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第22話 神王と十二貴族

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「一向に戻ってこないじゃない!」

 メリルが大声を上げたのは、小屋に到着してから五日目のことだった。
 ピートの生存を確信し、戻ってくるまで気楽に待つつもりだったのだが、どれだけ待ってもその気配がなかった。

「本当にピートここがここで暮らしてたの?」

 姉であるメリッサを睨みつける。

「それは絶対。私がピートの臭いを間違えるわけない」

 疑われたのが心外とばかりに、メリッサはむっとするとメリルを睨み返した。

「実際のところ、戻ってこないことを考えると俺たちもそろそろ決めなきゃいけねえな」

「決めるって何をですか、ブレッドさん?」

 食事を作っていたミラがブレッドに顔を向けた。

「ピートの奴は例の王女様と一緒にいるはずだ。にもかかわらずここに戻ってこない。何かあったか、ここを放棄して先に進んだんじゃねえか?」

「何かって……まさか!?」

 ブレッドの憶測にメリルが動揺する。
 メリッサはメリルの肩へと触れると首を横に振った。

「あのピートが簡単に死ぬわけがない」

「ああそうだ。だから奴のことだ、先に進んでいるに違いねえ」

「そ、そうだよね。だってピートはしぶといし……」

 冒険者としてのランクこそ低いせいで侮られがちだが、ピートは決して弱くはない。

 魔法職にもかかわらずソロ冒険者をやっていてDランクなのだ。
 Dランク冒険者ともなればCランクモンスターを討伐する依頼もあったりする。
 CランクモンスターはCランク冒険者がパーティーを組んで討伐するもの。冒険者ギルドも同じ認識で依頼を割り振っているのだが、ピートは一人でそれをやり遂げるのだ。

 ソロで受けられる依頼こそ少ないからランクが上がり辛いのだが、そもそもSランク冒険者に目を掛けられている時点で実力があるのははっきりしている。

「なら、俺たちもそろそろ先に進むことを考えなきゃならねえ。幸い、食糧の補充もできたしな」

 この五日間、ただピートが帰ってくるのを待っていたわけではない。
 川で釣った魚を干物にしたり、森で果物を集めたり。襲ってくるモンスターを倒したりと、蓄えを増やしていた。

「この深淵ダンジョンは幸いなことに生きていくだけなら問題ない。一度入ったら出られない制約のせいで帰還者がいないってだけのことだしな」

「なにそれ? 初耳なんだけど?」

 メリルがブレッドに視線を向ける。

「ああ、これは俺が最初に深淵ダンジョンに入った時だな。もしかして入ってすぐなら出られるんじゃないかと思ったんだが、見えない壁に阻まれて戻れなかった」

 一方通行なのではないかと疑っていたブレッドは他の人間に遅れて入ってくるように言って出口が閉まる前の状況を確認していた。

「つまり、ピートが私たちより先に出ていくこともない」

 メリッサがそう呟くとブレッドは首を縦に振る。

「向かうとしたらどこに向かうんですか?」

 ミラが質問をする。この深淵ダンジョンは広い。地図上で確認するなら、それこそ外の十二国すべてと同等くらいには。

「あいつのことなら俺が一番よくわかってる。ピートが目指すのはこのダンジョンの中心だ」

 無実の罪で投獄されて黙っているような人間ではない。必ず脱出するための手掛かりを求めて奥へと進む。ブレッドはそう確信していた。

「ここにいる限り俺たちは安全だ。それでも進むかどうか決めたいんだが……」

 この先にこれほど良い条件の場所があるかはわからない。そういう意味でブレッドは三人に確認をとろうとするのだが……。

「ピートが居る場所が私の場所だよ」

「進もう」

「姫様の傍に」

 問うまでもなかったようだ。ブレッドは頷く。

「それじゃあ、俺たちも中心を目指すとするか」


          ★


「それでは、これより御二人を第一層へと案内いたします」

 十日が過ぎた。その間たっぷり休養を取っていたが、予定では一週間程で案内が来る聞いていたので随分と遅い到着だ。

「随分と時間がかかっていたようだが、第一層に何があるんですか?」

 迎えに来た役人に俺は質問をする。

「今回会っていただくのはバベル第一層に住む十二貴族……そのうちの四貴族です。それぞれの調整に手間取ってしまい、予定日を過ぎて誠に申し訳ありませんでした」

 役人が謝り頭を下げた。

「十二貴族って?」

 シーラが質問をする。

「バベルは全部で十三の層でできています。上がれば上がるほどに階級が高くなり、多くの権利を得ることができます。バベルのすべてを運営しているのが十二貴族なのです」

「それって、つまり最高権力者ってことよね?」

 シーラの質問に俺は口を挟む。

「全部で十三層といったな、そうなると最上層が一番偉いんじゃないか?」

「その通りです、十二貴族がバベルを纏め、頂上の城にいる神王が十二貴族に命令をしています」

「神王か……」

 滞在してみてわかったのだが、この国に住む人間は不安とは無縁の生活を送っている。一歩外に出れば危険なモンスターがわんさかいるのに、それを知らずに生活している人間がほとんどだ。

 それもすべて神王の威光によるものらしい。

「神王は何か凄い奇跡を起こしたりするのか? もしくはそれを民が目撃したことは?」

 神を名乗るからには何か凄い力を持っているのではないかと思い探りを入れてみる。

「神王に直接謁見することが許されるのは十二貴族のみです。我々ではどれだけ階級を上げたとしても御身を拝むことは叶いません」

「すると、神王の姿を知っているのは十二貴族だけってことなのね……」

 バベル全土を掌握している十二貴族、その頂点に立つ神王の存在。
 この構造が、これまでこの国を永らえさせてきたということなのだろう……。

 そんな話をしている間も、エスカレーターはぐんぐんと上の層まで上がっていく。

 やがてエレベーターが止まりゲートが見えるようになった。

『ここから先はセイス家の敷地だ。身分証を見せろ』

 下層で見たのとは明らかに装備の質が違う。ピカピカに磨かれた鎧をまとった騎士が警備をしていた。

「スイエテ家への移動のため、敷地を通る許可をいただいております」

 役人が身分証をゲートに触れさせる。そして振り返ると俺たちにも同じ行動を求めた。

『……に、ピートに、シーラ。三名の通行を許可する』

 ゲートが開くと中の様子が見える。

「ふわぁ……綺麗な景色」

 そこには整備された公園のような風景が広がっていた。
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