俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい

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第30話 ヘンイタ男爵と神官に復讐をする

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「何かね、枢機卿?」

 国王が眉根を寄せ、神官に話しかけた。
 俺は、あの神官がそのような高い身分だったことに驚く。

 すると、枢機卿は意を得たとばかりに笑うと、

「この異世界人ですが、実は私どもが召喚した人物なのです! なので、勝手に手を出されては困りますな」

「はっ?」

 あまりにも身勝手な言葉に開いた口が塞がらない。

「それは誠か、ミナトよ?」

 国王は枢機卿から視線を逸らすと俺に事実を確認する。

「確かに、俺が召喚された当時、あの神官はいました」

「ほらっ!」

 肯定したことで、枢機卿は水を得た魚のようにはしゃぎ、言葉を続けた。

「神殿の魔力と資材を使って召喚したのですから、当然所属権はうちにあるということになりますな」

 この世界のルールなのだろうが、召喚された人間を物扱いしているようで不愉快だ。

「むぅ……確かにその通りではあるが……」

「ですので、彼に対し仕事を振る場合、我々神殿を通して頂かなければ困りますな」

「確かに、神殿に所属している異世界人を横から勧誘するようなことはできない」

 国王の言葉に、枢機卿が勝利を確信した笑みを浮かべるのだが……。

「だけど、俺に手切れ金払って追い出したじゃないですか?」

 次の瞬間、枢機卿の表情が固まった。

「どういうことかね?」

 国王が俺に確認をしてきた。

「当時、俺は今回と変わらず『エリクサーが作り出せます』と説明をしたのですが、効果が発揮できなかったからか、当面の生活費を渡して追い出されたんです」

「それは本当なのか?」

 俺の訴えを聞いて、周囲の人間の冷たい視線が枢機卿へと突き刺さる。

「いや……それは……そうだ! 誤解なんだ!」

 しどろもどろに狼狽えていた枢機卿だが、何かを必死に考えたすえにそう叫んだ。

「神殿では異世界人にこの世界に慣れてもらうため、まず金貨を十枚持たせて外に出すんだ。そこで経験を積んだ後、神殿所属とし、多くの恵まれない人の為に働くことになるのだ」

 とってつけたような言葉に、俺は軽蔑の視線を送った。

「そもそも、異世界に来たばかりで能力が育っていない人間を外に出すのがおかしいでしょう? もし俺が適性を持たず、最初の段階でモンスターに殺されていたらどうしてくれたんですか?」

 実際、最初の内は命がけだった。そんな無計画な放り出し方があってたまるか。

「俺が助かったのはそこにいるアリサのお蔭です。彼女は俺の手持ちが足りないにも関わらず武器を売ってくれ、その後行方不明になった時も探しに来てくれたんです」

 金がないのにまけて魔導剣を売ってくれたし、ユグド樹海まで探しに来てくれたことには感謝してもしきれない。

「正直、使えるようになったからと言って今更声を掛けてくるなんて不愉快としか言いようがない」

「うぐっ…………」

 枢機卿は二の句が継げず苦い表情を浮かべる。最初に俺を追放しなければ彼の元で力を奮っていた可能性があったのだが、こうなってよかったとすら思える。

「すると、ミナト。錬金術ギルドに所属しているのかな?」

「いいえ、厄介ごとがあるということで一時的に保護をしておりましたが、特に錬金術ギルドには所属しておりませんよ」

 錬金術ギルドのギルドマスターがキッパリと答えた。

「それならばよい。ミナトよ、我の勧誘を受けてもらえるかな?」

 俺が無所属というところまで確認すると、国王は右手を前に出し、改めて俺を勧誘してくる。
 国のトップ自ら勧誘するということは、俺の能力の使い方を考えているのだろう。ここで頷けば、国仕えという異世界召喚人生最高の待遇が待っているに違いない。

 だが、俺はヘンイタ男爵を見て、次にアリサを見た。
 アリサは両腕を前で組むとことの成り行きを見守っている。

「実は、一つ懸念があるんですが……」

「申してみよ」

 俺はヘンイタ男爵と目を合わせると国王に事情を話した。

「先程、俺が行方不明になったと言いましたが、それはある人物に暗殺されかけたからなのです」

「ほぅ、暗殺とは物騒な話だな」

 周囲が騒めき、先程までとは比にならないくらい不穏な空気が流れる。

「ことの発端は、ある乗馬教習場でとある貴族が教官に対しセクハラ行為を働いていたのです。そして俺が止めたところ『俺は男爵だぞ! 逆らってこの国で生きていけると思うな』と言われ、実際その後冒険者ギルドでの嫌がらせが始まりました」

『なんと言う……』

『そのような恥さらしが……』

 悪事というのは明るみに出ないからこそ当人は強気で振る舞うことができる。だが、トップがまともな人間であれば、こういう場で大事にすれば正しい判断が行われる。

「ウグググググググ……」

 余計なことは言うなとばかりに顔を真っ赤にし、目を血走らせてこちらを睨みつけてくるヘンイタ男爵。俺は遠慮なく彼のことを糾弾する。

「結果、仕事に困った俺にユグド樹海の洞窟で採取依頼が舞い込みました。そして洞窟を訪れたところ、魔導師によって壁が塞がれてしまったのです」

『それは酷い、人間のやることではない』

『貴族の末席にも置けぬ』

 場の空気が暖まり、いよいよ期待通りの流れが出来上がる。

「つまり、何が言いたいのだ? アタミよ?」

「俺はそのような外道に命を脅かされる状況でこの国で働きたいとは思いません」

 自分が生きていくだけならこの国でなくても構わない。文句があるなら出て行ってやる。そう言う姿勢で国王の勧誘に返事をした。

「ちなみに、揉めた貴族というのは?」

「はい、そこにいるヘンイタ男爵です」

「わ、ワシは貴様なんぞ知らんぞ!?」

 名指しされると解っていたのか、即座に否定してくるヘンイタ男爵。

「国王の前での嘘は厳罰対象ですよね?」

「うむ、今聞いた話が本当なら御家取り潰しでも構わぬが、我が前での虚偽は不敬罪が成立するので極刑だな」

「閉じ込めた時、そこに冒険者と雇われの魔導師がいてはっきりと彼の仕業だと言ってました。そちらを連れてきて真偽を問いただしてもらいたいです」

「うむ、手配しておく。そこのヘンイタ男爵は事実が確認できるまで拘束せよ」

「貴様あああああああああああああああああああああ!」

 俺の言葉により、窮地に追い込まれたヘンイタ男爵は兵士に連れていかれてしまった。
 やつはアリサにも危害を加えていただけに、絶対に許すわけにはいかない。

「さて、ミナト。これでどうだろうか?」

 枢機卿やヘンイタ男爵の件も片付けてもらったので、これ以上断るのも申し訳なくなってくる。
 だが、やはり一定の自由は欲しいと思う。

「俺がちゃんと役に立てるかは正直自信がありません」

「それに関しては問題ないぞ」

 国王の言葉に俺は首を横に振ると、

「ひとまずどこにも所属することなく、俺に仕事を振りたい人の依頼を請けるということでお願いしたいです」

 縛られて後から無理な仕事をさせられるの避けたかった。誰の仕事でも引き受ける代わりに、俺はこうして自由を確保することにした。

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