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第3話 ナッツラットとの戦い
しおりを挟む「まずは、森にでも向かうとするか。上手くモンスターと遭遇できるといいんだけど……」
こちらに召喚された時、この世界の一般的な知識は得ている。
俺が召喚されたのは魔法やモンスターが存在するファンタジーのような世界で、 街の外にはモンスターが存在し、森では錬金術に必要なハーブが、鉱山では鍛冶に必要な鉱石を採ることができる。
街の中で商売をする人間以外は、外に出てそれらを採り、生計を立てるのが一般的らしい。
そんなわけで、この世界で生きていくため、俺は彼らと同じ行動をすることにした。
「街から離れなけれそんなに強いモンスターが出ないらしいけど……」
近場に現れるのは、小型のモンスターだけなので成人した大人であれば倒すことはそう難しくない。
『キキキィ!』
茂みから何かが飛び出してきた。
「うわっ!」
齧歯を生やした、サッカーボールくらいの大きさのモンスター。【ナッツラット】。鋭い歯で噛みついてくるモンスターで、噛まれると痛いらしいが余程のことがない限り致命傷にならず、遭遇しても逃げるのが容易なのでこの世界の住人からも脅威と思われていない。
「とりあえずこいつでいいか」
一匹だけの登場ということもあって初戦闘の相手としてふさわしいだろう。
俺は、冒険者ギルドでレンタルした剣を抜くと、重さで右手が下がった。
「重いな……、ちゃんと振れるか?」
体育会系の部活でもなければ剣道を習っていたわけでもない。素人が武器を扱うというのは中々難しいのだと改めて認識する。
「悪くおもわないでくれよ?」
目の前で威嚇行動を繰り返すナッツラットを注意深く見ながら剣を握り直した。
これから生き物の命を奪うということに緊張するが、現実世界とは違い、この世界で生きるためには遠からず手を汚すことになるので、躊躇っていてはだめだ。
ナッツラットが飛び掛かってくるのに合わせて俺は剣を当てにいった。
『キキィーーーー!!!』
「当たった!?」
ナッツラットの頭部を浅く斬り、嫌な感触が手に伝わる。罪悪感が湧き、攻撃を躊躇してしまった。
『ギギギギギギギギィーーーーー!!!』
「痛えぇぇぇーーー!?」
ナッツラットの戦意は衰えず、すばしっこい動きで俺に近づくと足に噛みついてきた。
「このっ! 離せっ!」
剣を振ろうにも近すぎて振れないし、突き刺そうとすれば自分の足まで攻撃してしまう。足に痛みが走り混乱していると、視界に大きな石を発見した。
何度もナッツラットを殴りつける。手に感触が伝わるが、こちらも必死だ。
『キュゥ』
どうにか倒すことができたようで、ナッツラットは力を抜くと地面に横たわった。
「ふぅ、手強かった……」
初の戦闘をどうにか終え、息を整えていると、ナッツラットから光が出てきて俺の身体に吸い込まれていった。
「これが、経験値みたいなやつだっけ?」
この世界ではモンスターを倒すとこのような光がでてそれを吸収することで自分の力にすることができる。
「少しは強くなれたか?」
冒険者はモンスターを討伐することで経験を積み強くなることができるので、こうしてモンスターを倒せるのなら俺だって成長できるだろう。
「それにしても、雑魚モンスターとはいえ油断すると酷いな」
現実世界なら縫わなければならない怪我をしているが、こちらの世界には治癒魔法やポーションなどが存在しているので、金さえ払えばこの程度の傷は治してもらえる。
「一回の治療費を考えると赤字だと思うけど……」
モンスターに遭遇するたびにこれでは先が思いやられる。
「ふぅ、戦闘で喉が渇いたしエリクサーでも飲むとするか」
他の人間に効果がなかったとはいえ、飲料として活用する用途もある。俺はエリクサーを飲みながら「飲み物として売れば生活できたりして?」 などと、どうにか自分の能力で商売できないか考えていると……。
「えっ? 痛みが一瞬で引いて怪我が治ってる。それどころか、体力も回復してないか?」
先程、ナッツラットに噛まれた傷が塞がっている。少しの間考えると、もしかしてと推測が浮かんでくる。
「いやいや、まさか……そんなわけが……?」
この世界に転移する際に授かった知識が間違いないとすれば、やはりこの飲み物はエリクサー。なぜ他の人間に効果がなかったのか、その原因は……。
「もしかして、このエリクサーは俺にしか効果がないとか?」
俺はポツリと呟くと、確かな効果を発揮したエリクサーの空き瓶を見続けるのだった。
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