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第41話 手遅れだった件

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『ひっ!?』

 その怯えた声は誰のものだったのだろう?
 さきほど、俺とシーラに絡んできたチンピラ探索者の声だったかもしれない。

 あるいは受付で書類を落として慌てて拾っている受付嬢の声かもしれない。

 さらにいうと運んでいたトレイを落っことし、客の顔にスープをぶちまけているウエイトレスの声かもしれない。

「それ、どういうこと?」

「あははははは、私の耳ちょっとおかしくなったのかな? 幻聴が聞こえちゃったよ」

「お、お前たち落ち着け。な?」

 メリッサは周囲を凍らせるようなオーラを発し俺を睨んでいるし、メリルは笑い飛ばしているのだが目が笑っていない。
 ブレッドはなんとか二人を抑えようとする。

 俺はその異様な気配に圧されまいと飲み物でも飲んで落ち着こうとするのだが……。

「うん、私はこのバベルに着てピート君と結ばれたのよ」

「ブウウウウウウウウウウウッ!」

「ふざけんなピートっ! 汚ねえだろっ!」

 シーラは頬を染めると首を横に振り照れている仕草をするのだった。

「…………………………………………」

「むむむむむむむむっ、結ばれっ!?」

 目を大きく見開くメリッサ、俺とシーラを交互に見るメリル。ブレッドは俺が噴き出したせいで顔を拭っていた。

 俺はためいきを吐くと、

「まあ、なんだ……。バベルに入ったお蔭でこうなった」

 恋人ができたことを知り合いに伝えるというのは気恥ずかしかったが、こうして助けに来てくれたのだから不義はできまい。

「そんな…………」

「手遅れだった?」

「いや、結果として無事に会えたからまったく手遅れじゃないって!」

 Sランクモンスターの集団にでも出会ったかのように、絶望的な表情を浮かべる姉妹。混乱しているのか意味不明な言葉を口にした。

「だめだ、気絶している」

 ブレッドが二人の前で手を振るとそう言うのだった。





「なに? 一度入ったら出られないって本当か?」

「ああ、俺自身が確認したから間違いねえ」

 テーブルに気絶したメリルとメリッサを横たわらせ、俺たちは情報交換を続ける。今聞いているのはブレッドたちが深淵ダンジョンに入ってきた時の状況だ。

「すると、どこか別な入り口が開くのを待って出ていくというのは不可能ってわけか?」

 一年間、バベルの中できっちり準備をし、ルケニアとトラテム以外の出口から出てその国の権力者と交渉するという案は使えなくなった。

「ピート、どうしようか?」

 出る方法が一つ消えてしまったせいかシーラは不安そうな顔で俺を見つめてきた。

「安心しろ、まだ完全に方法がなくなったわけじゃないだろ?」

 笑みを浮かべて彼女の頭を撫でてやる。

「なるほど、そうやって一国の王女を落としたってわけか」

 アゴに手を当て、感心した様子でブレッドが俺を見ていた。

「姫様のそんな嬉しそうな顔滅多に見れませんよ、食後のデザートがイチゴケーキだった時くらいです」

「シーラはイチゴが好きなのか?」

 さきほど自己紹介をした。彼女はシーラ付きのメイドでミラという名前らしい。
 ダンジョンに入ってからのシーラしか知らない俺は、興味があるので聞いてみた。

「はい、姫様はそれはそれはイチゴが大好きで、嫌なことがあった時でもイチゴを使ったデザートを与えておけば即座に機嫌がよくなるほどです」

「ミラ、私のことそんな風に思っていたんだ?」

 早速不機嫌な様子を見せるシーラ。

「今度、ドグさんにでもお願いしてイチゴを栽培してもらおうか」

「ピ、ピートまで! か、からかわないでよ」

「いや、別にからかってないって。好きな物を食べられるならそれに越したことはないだろ?」

 むくれるシーラをなだめていると……。

「なるほど、ピート様は本当に姫様を大切に扱って下さっているのですね。私、姫様がこの過酷な深淵ダンジョンで辛い思いをしていると思っていたんですけど、良かったです」

 心の底から主人の身を案じていたのか、ミラはほっと息を吐いた。

「それで、この後はどうするつもりなんだ?」

 話が落ち着くと、ブレッドがそう切り出してくる。

「俺とシーラの最終目的はバベルからの脱出方法を探すことだ。不当に放り込まれて黙ってられないからな」

「ああ、ルケニアのギルドマスターなら俺たちがパーティーを解散しちまったから各方面から突き上げをくらっていたぞ」

 俺を投獄したことに怒ったブレッドたちが銀の翼を解散したせいで、調査が入ったらしい。その報告を聞いて少し溜飲が下がった。

「今のところ、出られそうな場所が二つ考えられるけど、そこに行くには色々と足りないものがある」

「ああ、確かにそうだな……」

「とりあえずこの世界を探るためにも俺とシーラはダンジョンに潜ろうと思っている」

 俺は今後の方針について、皆に話して聞かせるのだった。
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