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第38話 魔法の訓練
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「えっ、ちょっと……こんなところで始めるつもり?」
部屋に入るなり私は焦りを浮かべるとピートから距離を取る。
床にはタタミと呼ばれる草を乾燥させて板に張り付けたものが使われていて、なんとも落ち着く匂いがした。
「もちろんだ、風呂でさっぱりしたみたいだしちょうどいいだろ?」
ピートは私を追い込むように入り口を塞ぐ、お蔭で私は奥へと追いやられてしまった。
室内には木でできた長机にザブトンと呼ばれる四角いクッション。机の上にはお菓子とやや変わった形をしたティーポットが置かれている。
私が追いやられた部屋の奥には窓があり、向かい合って座るための椅子が置かれていて、外を見ると岩で囲まれた池や流れる水と緑豊かな庭園が広がっている。
建物自体が古いのだが、掃除が行き届いているため汚いという印象はなく、むしろ懐かしいような落ち着く雰囲気を醸し出している。
「だ、だって……まだ外は明かるいし……」
そんな現実逃避している間にも私は追い詰められていく。
私を逃がすまいと、ピートは壁に手を突き見つめてくる。ユカタのせいか風呂上がりのせいか、普段よりも格好よく見えて心臓が激しく音を奏でた。
「お前が嫌だというなら無理強いはしないけどな」
ピートのユカタ姿に見惚れていただけなのだが、その沈黙を私が拒絶していると取ったらしい。私は慌てて彼のユカタの裾を掴むと……。
「い、嫌じゃないわよ! そ、その……是非よろしくお願いします」
私は俯くとそう口にした。するとピートは嬉しそうな顔をする。
「それじゃあ、早速始めるとするか」
私に声を掛けると杖を差し出し、
「魔法の練習を」
昨晩に続いて魔法を使うための訓練を開始するのだった。
「魔法を使うにはまず何をおいても魔力を制御することだ。基本的な魔法は魔力を各属性に変換すれば簡単に扱えるけど、魔法をただ使うだけの人間と制御まで考えて使う人間では大きな差がでるからな」
私が杖をかかげて魔力を探っている間も、ピートはレクチャーを続ける。
真剣な表情で、魔法を使ってみたいという私の思い付きの提案に根気よく付き合ってくれている。
昨晩はそれこそ私が力尽きるまでずっと指導をしてくれたくらいだ。
「どうした? 疲れたか?」
私が見ていると、ピートは心配そうに気遣ってくれる。出会った当初は冷たい人という印象だった。
必要なこと以外は向こうから話しかけてくることがなかったから疎まれているのだと。
だけど、何度も命を救われ。私が深淵ダンジョンでも生きられるように色々工夫をしてくれている間にそんな印象は吹き飛んだ。
そして最近想いが通じ、身体を重ねてた後は彼の表情も随分柔らかくなった気がする。
彼との甘美な逢瀬を思い出していただけなのだが、それを言うとこの場の雰囲気が気まずくなりそうなので……。
「ううん、まだ平気だよ。ありがとう」
私はお礼を言うと、練習に戻るのだった。
「ふぅ、美味しかったな」
食事を終えたピートは満足そうにすると仰向けになりタタミに両手をつく。
「本当にね、こんなコース料理食べたことなかったからとても新鮮だったわ」
高級なレストランなんかだと料理はタイミングをみて一品ずつ運ばれてくるのが普通だ。
だけどリョカンでは机一杯に料理が並べられ、自分の好きな物から手を付けられるのだ。
料理人によって食べる順番が組み立てられているレストランと違い、どの料理から食べても美味しくなるように工夫がされているようで、私もピートも夢中で料理を口に運んでいた。
「それにしても教えて二日目で少しでも魔力を出せるようになったのは上出来だな」
あれから、食事の時間まで練習を続けたところ、初めて魔力を放出することに成功した。
「ピートに補助してもらってやっとだけどね」
魔力の扱い方にいまいちピンとこなかった私の手に自分の手を重ねると補助してくれたのだ。
「それにしたって良いペースだ、これならあの使い方もできるな」
「お蔭様で今日もボロボロだけどね」
ピートはこと魔法となるとスパルタなので、限界を超えて身体を酷使していしまった。
慣れない魔力を使ったため疲れている。
「まあでも、シーラが魔法を使えるようになれば自衛にもなるしな。この世界で生きていくためなら力はあった方が良い」
「ピートは私のことを守ってくれないの?」
言葉尻をつかまえて意地悪な聞き方をしてみる。
「何があっても守ってやるに決まっているだろ」
「そ……そう。あ、ありがとう」
真剣な眼差しにドキドキする。
