上 下
50 / 76

第50話 魔法の特訓

しおりを挟む
 人気もなくモンスターもいない、王都から一時間ほど走った先にある周囲を草木に囲まれた広場で、俺は魔法の特訓を行っていた。

 魔力を全身から捻り出し各属性へと変化させる。

「くっ! うぬぬぬぬー!」

 体内の魔力が動くのだが、出るまでに抵抗を受けているような感覚があり苦労している。
 アリサ曰く「ミナトは変換効率が悪すぎる。風属性への変化に成功しているとはいっても、これじゃまだ実用できないわ」とのこと。

 実際、俺がアリサに教わって衝撃波を発生させる魔法を使ったところ、一発で魔力が枯渇してしまった。

 現時点でどうやら俺には魔導師20人分の魔力が備わっているらしく、魔力を測る魔導装置で数値化したところ2023という数字が出ていた。

 衝撃波を起こす風魔法は初級レベルの魔法で、アリサが使えば消費する魔力は2程度だという。
 つまり、俺は自分の魔力量にあかして魔法を成立させているだけで、魔導師としては落第ということになる。
 そんなわけで、少しでも魔力の変換効率を良くするため、数をこなすことにした。

 そうなると、街中で魔法を連発するわけにもいかない。
 衝撃波を起こす魔法は威力が低いとはいえ、大人くらいなら吹き飛ばすことができる。
 たとえ直撃せずともホコリが舞い上がったり、スカートを跳ね上げたりしてしまうので、アリサから影響のない場所でやるように言われたのだ。

 今のところ、魔法の師匠であるアリサがいないのは、これまで王都で仲良くしてくれた知人・友人にあいさつ回りをしているからだったりする。
 余談だが、俺もついて行こうか? と確認をしたところ「あんたは来ないでほしい」と照れ隠しをしてみせた。

 心の底から嫌がっているように見えたが、アリサはベッドの上ではとても素直で可愛いのだ。きっと、照れているだけに違いない……よな?

 そんなわけで、今日のところは一人で特訓をしている。

「風よ! 吹き飛ばせ!」

 ――ゴオオオオオオオオオオオオオオ――

 強風が飛び、草木を揺らす。
 生えている雑草は俺の胸元程の高さがあるので先に何があるかはわからない。なので、魔法は空へと放つようにしていた。

「ぜぇはぁ……少しだけ……ほんの少しだけ疲れがマシになったか?」

 息を切らせながらエリクサーを飲む。魔導師20人分の魔力すべてを注ぎこんで魔法を成立させるので、使った直後は本気で疲労がたまって辛い。
 錬金術ギルドのギルドマスターの婚活話を10時間聞かされたくらい、精神が疲弊している。

 エリクサーを飲めば魔力も精神力と思われるものも回復するのだが、頭のどこかには疲労の記憶というか、疲れていた時の感触が残っている。
 何度も繰り返すのは中々に辛い。

「はぁ、少し休憩……」

 レジャーシートを広げ腰掛ける。収納魔法を使ってバスケットと水筒を取り出した。
 出掛ける前にアリサが用意してくれた手作り弁当なのだ。

 訓練も兼ねて、魔力を練り上げ水を生み出し手を洗う。このくらいなら魔力も持つので問題ない。
 ワクワク蓋を開ける。中にはサンドイッチと唐揚げが入っていた。

「忙しいだろうに……」

 早朝の、俺が起きる前から料理をしたのだろう、サンドイッチの形が歪だったり、唐揚げが焦げているが、アリサが俺のためを思って作ってくれているのだから感謝しかない。
 俺は彼女のことを思い出しながらサンドイッチに手を伸ばした。
 口の中一杯にハムの旨味が広がる。

 アリサが作ってくれたというだけで本来の百倍は美味しく感じた。

「今頃、どうしているのかな?」

 彼女がいる王都へと視線を向けるのだが、草木に遮られてみることができない。
 食事を終え、しばらく横になって休憩する。

 風を感じ、もしかすると自然に逆らわず強引に魔力を通すのではなく流れに身を任せるのでは?と、何となく極意のようなものが思い浮かんだ。

「多分だが、強引に魔力を引っ張るんじゃなくて……」

 魔力をゆっくりと動かす。すると、流れてきて途中からつかえるような感覚が現れ始めたのが解る。
 おそらく、ここから強引に流す魔力は風属性に変換されず消えて行っているのだろう。
 俺は意識的に流す魔力を少なくするようにコントロールをすると……。

「風よ! 吹き飛ばせ!」

 先程と同じ、強風が飛び草木を揺らした。

「さっきまでより全然疲れてない!」

 魔法を放った両手を見て、息切れしていないことに気付く。

「コツを掴んだぞ!」

 エリクサーを飲みながら何度も魔法を連発する。周囲で見ていたらさながら台風の目の中心といったところだろうか?
 魔法を使い続けるうちに、段々とエリクサーを飲む頻度が減ってくる。

 一度使うたびに魔力の変換効率が良くなっているに違いない。

「……今なら、もうワンランク上の風魔法も使えるんじゃないだろうか?」

 アリサに習っている風魔法は中級まで。初級の風魔法はアリサの魔力を2消費するのに対し、中級は6消費するらしい。
 これまでの俺なら、初級がやっとだったが、多少魔力の変換効率が良くなっているので、ギリギリ足りるかもしれない。

 アリサから「思い付きで行動すると、ろくなことにならないから、私がいる前でなきゃ駄目だからね? 振りじゃないんだから! 絶対よ?」と言われているのだが、突然進化して中級まで使えるようになり、恋人に良いところを見せたいと考えてしまう。

「一回だけ……やってみるか?」

 アリサがあれだけ前振りをしてくれているのだ。ここでやらなければ逆に失礼というもの。

「暴風よ! すべてを巻き上げろ!」

 ――ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオ『キャアアアア』オオオオオオ――

 先程までとは比べ物にならない、まさに自然災害と言った竜巻が発生し、前に進んでいく。
 竜巻は草木を押し倒し、通った場所は草が潰れ木が引き抜かれ視界が通っていた。

「中級になっただけでこれか……。街中で使うのは確かに危険すぎるな……」

 竜巻は既に遠く離れた場所まで進んでおり、徐々に威力が弱まっている。巻き上げた木が草原にぼとぼとと落ち始めていた。

「とりあえず、他の属性の初級魔法も使えるようにするか……」

 風属性はどうにか中級まで使えるようになったが、他の属性への変換は甘いので、初級すら怪しい。
 俺はそう考えると、少し他の属性の練習をしてから特訓を切り上げるのだった。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...