42 / 43
連載
第44話 深夜の密談
しおりを挟む
ふと夜中に目が覚めてしまった。
両隣を見ると、ベッドにはシーラとミラが横たわっており、シーラは幸せそうに寝息を立てている。
同じ部屋に、昨日までまったく知らない人間がいる状況と言うのは気を張ってしまう。
シーラの態度を見る限り、信頼できる人物なのだろうが、付き合ってもいない異性だとどうしても意識してしまうのだ。
俺は起き上がると部屋を出て外にでる。
この九層はバベル内でも一般人が住む場所なので治安も良く、女性でも安全にであることが出来る層だ。
上を見上げると、えすかれぇたぁの輝きが上層まで届き幻想的な美しさを放っていた。
外界の連中は、深淵ダンジョンと呼ばれる中にこのような国が存在し、人々が営んでいるとは考えもしていないだろう。
この世界から脱出するルートは俺が考える限り一つ。
中央に建っている【ディオス城】を訪れそこから伸びている建物の上にある階段を登ることだ。
話を聞く限り、あの階段は上に空いている穴まで繋がっている。俺たち外の世界の人間がそれぞれの国の入り口から入ってくることを考えると、使われていないあちらは特別な場所。出口へと繋がっているのではないだろうか?
それを調べるためには、まずあのディオス城へ入らなければならない。
十二貴族になる、もしくは神王に見染められれば入城が認められるはずなので、今は俺もシーラも力を付けてそれに備えるべきだろう。
そんなことを考えていると、ドアが開く音がして一人の女性が出てきた。
「こちらにいらっしゃったのですね」
ストールを肩に掛け、寝間着のまま出てきたミラは俺に話し掛けてきた。
彼女は髪を払いながら隣に来ると、
「もしかして寝付けなかったのでしょうか?」
そう聞いてきた。
「それは、そちらも同じじゃないのか?」
俺が切り返すと、ミラは表情を変化させる。
「……どうして、そう思われましたか?」
「俺が身体を起こした時、シーラは口を開けて寝息を立てていたが、あんたは息を殺していたからな。もしかして二人で話したいことがあるんじゃないかと思ったんだが?」
俺も彼女も神経質な人間なのだろう。よく知らぬ異性がいる傍で安心して眠ることができない。にもかかわらず、息を殺して俺の動きを探っていたのには理由があるはず。
「なるほど、その冷静さをもってこのバベルで生き抜いてこられたのですね」
彼女は俺に向き直ると頭を下げた。
「このたびは、姫様をお救い頂きありがとうございます。姫様はトラテム王家に残された最後の王族。彼女なくしては復国はありえませんので……」
「別に気にすることはない。俺は自分の生存率を上げるため、シーラと協力しただけだ」
礼を言われるほどではない。
「それにしても、ミラはどうしてそこまでシーラを気にかけている? ここはバベルの中でこれまでの国によるしがらみは関係ないはず。今なら市民権を得ているのだから自由に生きることもできるんじゃないのか?」
元々王族だろうと冒険者だろうと、メイドであっても関係ない。
このバベルという国は、神王とその下にいる十二貴族が支配しているので、ここではシーラも一般人と変わらないのだ。
「その答えは、私がシーラ様のことが大好きだからです」
彼女は右手を胸に置くと語った。
「幼きころより傍に置いていただき、あの方がどれだけ国民のことを想い努力してきたか見てきました。私はそんなシーラ様だからこそ尊敬しておりますので」
どうにも俺の考えるシーラ像と違っている。俺にとってシーラとはちょっと抜けた部分があり喜怒哀楽が激しい女性という印象だったからだ。
もっとも、努力家と言う点については毎日の特訓で魔法を覚えたことから否定はしない。
「ああ、俺も彼女のことは大好きだ」
そんなシーラと一緒だったからこそ、バベルまで到達できたし。こうして今も諦めることなく行動をしている。
「ん、何だ?」
ふと見ると、ミラが意外そうな顔をしている。
「いえ、話に聞いた限りではあまり感情を表に出さない方だと思っていたので……」
ブレッドやメリルにメリッサから聞いたのだろう。
「確かに、外の世界ではそうだったな」
他人と関わることを損だと考えていたし、今だって特に人と話すのが得意と言うわけではない。
だが、ミラはシーラが信頼を寄せる女性なので、このまま距離を置くよりは人となりを知っておくべきだと考えたのだ。
そんなことを考えていると、彼女はふと思いついたのか表情を綻ばせる。
「もしかすると、姫様の影響でしょうかね?」
「まあ、そんなところだな」
明るい場所では言えない素直な気持ちを吐露する。そうすることで俺は目の前の女性とも打ち解けた気持ちになった。
「まあ、なんだ。彼女は絶対に俺が守るから……」
「はい。信頼しておりますよ」
「これからはミラも俺たちの手が届かない範囲のサポートを頼むよ」
そう言って歩み寄ると、
「お任せください、旦那様」
ミラは俺の両手を握るとそう答えるのだった。
両隣を見ると、ベッドにはシーラとミラが横たわっており、シーラは幸せそうに寝息を立てている。
同じ部屋に、昨日までまったく知らない人間がいる状況と言うのは気を張ってしまう。
シーラの態度を見る限り、信頼できる人物なのだろうが、付き合ってもいない異性だとどうしても意識してしまうのだ。
俺は起き上がると部屋を出て外にでる。
この九層はバベル内でも一般人が住む場所なので治安も良く、女性でも安全にであることが出来る層だ。
上を見上げると、えすかれぇたぁの輝きが上層まで届き幻想的な美しさを放っていた。
外界の連中は、深淵ダンジョンと呼ばれる中にこのような国が存在し、人々が営んでいるとは考えもしていないだろう。
この世界から脱出するルートは俺が考える限り一つ。
中央に建っている【ディオス城】を訪れそこから伸びている建物の上にある階段を登ることだ。
話を聞く限り、あの階段は上に空いている穴まで繋がっている。俺たち外の世界の人間がそれぞれの国の入り口から入ってくることを考えると、使われていないあちらは特別な場所。出口へと繋がっているのではないだろうか?
