26 / 43
連載
第28話 買い取り所
しおりを挟む
「すみません、買い取りを行っているんですよね?」
遠目でシーラがルーレットを継続しているのを確認しつつその場を離れ、俺が向かったのはチップ交換所の横にあるカウンターだった。
看板には「その場でどこよりも高価買取させていただきます」と書かれている。
「はい、もちろんです。ギャンブル資金がなくなった方のため、宝石やレア鉱石から洋服まで、すべてこの鑑定の神器にて値段をつけさせていただきます」
熱くなる人間が多いのだろう、客の中には宝石などを身に着けている身分の高そうな者もいる。さぞや良い商売になっているのだろう。
「これが……神器なのか?」
カウンターの横には巨大な装置があった。物を乗せることが出来るスペースがあり、上には数字が表示されている。
「はい、いつでも迅速に査定が完了する【神眼】が組み込まれています」
【神眼】と呼ばれる神器は俺も知っている。ありとあらゆるアイテムと生物などの情報を数値で表すことが出来る神器だ。
バベルへの入場ゲートで俺たちの賞罰を判定した魔導具の上位互換だ。
試しに適当なアイテムを乗せてもらうと、即座に数字が変動した。把握している限り市場で見た金額よりは安いのだが、市場の方が自分の利益を乗せて販売しているのだろう。
「さらに、当店では査定額と何をお売りになったかについては秘匿することが可能です。これはお客様のプライベートを守るとともに、財布の底を他のお客様に知られないための措置です」
実際は、売ってしまってはいけない物を売る人間がいたり、盗品だった場合にケチをつけられないためだろう。
盗品と発覚してしまうと持ち主に返さなければならないが、知らずに買い取った場合は正直に応対する必要がない。
さらに言うとギャンブルなんてものは金での殴り合い。資金が多い方が有利なのは言うまでもないので、ここで手に入れた金額を知られると相手の予算が割れてしまう。そうならない為の措置というわけだ。
俺は【神眼】の神器の前に立つと受付の人間に聞いた。
「ここにアイテムを置けばいいのか?」
「はい、そうしますとお客様の目の前だけに買い取り価格が表示されますので、問題がなければ身分証をかざしてもらえれば結構です」
シークレットモードということで周囲から見えないように覆われている。
俺は試しにオリハルコンの欠片を置いてみた。先日、マーガレットに売ったものと同じ大きさだ。
出てきた金額はマーガレットに買い取ってもらった物より少し安い。彼女がいろをつけてくれていたのは本当だったようだ。
俺は【神眼】の査定がある程度信用できることを確認すると、亜空間からレアアイテムを取り出しどんどんと乗せていく。
すると、数字がものすごい勢いで増えていくのだが、俺だけにしか見えていないので特に気にする必要はない。
「よし、こんなもんかな」
秘密裏に売ることができるということで、この機会を逃すまいと手持ちのアイテムの半分を放り込んだところで満足する。
「では、そちらの確認ボタンを押してください。そうしましたら乗せられたアイテムは自動回収されて倉庫に入りますので、お客様が何をお売りになったかは私たちは一切知ることはありません」
目の前に出ている数字を見せつけたら受付はどんな反応をしただろうか?
そんなことを考えつつボタンを押すと、置いていた台の口が開きレアアイテムが中へと吸い込まれていった。
「最後に身分証をクリスタルにかざしてチャージしてください」
言われるままにチャージを完了させるとこれで取引完了だ。
「それでは、この後もとうカジノをお楽しみください。グッドラック」
俺は満面の笑みで送り出されるのだった。
★
「ぐふふふふふふ、予想通り酒を呑んでよい気分になっているようだな。ルーレットに夢中になっている」
べモンドは真剣な表情でルーレットを凝視しているシーラを見ると満足そうに笑みを浮かべた。
「だけどあの少年の姿が見えないわ、ひょっとすると女でも買いにいったのかしらね?」
ミモザの関心はピートへと向いていた。
「男なんぞどうでも良い、それよりはあの女だ。借金漬けにして命令する時を考えるとたまらんわい」
すでに渡したお金の半分をギャンブルで溶かしている。バベルに到達した外来の人間に渡す初期資金は二十万ベルなので、金銭感覚が壊れ始めているのは間違いない。
「お金を与え、酒と食べ物で良い気分にしてギャンブルに嵌める。ほんと、ただより怖い物はないわね」
手持ちが少ない人間の財布は中々緩むことはない。だが、ある程度の大金を与え、消費する場を用意すると大抵の人間は我慢できないのだ。
人は本能的に消費を好む生き物で、それは外の世界だろうが内の世界だろうが関係ない。
事実、べモンドはこれまでこの方法を使い何人もの人間を借金地獄に叩き落してきた。
「このギャンブルシティは金を持つ人間が一番偉い。つまりワシにかなう人間はおらぬということよ……」
頭の中は既にシーラを手に入れたあとにどんな厭らしいことをするかで埋め尽くされている。
だが、彼は知らなかった。
ここにはシーラだけではなく、大賢者の遺物を手に乗り込んでいたピートもいるということに……。
★
