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第24話 学園のマドンナは考え込む
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「ふぅ、今日も美味しかったぞ」
「相川、寿司屋に就職したらいいんじゃん?」
相沢と石川さんが満足そうに感想を呟く。
「だったら私も釣りのプロになろうかな!」
沢口さん手を挙げると、そんな宣言をした。
「釣りで食って行けるのか?」
沢口さんの宣言に対し、相沢はそんな疑問を口にする。
「今は配信とかもあるから、それなりに収益を上げている人もいるぞ」
初心者に対する釣り入門をうたった動画や、色んな場所にある港や浜辺で釣りをして、何が釣れるかを教える動画、他にも対象魚を決めて仕掛けとかこと細かに説明するものもある。
それらの動画を投稿している人間は、注目度が高く、スポンサーがついたりもしてメーカー案件の最新釣具などももらえたりする。
中にはごく少数、チームを組んでたりしてそれ一本で食っている者もいたりする。
俺は自分が見ている動画を基に皆に説明をしてみた。現状では厳しいということを伝えたつもりだったのだが、
「相川っち、私と一緒にプロを目指そう」
沢口さんはますます乗り気になったようで、俺の肩を叩いて勧誘してくる。
「なんか、真帆。相川と距離が近くない?」
石川さんがスマホを弄りながら、俺たちの様子を観察する。その目は俺たちの関係を探っているようだった。
「もしかして、惚れたか?」
「……い、いきなり何を言うんだよ!」
相沢が笑みを浮かべると爆弾発言を投げかけてくる。妙な誤解をされては困るので俺は慌てて否定の言葉を探す。
「んー、相川っちは弟みたいなタイプかな。私、格好いい男の子が好きだから可愛い系はちょっと……。ごめんねー?」
沢口さんが口元に手をあてて含み笑いを浮かべている。その一言で冷静になることができた。
「いや、別に気にしてないから」
「そこはもっと意識しようよ!?」
彼女のからかいには数日付き合ったお蔭で慣れてしまった。今では即座にこのような返しまでできるように成長している。
「それに相川っち。わざわざ私のために釣った魚を小皿に用意してくれたよね? 愛を感じたよ?」
それでも、このまま引き下がるのが悔しかったのか、沢口さんは笑みを浮かべると追撃をしてくる。
「いや、初めて釣った魚を自分で食べたくなるのは釣り人なら当然だし、そんなつもり一切ないよ」
にじり寄る沢口さんをバッサリと斬る。それこそ、本気でまったくなにも思っていないのだから仕方ない。
「なんだかんだで、相性いいだろお前ら、絶対」
今のやり取りを見ていた相沢が呆れた表情を浮かべ、俺たちを見ている。相沢は何でも男女の恋愛に結び付けようとするのでずれているのだ。
「それより、美沙はどうしたん?」
石川さんが渡辺さんに話しを振る。
先程から会話に入ってこず、食事の時もあまりしゃべらなかった。
皆の視線が渡辺さんへと向かった。
「やっぱり疲れてる?」
先程も、料理を手伝ってもらったばかりだし、今日は激しく運動をしたので眠いのではないかと心配した。
「ち、違いますっ! 疲れているわけではなくて……」
そう言うと、チラリと恨みがましい視線を向けてくる。