その晩は魔法の練習はしなかったのだが、別な理由のせいで眠れず寝不足になるのだった。
★
部屋に入るなり私は焦りを浮かべるとピートから距離を取る。
床にはタタミと呼ばれる草を乾燥させて板に張り付けたものが使われていて、なんとも落ち着く匂いがした。
「もちろんだ、風呂でさっぱりしたみたいだしちょうどいいだろ?」
ピートは私を追い込むように入り口を塞ぐ、お蔭で私は奥へと追いやられてしまった。
室内には木でできた長机にザブトンと呼ばれる四角いクッション。机の上にはお菓子とやや変わった形をしたティーポットが置かれている。
私が追いやられた部屋の奥には窓があり、向かい合って座るための椅子が置かれていて、外を見ると岩で囲まれた池や流れる水と緑豊かな庭園が広がっている。
建物自体が古いのだが、掃除が行き届いているため汚いという印象はなく、むしろ懐かしいような落ち着く雰囲気を醸し出している。
「だ、だって……まだ外は明かるいし……」
そんな現実逃避している間にも私は追い詰められていく。
私を逃がすまいと、ピートは壁に手を突き見つめてくる。ユカタのせいか風呂上がりのせいか、普段よりも格好よく見えて心臓が激しく音を奏でた。
「お前が嫌だというなら無理強いはしないけどな」
ピートのユカタ姿に見惚れていただけなのだが、その沈黙を私が拒絶していると取ったらしい。私は慌てて彼のユカタの裾を掴むと……。
「い、嫌じゃないわよ! そ、その……是非よろしくお願いします」
私は俯くとそう口にした。するとピートは嬉しそうな顔をする。
「それじゃあ、早速始めるとするか」
私に声を掛けると杖を差し出し、
「魔法の練習を」
昨晩に続いて魔法を使うための訓練を開始するのだった。
「魔法を使うにはまず何をおいても魔力を制御することだ。基本的な魔法は魔力を各属性に変換すれば簡単に扱えるけど、魔法をただ使うだけの人間と制御まで考えて使う人間では大きな差がでるからな」
私が杖をかかげて魔力を探っている間も、ピートはレクチャーを続ける。
真剣な表情で、魔法を使ってみたいという私の思い付きの提案に根気よく付き合ってくれている。
昨晩はそれこそ私が力尽きるまでずっと指導をしてくれたくらいだ。
「どうした? 疲れたか?」
私が見ていると、ピートは心配そうに気遣ってくれる。出会った当初は冷たい人という印象だった。
必要なこと以外は向こうから話しかけてくることがなかったから疎まれているのだと。
だけど、何度も命を救われ。私が深淵ダンジョンでも生きられるように色々工夫をしてくれている間にそんな印象は吹き飛んだ。
そして最近想いが通じ、身体を重ねてた後は彼の表情も随分柔らかくなった気がする。
彼との甘美な逢瀬を思い出していただけなのだが、それを言うとこの場の雰囲気が気まずくなりそうなので……。
「ううん、まだ平気だよ。ありがとう」
私はお礼を言うと、練習に戻るのだった。
「ふぅ、美味しかったな」
食事を終えたピートは満足そうにすると仰向けになりタタミに両手をつく。
「本当にね、こんなコース料理食べたことなかったからとても新鮮だったわ」
高級なレストランなんかだと料理はタイミングをみて一品ずつ運ばれてくるのが普通だ。
だけどリョカンでは机一杯に料理が並べられ、自分の好きな物から手を付けられるのだ。
料理人によって食べる順番が組み立てられているレストランと違い、どの料理から食べても美味しくなるように工夫がされているようで、私もピートも夢中で料理を口に運んでいた。
「それにしても教えて二日目で少しでも魔力を出せるようになったのは上出来だな」
あれから、食事の時間まで練習を続けたところ、初めて魔力を放出することに成功した。
「ピートに補助してもらってやっとだけどね」
魔力の扱い方にいまいちピンとこなかった私の手に自分の手を重ねると補助してくれたのだ。
「それにしたって良いペースだ、これならあの使い方もできるな」
「お蔭様で今日もボロボロだけどね」
ピートはこと魔法となるとスパルタなので、限界を超えて身体を酷使していしまった。
慣れない魔力を使ったため疲れている。
「まあでも、シーラが魔法を使えるようになれば自衛にもなるしな。この世界で生きていくためなら力はあった方が良い」
「ピートは私のことを守ってくれないの?」
言葉尻をつかまえて意地悪な聞き方をしてみる。
「何があっても守ってやるに決まっているだろ」
「そ……そう。あ、ありがとう」
真剣な眼差しにドキドキする。
その晩は魔法の練習はしなかったのだが、別な理由のせいで眠れず寝不足になるのだった。
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