遠目でシーラがルーレットを継続しているのを確認しつつその場を離れ、俺が向かったのはチップ交換所の横にあるカウンターだった。
看板には「その場でどこよりも高価買取させていただきます」と書かれている。
「はい、もちろんです。ギャンブル資金がなくなった方のため、宝石やレア鉱石から洋服まで、すべてこの鑑定の神器にて値段をつけさせていただきます」
熱くなる人間が多いのだろう、客の中には宝石などを身に着けている身分の高そうな者もいる。さぞや良い商売になっているのだろう。
「これが……神器なのか?」
カウンターの横には巨大な装置があった。物を乗せることが出来るスペースがあり、上には数字が表示されている。
「はい、いつでも迅速に査定が完了する【神眼】が組み込まれています」
【神眼】と呼ばれる神器は俺も知っている。ありとあらゆるアイテムと生物などの情報を数値で表すことが出来る神器だ。
バベルへの入場ゲートで俺たちの賞罰を判定した魔導具の上位互換だ。
試しに適当なアイテムを乗せてもらうと、即座に数字が変動した。把握している限り市場で見た金額よりは安いのだが、市場の方が自分の利益を乗せて販売しているのだろう。
「さらに、当店では査定額と何をお売りになったかについては秘匿することが可能です。これはお客様のプライベートを守るとともに、財布の底を他のお客様に知られないための措置です」
実際は、売ってしまってはいけない物を売る人間がいたり、盗品だった場合にケチをつけられないためだろう。
盗品と発覚してしまうと持ち主に返さなければならないが、知らずに買い取った場合は正直に応対する必要がない。
さらに言うとギャンブルなんてものは金での殴り合い。資金が多い方が有利なのは言うまでもないので、ここで手に入れた金額を知られると相手の予算が割れてしまう。そうならない為の措置というわけだ。
俺は【神眼】の神器の前に立つと受付の人間に聞いた。
「ここにアイテムを置けばいいのか?」
「はい、そうしますとお客様の目の前だけに買い取り価格が表示されますので、問題がなければ身分証をかざしてもらえれば結構です」
シークレットモードということで周囲から見えないように覆われている。
俺は試しにオリハルコンの欠片を置いてみた。先日、マーガレットに売ったものと同じ大きさだ。
出てきた金額はマーガレットに買い取ってもらった物より少し安い。彼女がいろをつけてくれていたのは本当だったようだ。
俺は【神眼】の査定がある程度信用できることを確認すると、亜空間からレアアイテムを取り出しどんどんと乗せていく。
すると、数字がものすごい勢いで増えていくのだが、俺だけにしか見えていないので特に気にする必要はない。
「よし、こんなもんかな」
秘密裏に売ることができるということで、この機会を逃すまいと手持ちのアイテムの半分を放り込んだところで満足する。
「では、そちらの確認ボタンを押してください。そうしましたら乗せられたアイテムは自動回収されて倉庫に入りますので、お客様が何をお売りになったかは私たちは一切知ることはありません」
目の前に出ている数字を見せつけたら受付はどんな反応をしただろうか?
そんなことを考えつつボタンを押すと、置いていた台の口が開きレアアイテムが中へと吸い込まれていった。
「最後に身分証をクリスタルにかざしてチャージしてください」
言われるままにチャージを完了させるとこれで取引完了だ。
「それでは、この後もとうカジノをお楽しみください。グッドラック」
俺は満面の笑みで送り出されるのだった。
★
「ぐふふふふふふ、予想通り酒を呑んでよい気分になっているようだな。ルーレットに夢中になっている」
べモンドは真剣な表情でルーレットを凝視しているシーラを見ると満足そうに笑みを浮かべた。
「だけどあの少年の姿が見えないわ、ひょっとすると女でも買いにいったのかしらね?」
ミモザの関心はピートへと向いていた。
「男なんぞどうでも良い、それよりはあの女だ。借金漬けにして命令する時を考えるとたまらんわい」
すでに渡したお金の半分をギャンブルで溶かしている。バベルに到達した外来の人間に渡す初期資金は二十万ベルなので、金銭感覚が壊れ始めているのは間違いない。
「お金を与え、酒と食べ物で良い気分にしてギャンブルに嵌める。ほんと、ただより怖い物はないわね」
手持ちが少ない人間の財布は中々緩むことはない。だが、ある程度の大金を与え、消費する場を用意すると大抵の人間は我慢できないのだ。
人は本能的に消費を好む生き物で、それは外の世界だろうが内の世界だろうが関係ない。
事実、べモンドはこれまでこの方法を使い何人もの人間を借金地獄に叩き落してきた。
「このギャンブルシティは金を持つ人間が一番偉い。つまりワシにかなう人間はおらぬということよ……」
頭の中は既にシーラを手に入れたあとにどんな厭らしいことをするかで埋め尽くされている。
だが、彼は知らなかった。
ここにはシーラだけではなく、大賢者の遺物を手に乗り込んでいたピートもいるということに……。
★
121
お気に入りに追加
2,841
あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。