「もぅ、相川君が悪いんですからね」
ボソリと俺だけに聞こえるように囁いた。
一体何をしでかしたかわからないのだが、どうやらいつのまにか、彼女の不興を買ってしまったようだ。
「それより、明日はどうするん?」
石川さんは渡辺さんから視線を外すと、予定を聞いてくる。
「んー、俺と相川はまだ数日バイトだからな」
今日と違って、明日は一日中バイトになっている。元々、バイト目的できているので、釣りをしたり海水浴を楽しんだり、ビーチバレーをしたりする方がイレギュラーなのだ。
「私たちは明日帰らないといけないもんね」
一方、渡辺さんたちも、本来、遊びにきていただけなので帰らなければならない。遊び足りないのか、三人とも残念そうな顔をしている。
「んじゃ、最後の夜だし、語り明かすとするか」
相沢が空気を変えようと提案をする。
「飲み物よし! お菓子よし!」
沢口さんがそれに乗り、急遽テーブルの上にお菓子が並べられる。
「今夜は寝かさないし」
石川さんが悪乗りをするのだが、
「いや、寝ないと明日のバイトがきつい!」
「そのぐらい気合で乗り切れ! 相川っち!」
沢口さんがテンション高く絡んで来た。
「よーし、今日は目一杯楽しみましょうね!」
渡辺さんが明るい声を出し宴が始まる。
結局この宴は日付を超えても続くことになるのだった……。
「……ん」
静寂が支配する室内に波の音が聞こえる。
スマホの時計を見ると、時刻は朝の4時を回っていた。
スマホの明かりが漏れ、隣で眠る相沢の顔を照らす。
昨晩はずっとテンション高く場を盛り上げ続けていたのだが、女子が眠気を訴え解散になった後、部屋に戻るなり電池が切れたかのように布団に倒れ込んでしまった。
以降、微動だにせず眠り続けている。
まだバイトまでは全然時間がある。もうひと眠りしようかと思ったが、スマホの明かりのせいで中途半端に意識が覚醒してしまったので、トイレにでも行くことにした。
相沢を起こさないように、そっと部屋を出て階段を下りる。女子三人の部屋は階段を下りた奥の方にあるので、間違っても立ち入らないように方向を確実に意識した。
廊下を歩き、玄関前のトイレまで到着する。途中、先程まで騒いでいた和室がある。
用を済ませ、部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、和室から外に出られる軒先に黒い模様が浮かび上がっていた。
目を凝らしていると段々と輪郭がはっきりする。軒先に見える背中に俺は見覚えがある。渡辺さんだろう。
眠れなかったのか、俺と同じように起きてきたのか?
いずれにせよ、急に声を掛けると驚かせてしまうかもしれない。俺はこのまま戻ろうかと思っていると、急に彼女が振り向いた。
「相川君。だったんですね?」
「どうしてわかったの?」
なぜ俺がいることがわかったのか思わず聞き返してしまった。
「廊下を人が歩く音は聞こえましたから。里穂さんや真帆さんなら声を掛けてくるはずなので、相沢君か相川君のどちらかだろうなと思ったんです」
確かに、特に足音を殺して歩いていたわけではない。誰かが立ち止まる気配を感じたならアタリをつけるのは簡単か。
早朝に見る渡辺さんは、普段に比べ元気がないように見える。暗がりの中でみるからか、それとも疲れているからなのか?