それを調べるためには、まずあのディオス城へ入らなければならない。
十二貴族になる、もしくは神王に見染められれば入城が認められるはずなので、今は俺もシーラも力を付けてそれに備えるべきだろう。
そんなことを考えていると、ドアが開く音がして一人の女性が出てきた。
「こちらにいらっしゃったのですね」
ストールを肩に掛け、寝間着のまま出てきたミラは俺に話し掛けてきた。
彼女は髪を払いながら隣に来ると、
「もしかして寝付けなかったのでしょうか?」
そう聞いてきた。
「それは、そちらも同じじゃないのか?」
俺が切り返すと、ミラは表情を変化させる。
「……どうして、そう思われましたか?」
「俺が身体を起こした時、シーラは口を開けて寝息を立てていたが、あんたは息を殺していたからな。もしかして二人で話したいことがあるんじゃないかと思ったんだが?」
俺も彼女も神経質な人間なのだろう。よく知らぬ異性がいる傍で安心して眠ることができない。にもかかわらず、息を殺して俺の動きを探っていたのには理由があるはず。
「なるほど、その冷静さをもってこのバベルで生き抜いてこられたのですね」
彼女は俺に向き直ると頭を下げた。
「このたびは、姫様をお救い頂きありがとうございます。姫様はトラテム王家に残された最後の王族。彼女なくしては復国はありえませんので……」
「別に気にすることはない。俺は自分の生存率を上げるため、シーラと協力しただけだ」
礼を言われるほどではない。
「それにしても、ミラはどうしてそこまでシーラを気にかけている? ここはバベルの中でこれまでの国によるしがらみは関係ないはず。今なら市民権を得ているのだから自由に生きることもできるんじゃないのか?」
元々王族だろうと冒険者だろうと、メイドであっても関係ない。
このバベルという国は、神王とその下にいる十二貴族が支配しているので、ここではシーラも一般人と変わらないのだ。
「その答えは、私がシーラ様のことが大好きだからです」
彼女は右手を胸に置くと語った。
「幼きころより傍に置いていただき、あの方がどれだけ国民のことを想い努力してきたか見てきました。私はそんなシーラ様だからこそ尊敬しておりますので」
どうにも俺の考えるシーラ像と違っている。俺にとってシーラとはちょっと抜けた部分があり喜怒哀楽が激しい女性という印象だったからだ。
もっとも、努力家と言う点については毎日の特訓で魔法を覚えたことから否定はしない。
「ああ、俺も彼女のことは大好きだ」
そんなシーラと一緒だったからこそ、バベルまで到達できたし。こうして今も諦めることなく行動をしている。
「ん、何だ?」
ふと見ると、ミラが意外そうな顔をしている。
「いえ、話に聞いた限りではあまり感情を表に出さない方だと思っていたので……」
ブレッドやメリルにメリッサから聞いたのだろう。
「確かに、外の世界ではそうだったな」
他人と関わることを損だと考えていたし、今だって特に人と話すのが得意と言うわけではない。
だが、ミラはシーラが信頼を寄せる女性なので、このまま距離を置くよりは人となりを知っておくべきだと考えたのだ。
そんなことを考えていると、彼女はふと思いついたのか表情を綻ばせる。
「もしかすると、姫様の影響でしょうかね?」
「まあ、そんなところだな」
明るい場所では言えない素直な気持ちを吐露する。そうすることで俺は目の前の女性とも打ち解けた気持ちになった。
「まあ、なんだ。彼女は絶対に俺が守るから……」
「はい。信頼しておりますよ」
「これからはミラも俺たちの手が届かない範囲のサポートを頼むよ」
そう言って歩み寄ると、
「お任せください、旦那様」
ミラは俺の両手を握るとそう答えるのだった。
155
お気に入りに追加
2,835
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。