大賢者の遺物を手に入れた俺は、好きに生きることに決めた

まるせい

文字の大きさ
上 下
23 / 43
連載

第25話 盗聴していたらとんでもない会話を聞かされた

しおりを挟む
 向かいのソファーにはシーラが座っている。
 話があるというから部屋に呼び込んだのだが、本来であれば今頃仕込んだ魔導具を介してマーガレットたちの思惑を盗み聞くつもりだった。

 用意した紅茶が湯気を立てている、部屋に備え付けてあったポットを拝借して淹れたものだが、彼女は口を付けることなくじっとカップを見つめていた。

 妙に気まずい雰囲気が漂っている。
 バベルに入ってからというもの、彼女とは泊まる部屋が別だったので夜分にこうして二人っきりになることがなかった。

 バベルの外では常に一緒にいたのだが、外の世界で生き延びるためにやらなければならないことが多かった為、自然とその内容について話せば時間が潰せた。

 それを思い出した俺は話題を振ることにする。

「そう言えば、シーラは今後どうするつもりなんだ?」

 俺の目的は深淵ダンジョンを出て外の世界へと戻ることだ。
 あちらの世界に未練があるわけではないが、挨拶しそびれた知り合いもいるし、何よりあのギルドマスターに痛い目を合わせないことには気が収まらない。

「そういうピートはどうするつもり?」

 そんなことを考えているとシーラから質問を返された。

「俺は……正直まだ悩んでいる最中だ。この国から出るにしても情報が足りなさすぎるからな」

 この会話をマーガレットたちが聞いている。そのことを念頭に入れながら言葉を選ぶ。

「とりあえずあの金属が何なのかわからないが、当面の生活に困らない程度の価値があればいいと思っている」

「ピート?」

 シーラも俺もあれがオリハルコンだと知っているため、首を傾げる。だが彼女にその続きを言わせるまで待つ必要はない。

「それより今後の俺たちの話をしよう」

 俺にとって外の世界は戻る場所だがシーラにとってはどうだろうか?

 以前、両親のことに加えて自分の気持ちが整理できないと俺に言ったことがある。

 あの時はバベルがあることなど知らず、ただ生き延びる為だけに必死だったが今も同じ考えとは限らない。

 バベルにはモンスターが現れず安全が保障されている。さきほどスカーレットとも打ち解けていたことからシーラはここに残った方が良いのではないだろうか?

 そんなことを考えているとシーラが動き出した。彼女はソファーから立ち上がると俺の隣にきて座る。そして上目遣いで俺を見上げるとその瞳が潤んでいた。

「『私たちのこと』ってどういう意味?」

「それは、今後も一緒に行動するのかどうかについてだが?」

 今ならマーガレットも聞いている。ここに残ると言えば許可されるに違いない。

 俺はシーラからその手の発言が出てくると思ったのだが、彼女は予想外な質問をしてきた。

「私が一緒だとピートの迷惑にならない?」

 彼女は恐る恐る俺に問いかける。

「何を言っている? これまで一度でも俺がシーラを迷惑だと言ったことがあるか?」

 彼女は首を横に振る。

「でも一緒だと迷惑をかけることになるわ」

 バベルに来る直前の、俺を避けている時のシーラの表情が浮かぶ。バベルに入ってからも彼女は葛藤している様子を見せていた。恐らく自信を喪失しているのだろう……。

「迷惑なんて思ったことはない」

 シーラがどう考えていようと俺は彼女を仲間だと思っている。

「でも、私はあなたが嫌っている……」

 シーラは声を震わせると何かを告げようとする。

「俺がシーラを嫌うなんてありえない」

 だが俺はそんな彼女の言葉を否定していく。自分を卑下するシーラなんて見たくないからだ。

「いいか、シーラ。一度しか言わないからよく聞いてくれ」

「う、うん」

 肩に手を置き真剣な表情で彼女を見つめる。自信を失っているシーラには慰めの言葉をいくら並べたところで無意味だと思った。

 彼女に必要なのは、誰かにとって自分が必要だと認識すること。なら俺が言葉にするべきだろう。

「俺にはお前が必要だ。傍にいてくれ」

 次の瞬間、シーラの目から涙が零れ落ちると……。

「はい、あなたの傍にいます」

 美しい笑顔を浮かべるのだった。




 翌日になり、食堂へと行く。
 屋敷の主人であるマーガレットは既に席についているのだが、その顔は先日までの取り繕うものとは完全に違っていた。

 盗聴の魔導具は会話がヒートアップした時に壊してある。なので向こうも俺が盗聴魔導具に気付いていたことを知っているのだ。

 マーガレットと執事の生暖かい視線を気まずそうに受け流していると、

「おはよう、ピート」

 シーラが遅れて現れた。彼女は恥ずかしそうにはにかむと俺の隣へと座った。

「えへへへ、今日から改めて宜しくお願いします」

 昨晩、話し足りないとばかりに彼女は俺に自分の素性を語った。

 およそ見当がついていたが、彼女はトラテムの王族で、反逆にあって追い詰められて深淵ダンジョンへと入ったという。

 これまで様子が変だったのは、俺が権力者に対して良い感情を持っていないと知っていたからだ。
 昨晩は本当ならここで別れる話をしに部屋を訪れたらしいのだが、俺の言葉で自分が嫌われていないことを知り考え直したらしい。

「そういえばピートさん、昨晩お預かりした金属だけど鑑定の結果オリハルコンだったわ」

 俺がシーラの視線に気まずさを感じていると、マーガレットが話し掛けてきた。

「本当ですか?」

「それで、もし良かったら買い取らせていただきたいのだけど?」

 ここまでは会話が筒抜けだったので意思の確認ができている。

「ええ、価値がわかりませんので適正価格をつけていただければ幸いです」

「そう、それなら今回はおまけしておくわよ」

「いいんですか?」

 譲歩を引き出せたことに俺が驚きを見せると、彼女はからかいの笑みを浮かべる。

「あんな情熱的な告白を聞かされちゃあね、御祝儀ということにしておくわ」

「……なんのことですかね?」

 盗聴魔導具を利用してこちらに有利な情報を流しつつ相手の会話を盗み聞く算段だったのだが、シーラの乱入ですべての計画が崩れた。

「若いってのはいいわね、私もあんな情熱的に迫られたかったわ」

 そう言ってスカーレットは執事に相槌を求める。

「そうですな。ピート様は非常に真っすぐな良い男かと」

 今では逆にマーガレットに弱みを握られている。

「ん? ん? どういうことなの?」

 俺とスカーレットの会話を聞いたシーラはただ一人あの会話が盗聴されていた事実を知らず首を傾げるのだった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。