「相川君。良かったら散歩でもしませんか?」
ふと何気なしに、渡辺さんはそう切り出してきた。
「俺で良かったら付き合うよ」
女の子一人で夜の浜辺を歩かせるわけにはいかない。彼女が歩きたいというのなら俺は同行することにした。
「ありがとうございます」
俺たちはサンダルに履き替えると、宿から外に出た。
「この時間は割と冷えるんですね」
渡辺さんは腕を抱き震える。
日中は立っているだけで汗を掻くくらいの気温だが、深夜から早朝にかけてはやや寒いくらいだ。浴衣一枚では寒かろう。
「何か羽織るもの持ってこようか?」
風邪をひかれては困るので、上着を用意しようか聞いてみるのだが、
「いえ、このくらいなら平気です」
渡辺さんは首を横に振ると歩き出した。
風を受け、髪をたなびかせる。月明かりが注ぎ、彼女の亜麻色の髪が輝いて見えた。
しばらくの間、浜辺を歩く。目的もなく、ただただ、無言で。
俺は黙って彼女について行く。渡辺さんが何か考え事をしているように見えたので、その思考を遮りたくなかったから。
少しして、彼女が立ち止まった。
「相川、寿司屋に就職したらいいんじゃん?」
相沢と石川さんが満足そうに感想を呟く。
「だったら私も釣りのプロになろうかな!」
沢口さん手を挙げると、そんな宣言をした。
「釣りで食って行けるのか?」
沢口さんの宣言に対し、相沢はそんな疑問を口にする。
「今は配信とかもあるから、それなりに収益を上げている人もいるぞ」
初心者に対する釣り入門をうたった動画や、色んな場所にある港や浜辺で釣りをして、何が釣れるかを教える動画、他にも対象魚を決めて仕掛けとかこと細かに説明するものもある。
それらの動画を投稿している人間は、注目度が高く、スポンサーがついたりもしてメーカー案件の最新釣具などももらえたりする。
中にはごく少数、チームを組んでたりしてそれ一本で食っている者もいたりする。
俺は自分が見ている動画を基に皆に説明をしてみた。現状では厳しいということを伝えたつもりだったのだが、
「相川っち、私と一緒にプロを目指そう」
沢口さんはますます乗り気になったようで、俺の肩を叩いて勧誘してくる。
「なんか、真帆。相川と距離が近くない?」
石川さんがスマホを弄りながら、俺たちの様子を観察する。その目は俺たちの関係を探っているようだった。
「もしかして、惚れたか?」
「……い、いきなり何を言うんだよ!」
相沢が笑みを浮かべると爆弾発言を投げかけてくる。妙な誤解をされては困るので俺は慌てて否定の言葉を探す。
「んー、相川っちは弟みたいなタイプかな。私、格好いい男の子が好きだから可愛い系はちょっと……。ごめんねー?」
沢口さんが口元に手をあてて含み笑いを浮かべている。その一言で冷静になることができた。
「いや、別に気にしてないから」
「そこはもっと意識しようよ!?」
彼女のからかいには数日付き合ったお蔭で慣れてしまった。今では即座にこのような返しまでできるように成長している。
「それに相川っち。わざわざ私のために釣った魚を小皿に用意してくれたよね? 愛を感じたよ?」
それでも、このまま引き下がるのが悔しかったのか、沢口さんは笑みを浮かべると追撃をしてくる。
「いや、初めて釣った魚を自分で食べたくなるのは釣り人なら当然だし、そんなつもり一切ないよ」
にじり寄る沢口さんをバッサリと斬る。それこそ、本気でまったくなにも思っていないのだから仕方ない。
「なんだかんだで、相性いいだろお前ら、絶対」
今のやり取りを見ていた相沢が呆れた表情を浮かべ、俺たちを見ている。相沢は何でも男女の恋愛に結び付けようとするのでずれているのだ。
「それより、美沙はどうしたん?」
石川さんが渡辺さんに話しを振る。
先程から会話に入ってこず、食事の時もあまりしゃべらなかった。
皆の視線が渡辺さんへと向かった。
「やっぱり疲れてる?」
先程も、料理を手伝ってもらったばかりだし、今日は激しく運動をしたので眠いのではないかと心配した。
「ち、違いますっ! 疲れているわけではなくて……」
そう言うと、チラリと恨みがましい視線を向けてくる。
「もぅ、相川君が悪いんですからね」
ボソリと俺だけに聞こえるように囁いた。
一体何をしでかしたかわからないのだが、どうやらいつのまにか、彼女の不興を買ってしまったようだ。
