25 / 43
連載
第27話 ギャンブルシティ
しおりを挟む
「ピートばかりずるいと思うの」
シーラはそう言うと、俺の手に持っている杯をじっとみた。
「駄目だ、お前は自分がどれだけ酒に弱いか知らないだろ?」
現在、俺たちはギャンブルシティの中で適当に目についた店に入って料理を注文している。
酒と女とギャンブルを前面に押し出しているだけあって、メニューに書かれている料理はどれも味付けが濃いものばかり。
酒と合わせれば美味しさが倍増するので、俺はエールを注文していた。
「くぅ……美味い」
はじける泡が喉を通る際に刺激し、舌には程よい苦みが残る。
注文していたカリカリのベーコンにチーズ焼き、胡椒をふんだんに使ったチキンなどを口にすると手が止まらない。
「ねね、ちょっとだけ、ちょっとだけならいいじゃない」
「うーん……でもなぁ」
先日、十層で紅茶にブランデーを淹れた際、シーラは酔っ払うと寝てしまった。
あの時は日中だったし、しばらく外で風にあたって過ごせば元にもどったのだが、この夜の街では油断できない。
「それに、ほら。ここの二階は宿泊できるみたいだし」
「おまえ、それ本気で言ってるのか?」
こういった飲み屋が宿も経営しているのは理由がある。酒を飲ませて足取りがおぼつかなくなった相手を宿に誘い一夜をともにするためだ。
俺はその説明を世間知らずなお姫様にしてやる。
「俺だから良いけど、他の男相手に言うなよ。絶対危険だから」
これから先、俺がいない場所でシーラが酒を飲んだ場合を考えて注意しておく。
「べ、別に誰にでもいうわけじゃないわよ。ピートなら信頼してるからだし」
ばつが悪そうな顔をする。俺は一度ためいきを吐くと、
「その果実酒は飲みやすくてそれほど酔わないらしいから、そこから選ぶといいぞ」
以前一緒に飲んだ女性冒険者が好んで飲むお酒を紹介してやる。
「うん、わかった!」
シーラは嬉しそうにメニューを眺めると果実酒を注文するのだった。
「さて、次はどこに行くとするか」
シーラの手を引きながら街を歩く。
軽い食事と軽いお酒を飲んだ俺たちだが、さすがにあの一軒に滞在しただけでは見て回った内に入らないだろう。
時間もようやく夜に突入したばかりということもあり、他を見てみることにした。
「えへへへへへ」
頬をほんのりと染めたシーラは上機嫌で笑っている。
何が楽しいのか、俺と繋がっている手をブラブラさせているのだが、放そうとすると力を強めて握り締めてくる。
お蔭でさきほどから繋いだままなのだが……。
「ピート、ふわふわして気持ちいいね」
別段、誰かに迷惑が掛かるわけではない。このくらいはかまわないだろう。
『お客さん、店が決まってないようだったらうちなんてどう? サービスしておくよ』
『あら、お兄さん男前ね。良かったらどうかしら?』
『へへへ、兄ちゃんいい女連れてるな。ちょっと面かせや』
歩いているだけで様々な人間に声を掛けられる。
最後になめた言葉を口にした男は誰にも気づかれないように魔法で昏倒させておいた。
しばらくの間、シーラと喧騒の中を歩いていたがいつまでもこのままというわけにもいかない。
俺がどうするか悩んでいるとシーラに急に腕を引っ張られた。
「ピート、ここ入ってみたい」
他の建物と違い圧倒的に大きな施設。様々な色の明かりが看板を照らし、来るもの拒まずといった様子の大きな扉。
「……まあ、こういうのも勉強の内か」
俺はシーラを伴うとカジノへと入っていった。
「むむむ……」
シーラが眉間に皺を寄せて悩んでいる。
手元にはチップが十枚あるのだが、元は百枚だったことから考えると随分と負けている状態だ。
「シーラ、あんまり突っ込みすぎるなよ?」
カジノに入ったところで、チップ交換所があった。
俺たちはべモンドから受け取った百万ベルの内十万ベルをチップへと交換した。
つまり、一枚千ベル。彼女は既に九万ベルを失った計算になる。
「ピートは次は赤が来ると思う? それとも黒?」
「ルーレットはどうやっても最終的に胴元が勝つようにできている。だから俺はやらない」
「なによ、男ならビシッと勝負するくらいしなさいよ」
偶然口にしたシーラの言葉に頬が緩む。過去に同じセリフを口にした女性冒険者がいた。
あの時と状況は違うが、彼女もここに来たら同じようにギャンブルに嵌るのではないだろうか?
