより、現実世界から召喚された人間は初期に契約を結ぶことで互いの関係を強化、他に横取りされなくなるのだとか……。

「見ての通り、私はか弱い女性っすから」

「お前のどこをどうみたらそう見えるんだよ?」

 確かに、黙っていれば大和撫子で護ってあげたくなる部類に入るのだが、あの怪力やこの豪快な食べっぷり、失礼な口の利き方を知っているととてもではないが同意する気にはならない。
 俺がその辺を丁寧に説明してやると、

「う、うるさいっす! 別にコウにそう思われたところでまったく不都合はないっすから!」

 果たしてそうだろうか?
 口を慎みたまえ、君は今、その召喚者の前にいるのだぞ?

「国王の秘書さんからは『勝負して負けた方が勝った方の軍門に下るように』と条件を吹っかけろって言われてるっす。どうせ召喚者は男で欲望に忠実だから、私の身体を見れば食いついてくるに違いないと言ってたっすよ」

「初手いきなり真っ黒じゃねえか!?」

 誰だよ、この世界にまともな団体があると思っていた愚か者は。諸外国からくる団体も大体こんな連中なのだとしたら、どこの勧誘も受けうわけにはいかない。
 細かい契約書を用意されたところで、きっちり細部まで読まないと罠が張られてているタイプだ。

 俺の言葉に、サリナは口をすぼめ不満そうな態度をとった。

「秘書さんが『どうせ優遇するような話をあなたにしても、覚えられないでしょう?  他国が介入している以上、取り合いになるんだからこれが一番確実』って。私に交渉させてくれたら篭絡も簡単っすのにね?」

「なるほど、おそろしい切れ者だなその秘書とやら……」

 確かに、サリナは一見すると大和撫子のか弱そうな美少女だ。
 彼女にそんな風に勝負を迫られたら、異世界に召喚されたばかりの俺なら喜んで勝負に乗っていたに違いない。そして、彼女の怪力を目の当たりにして破れていた可能性もある。
 つまり、秘書とやらがとった方法は、初見では躱しようがない嵌め手のようなもの。それで契約で縛って国に連れて行けばあとはどうとでもなるというわけだ。

「問題は、こいつのアホさまでは測り切れていなかったということなんだよな……」

「ん、なんすか? コウも私の魅力に落ちたっすか? 駄目っすよ? 私は自分より強い人間じゃないと男として認めないと決めてるっすからね」

 はむはむとデザートを口に運んでいる。自分が既に本人に情報をすべて伝えてしまったということにはまだ気付いていないらしい。

(それにしても、アリサは流石だな。これを見越していたのか?)

 今回の仕事を偽名で登録するように勧めてきたあたり、他国の人間が入り込んでいるのはこの国の人間は把握しているのかもしれない。
 先程のあり得ない人物像も、そう考えると情報操作だろうか?

「ん、どうしたっすか? コウ?」

 俺が立ち上がると、サリナはニコニコしながら聞いてきた。

「嫁が待ってるから帰る。後は好きにしておいてくれ」

「えっ!? コウに嫁が……? 政略結婚っすか?」

 失礼なことを言うサリナだが、いちいち腹を立ててはいられない。これ以上彼女に絡む理由がなくなったからだ。

「それじゃあ、また会うっすよ! コウ」

「ああ、その時がくれば、また……。な?」

 笑顔で手を振るサリナを置いて、俺は店を出るのだった。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...