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第18話 及第点の評価
しおりを挟む「それにしても、意外とやるじゃん」
その日の移動を終え野営になると、ミアが声を掛けてきた。
ショウジュさんは荷物のチェックをしており、ナタリーは武器の手入れをしている。
「そうですね、あれだけ戦えるのであればそこまでナタリーの足を引っ張ることはないかと」
アメリアは不承不承といった感じで頷くのだが、まだどこか納得していないように見える。
とはいえ、戦闘時にきちんと支援魔法を掛けてくれたこともあるので、俺から彼女に対する不満はない。
「いやいや、冒険者の間でも名を馳せた剣士であるナタリーさんについていける者はそんなに多くないですよ」
そんなことを考えていると、ショウジュさんがナタリーについて教えてくれた。
どうやら彼女は街の冒険者の中でも一角の人物らしく、商人から専属護衛にならないかという誘いが多数あるらしい。
先程の戦闘で見た彼女の頼もしさから考えれば当然の誘いなので、俺は納得してしまった。
「そんなに強かったんだな。本当に悪かった」
コボルトとの戦闘前に彼女が言った言葉を思い出す。
ナタリーは俺が足を引っ張っても本気でコボルトを倒し切るつもりだったようだ。
「別にいいさ。あんたを侮ってたのは私たちも同じ。だろ?」
一度言葉を区切り確認してくる。
「そういえばそうだったな」
ニヤリと笑って見せる彼女に俺も笑い返す。
一度一緒に剣を持ち戦っただけだが、命を預け合った感覚があるからか信頼が深まった気がしている。
「それにしたって、勝負を挑んでおいてまさか負けるなんてねー」
そんなナタリーとの関係に心地よさを覚えていると、ミアが横からちょっかいを掛けてきた。
「途中の戦闘も突っ込みすぎだったし、最後は棒立ちになってたし」
ナタリーの剣捌きが美しく見惚れてしまっていたのだが、事実なので言い返すことができない。
「我が身を顧みない突進で見ていてハラハラしました」
アメリアの咎めるような視線に罰が悪くなる。
「し、仕方ないだろ、初めての実戦だったんだから」
まずい戦闘を行った自覚はあった。
モンスターと戦ったり、命の駆け引きをしたり、初めて生き物の命を奪ったりしたせいか、冷静ではいられず頭が真っ白になってしまったのだ。
そのような動きをした俺は、彼女たちからみてさぞ不恰好に映ったことだろう。
「別に勇猛果敢なのは良いことだ。戦場で行動しないやつに比べれば全然ましだからね」
「ほらな?」
ナタリーのフォローに安堵する。
俺はホッと息を吐くのだが……。
「だけど、あんたは剣の性能に頼っているのが駄目だね。剣を召喚するなんて凄い魔法だが、己の技量だと勘違いしているとそのうち死ぬよ?」
ナタリーはギロリと俺を睨みつけると、耳に痛い忠告をしてきた。
「うっ……」
今の俺の身体に宿る力は借り物だ。なんとなく転生特典で選んだ能力で、知識こそ確かに持っているが、経験は追いついていない。
ナタリーの言葉は、異世界転生して楽天的になっていた俺の心境を見抜き、冷や水を浴びせようとしてきたかのようだった。
「ほらほら、だから言ったじゃん」
ミアがさらにからかってくるが、このままではいけないと感じた俺はそれに答える余裕がない。
このままでは遠からず危険に飛び込まざるを得ない。だが、それを解消するにはどうすれば良いかわからない。
「明日から朝一時間早く起きな」
すると、唐突にナタリーがそんな命令をしてきた。
「技能は一朝一夕に身につくものじゃない。夜寝る前に一時間、朝起きてから一時間剣を振るだけで一ヶ月後、半年後、一年後は随分と差がつくもんなんだよ」
「つまり、俺を鍛えてくれるということか?」
最初は望まぬ同行者という感じであしらわれていたのだが、ここにきて面倒を見てくれるということに驚いた。
「今のままじゃ危なっかしくて見てられないからね。言っとくけどしごいてやるから覚悟しなよ?」
「それは怖いな」
これまでよりも鋭い視線を向けられ、背筋がゾクリとする。
「御愁傷様」
そう言ってからかい肩を叩くミアと、
「はぁ、それでは朝食の準備は私とミアでしなければなりませんね」
何だかんだでその提案を受け入れてくれるアメリア。
「ナタリーさんに鍛え上げられたタクマさんがどれだけ強くなるか楽しみですな」
他人事のように期待をかけるショウジュさん。
護衛依頼を受けてからしばらく経ち、何だかんだで居心地の良さを覚えている自分がいた。
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