そんなことを考えている間にもルーレットは回っていく。
「ああっ!」
シーラの悲痛な叫びが聞こえる。どうやら張った目と逆がでてしまったようだ。
「ううう、あと少しだったのに……」
世間知らずのお姫様にはいい勉強になっただろう。熱くなって負けを覚えれば今後は注意深くなる。
もとよりべモンドからもらった金なので懐は痛まないので良かったとも言える。
「シーラ、ちょっとだけ離れるから待っててくれ」
「あっ、うん。わかったわ」
チップ交換所の横に興味を引く場所があったので、俺はシーラを待たせるとそちらの用事を済ませることにした。
シーラはそう言うと、俺の手に持っている杯をじっとみた。
「駄目だ、お前は自分がどれだけ酒に弱いか知らないだろ?」
現在、俺たちはギャンブルシティの中で適当に目についた店に入って料理を注文している。
酒と女とギャンブルを前面に押し出しているだけあって、メニューに書かれている料理はどれも味付けが濃いものばかり。
酒と合わせれば美味しさが倍増するので、俺はエールを注文していた。
「くぅ……美味い」
はじける泡が喉を通る際に刺激し、舌には程よい苦みが残る。
注文していたカリカリのベーコンにチーズ焼き、胡椒をふんだんに使ったチキンなどを口にすると手が止まらない。
「ねね、ちょっとだけ、ちょっとだけならいいじゃない」
「うーん……でもなぁ」
先日、十層で紅茶にブランデーを淹れた際、シーラは酔っ払うと寝てしまった。
あの時は日中だったし、しばらく外で風にあたって過ごせば元にもどったのだが、この夜の街では油断できない。
「それに、ほら。ここの二階は宿泊できるみたいだし」
「おまえ、それ本気で言ってるのか?」
こういった飲み屋が宿も経営しているのは理由がある。酒を飲ませて足取りがおぼつかなくなった相手を宿に誘い一夜をともにするためだ。
俺はその説明を世間知らずなお姫様にしてやる。
「俺だから良いけど、他の男相手に言うなよ。絶対危険だから」
これから先、俺がいない場所でシーラが酒を飲んだ場合を考えて注意しておく。
「べ、別に誰にでもいうわけじゃないわよ。ピートなら信頼してるからだし」
ばつが悪そうな顔をする。俺は一度ためいきを吐くと、
「その果実酒は飲みやすくてそれほど酔わないらしいから、そこから選ぶといいぞ」
以前一緒に飲んだ女性冒険者が好んで飲むお酒を紹介してやる。
「うん、わかった!」
シーラは嬉しそうにメニューを眺めると果実酒を注文するのだった。
「さて、次はどこに行くとするか」
シーラの手を引きながら街を歩く。
軽い食事と軽いお酒を飲んだ俺たちだが、さすがにあの一軒に滞在しただけでは見て回った内に入らないだろう。
時間もようやく夜に突入したばかりということもあり、他を見てみることにした。
「えへへへへへ」
頬をほんのりと染めたシーラは上機嫌で笑っている。
何が楽しいのか、俺と繋がっている手をブラブラさせているのだが、放そうとすると力を強めて握り締めてくる。
お蔭でさきほどから繋いだままなのだが……。
「ピート、ふわふわして気持ちいいね」
別段、誰かに迷惑が掛かるわけではない。このくらいはかまわないだろう。
『お客さん、店が決まってないようだったらうちなんてどう? サービスしておくよ』
『あら、お兄さん男前ね。良かったらどうかしら?』
『へへへ、兄ちゃんいい女連れてるな。ちょっと面かせや』
歩いているだけで様々な人間に声を掛けられる。
最後になめた言葉を口にした男は誰にも気づかれないように魔法で昏倒させておいた。
しばらくの間、シーラと喧騒の中を歩いていたがいつまでもこのままというわけにもいかない。
俺がどうするか悩んでいるとシーラに急に腕を引っ張られた。
「ピート、ここ入ってみたい」
他の建物と違い圧倒的に大きな施設。様々な色の明かりが看板を照らし、来るもの拒まずといった様子の大きな扉。
「……まあ、こういうのも勉強の内か」
俺はシーラを伴うとカジノへと入っていった。
「むむむ……」
シーラが眉間に皺を寄せて悩んでいる。
手元にはチップが十枚あるのだが、元は百枚だったことから考えると随分と負けている状態だ。
「シーラ、あんまり突っ込みすぎるなよ?」
カジノに入ったところで、チップ交換所があった。
俺たちはべモンドから受け取った百万ベルの内十万ベルをチップへと交換した。
つまり、一枚千ベル。彼女は既に九万ベルを失った計算になる。
「ピートは次は赤が来ると思う? それとも黒?」
「ルーレットはどうやっても最終的に胴元が勝つようにできている。だから俺はやらない」
「なによ、男ならビシッと勝負するくらいしなさいよ」
偶然口にしたシーラの言葉に頬が緩む。過去に同じセリフを口にした女性冒険者がいた。
あの時と状況は違うが、彼女もここに来たら同じようにギャンブルに嵌るのではないだろうか?
そんなことを考えている間にもルーレットは回っていく。
「ああっ!」
シーラの悲痛な叫びが聞こえる。どうやら張った目と逆がでてしまったようだ。
「ううう、あと少しだったのに……」
世間知らずのお姫様にはいい勉強になっただろう。熱くなって負けを覚えれば今後は注意深くなる。
もとよりべモンドからもらった金なので懐は痛まないので良かったとも言える。
「シーラ、ちょっとだけ離れるから待っててくれ」
「あっ、うん。わかったわ」
チップ交換所の横に興味を引く場所があったので、俺はシーラを待たせるとそちらの用事を済ませることにした。
118
お気に入りに追加
2,841
あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。