「それより、明日はどうするん?」
石川さんは渡辺さんから視線を外すと、予定を聞いてくる。
「んー、俺と相川はまだ数日バイトだからな」
今日と違って、明日は一日中バイトになっている。元々、バイト目的できているので、釣りをしたり海水浴を楽しんだり、ビーチバレーをしたりする方がイレギュラーなのだ。
「私たちは明日帰らないといけないもんね」
一方、渡辺さんたちも、本来、遊びにきていただけなので帰らなければならない。遊び足りないのか、三人とも残念そうな顔をしている。
「んじゃ、最後の夜だし、語り明かすとするか」
相沢が空気を変えようと提案をする。
「飲み物よし! お菓子よし!」
沢口さんがそれに乗り、急遽テーブルの上にお菓子が並べられる。
「今夜は寝かさないし」
石川さんが悪乗りをするのだが、
「いや、寝ないと明日のバイトがきつい!」
「そのぐらい気合で乗り切れ! 相川っち!」
沢口さんがテンション高く絡んで来た。
「よーし、今日は目一杯楽しみましょうね!」
渡辺さんが明るい声を出し宴が始まる。
結局この宴は日付を超えても続くことになるのだった……。
「……ん」
静寂が支配する室内に波の音が聞こえる。
スマホの時計を見ると、時刻は朝の4時を回っていた。
スマホの明かりが漏れ、隣で眠る相沢の顔を照らす。
昨晩はずっとテンション高く場を盛り上げ続けていたのだが、女子が眠気を訴え解散になった後、部屋に戻るなり電池が切れたかのように布団に倒れ込んでしまった。
以降、微動だにせず眠り続けている。
まだバイトまでは全然時間がある。もうひと眠りしようかと思ったが、スマホの明かりのせいで中途半端に意識が覚醒してしまったので、トイレにでも行くことにした。
相沢を起こさないように、そっと部屋を出て階段を下りる。女子三人の部屋は階段を下りた奥の方にあるので、間違っても立ち入らないように方向を確実に意識した。
廊下を歩き、玄関前のトイレまで到着する。途中、先程まで騒いでいた和室がある。
用を済ませ、部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、和室から外に出られる軒先に黒い模様が浮かび上がっていた。
目を凝らしていると段々と輪郭がはっきりする。軒先に見える背中に俺は見覚えがある。渡辺さんだろう。
眠れなかったのか、俺と同じように起きてきたのか?
いずれにせよ、急に声を掛けると驚かせてしまうかもしれない。俺はこのまま戻ろうかと思っていると、急に彼女が振り向いた。
「相川君。だったんですね?」
「どうしてわかったの?」
なぜ俺がいることがわかったのか思わず聞き返してしまった。
「廊下を人が歩く音は聞こえましたから。里穂さんや真帆さんなら声を掛けてくるはずなので、相沢君か相川君のどちらかだろうなと思ったんです」
確かに、特に足音を殺して歩いていたわけではない。誰かが立ち止まる気配を感じたならアタリをつけるのは簡単か。
早朝に見る渡辺さんは、普段に比べ元気がないように見える。暗がりの中でみるからか、それとも疲れているからなのか?
「相川君。良かったら散歩でもしませんか?」
ふと何気なしに、渡辺さんはそう切り出してきた。
「俺で良かったら付き合うよ」
女の子一人で夜の浜辺を歩かせるわけにはいかない。彼女が歩きたいというのなら俺は同行することにした。
「ありがとうございます」
俺たちはサンダルに履き替えると、宿から外に出た。
「この時間は割と冷えるんですね」
渡辺さんは腕を抱き震える。
日中は立っているだけで汗を掻くくらいの気温だが、深夜から早朝にかけてはやや寒いくらいだ。浴衣一枚では寒かろう。
「何か羽織るもの持ってこようか?」
風邪をひかれては困るので、上着を用意しようか聞いてみるのだが、
「いえ、このくらいなら平気です」
渡辺さんは首を横に振ると歩き出した。
風を受け、髪をたなびかせる。月明かりが注ぎ、彼女の亜麻色の髪が輝いて見えた。
しばらくの間、浜辺を歩く。目的もなく、ただただ、無言で。
俺は黙って彼女について行く。渡辺さんが何か考え事をしているように見えたので、その思考を遮りたくなかったから。
少しして、彼女が立ち止まった。
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