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第39話 迷宮探索①

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「ん? 何か見られてるな……」

『銀の槍』との決闘から一夜が明けて、俺たちは予定通り迷宮の入り口を訪れた。
 迷宮入り口前で受付をしている俺たちに、周囲の探索者が視線を送ってくる。

 ヒソヒソと内緒話をしており、内容が気になった。

「まあ、あれだけ派手にやればね」

 アリサはそう言うと、欠伸を噛み殺した。
 昨晩は臨時収入があったこともあり、普段より高価な酒を注文し遅くまで盛り上がった。
 結構呑んでいたので酒が抜けていないのだろう。

「それにしても、ミナトは相変わらず元気ね」

「俺はエリクサーを飲めばどんな二日酔いも一発で治るからな」

 お蔭でどれだけ酒を呑んでも平気なのだが、高い酒を呑むと財布の中身が減るので注意が必要だ。

「それで、調べておいてくれたか?」

 俺はアリサに確認をする。

「ええ、例の受付の娘に聞いておいたわ。『銀の槍』の連中が普段迷宮のどの層で狩りをしていたかね」

「連中は当分迷宮に潜れないだろうし、多少はアイテムを卸してやらないとな」

 決闘で他のメンバーも戦いに加わってきたので、彼らには徹底的な攻撃を加えている。
 酷いのだと全治一年、短くても数ヶ月は身動きがとれないだろう。
 そんな訳で、俺はアリサに情報を収集してきてもらい、彼らの代わりに迷宮産の資材を集めることにしたのだ。

「それにしても、あんたやりすぎよ。結構容赦ないわよね」

 迷宮に足を踏み入れ、奥を目指しているとアリサが半眼で俺を見る。
 昨日の決闘が終わった後も若干引いているようだった。

「この世界って、わりとクズな人間が多いから。やれるときにやっとかないと後が怖いかなと」

 綺麗に勝つつもりならそれもできたが、痛みを伴わない制裁では相手が調子に乗る。
 実際、この世界に来たばかりのころ、俺を利用しようとした冒険者がいたが、その後売られてしまった。
 最初の段階で、もう関わりたくないと思わせなければだめなのだ。


「ミナト、モンスターよ」

 そんなことを考えていると、モンスターとエンカウントする。

「ゴブリンが三匹か。アリサやる?」

「うーん、魔法が勿体ない」

 できればやって欲しいのだが、彼女は満面の笑みを浮かべると俺に仕事を押し付けてきた。

「こいつら倒しても楽しくないんだよな」

 接近してくるゴブリンに合わせて剣を三度振るう。

『ゴブ?』

 動きが遅すぎるので、ゴブリンたちは斬られたにも気付くことなく次の瞬間絶命した。

「流石ミナトね、この調子で宜しくね」

 アリサはこの先のモンスターも押し付ける気満々のようだ。

「はぁ、とりあえず、最短を駆け抜けるからな」

 こんなところで時間を掛けてばかりいられない。俺はアリサにそう言うと、走る程度の速度で迷宮の奥を進み始めた。


「アリサ、俺が抑えてるから頼んだ」

『シャアーーーー』

 目の前に大量のリザードマンウォーリアが存在している。この二足歩行のトカゲは身長が二メートル程で、太い尻尾を持っている。
 さらに五メートルは届きそうな槍に急所を守る胸当て、おまけに鋭い歯を見せて俺を威嚇してきた。

 それが集団でいるのだから、武器の差を考えると中々に厄介な相手なのだが、

 ――カン! カン! カン! カン!――

 俺の『防護のネックレス』効果により目の前に障壁が展開されているのでまったく問題ない。

「ファイアアロー」

『ギャアアアアアアアアアア』

 アリサが背後から魔法を唱え火の矢を放つと、リザードマンウォーリアは叫び声を上げ絶命していった。

「よし、効率的」

 俺もアリサも決定力があるので、二人揃って攻撃に回ってもいいのだが、一匹ずつ斬るのは効率が悪いし、ほぼ無制限に使える防御手段があるのだから利用しない手はない。

「さて、それじゃあ収納していくな」

 俺は、収納魔法を唱えると、亜空間へのゲートを開いた。

「にしても、ミナト一人でよくない?」

 アリサは不満げな表情を浮かべている。それというのも、俺が収納魔法を使えるようになってしまったからだ。

「まさか、魔力777で開くとは思っていなかったが、その分収納できるスペースも広いんだよな」

 彼女より高い魔力にゲート口が設定されていたので、俺が開く収納魔法の容量は相当にでかい。

「私は習得するのに二年も掛かったのに、ミナトは半月なんてずるいわよ」

「これも、エリクサーのお蔭なんだけどな」

 暇な時間さえあれば何度でもトライできたので、掛かるのは単純な時間だけ。自分の魔力量の範囲にゲート口があれば誰でもいずれは使えるようになっていただろう。

「普通、そこまでの魔力を消費したら滅多に開けなくなるのに、エリクサー飲めば一日に何度でも開けるというのもおかしいからね」

 アリサも相当魔力を持っていかれるので、多様できないのがこの収納魔法だ。普通は狩りの獲物をまとめておいて最後に収納するものらしい。

「これで、リザードマン系ウォーリアは五十匹だ。もう十分なきがするな?」

『銀の槍』が数日籠って狩ってくるらしいリザードマンウォーリアは数匹。既に彼らの十七倍も働いている。

「ええ、リザードマンウォーリアの皮膚は皮鎧の外側に張ったりして斬撃への抵抗を高めるものなのだけど、これだけあれば当面はもつでしょう」

 主に駆け出しの探索者や冒険者が愛用している防具だが、これだけの数があれば数年は大丈夫だろう。

「じゃあ、ここからミナトの好きにしていいわよ」

 獲物を確保したところで、アリサの許可が下りる。

「それじゃあ、もっと奥に行ってみようぜ」

 俺はアリサを促すと【警告エリア】と呼ばれる上位モンスターが現れる層へと足を踏みいれるのだった。

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