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第13話 学園のマドンナは正体に気付いている
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休日の夕方ということもあってか、カフェの中は混んでいた。
買い物を終えた人間が休憩に立ち寄ったのか、運よく空いた六人用のテーブル席に俺たちは荷物を置き、順番に飲み物を買いに行く。
「相沢、何飲む?」
「ん、俺はコーラフロートかな?」
「オッケー」
俺は自分の分として抹茶ラテを注文すると、溜息を吐き、遠目に三人を見た。
「何だよ、そんなに嫌だったのか?」
相沢はそんな俺を非難するような目で見る。どうやら誤解させたようだ。
「別に嫌ではないけど、向こうも俺なんかがいたら楽しめないんじゃないかと思って」
石川さんも沢口さんも、学園に入学して以来目立っている、カースト上位の生徒だ。相沢のように社交的でスポーツもできる人物なら気軽に接することができるのだろうが、俺のように交友が広くない人間にはハードルが高い。
「そんなことないだろ。お前って話してみると割と面白いし、聞き上手だからな」
「そっか、ありがとよ」
相沢の特に根拠のない慰めを適当にスルーする。
程なく注文した品を受け取ると、俺たちは席に戻った。
「それにしても、すごい偶然だよね」
一番左の席に座った石川さんがストローでドリンクを飲みながら身を乗り出し相沢に話し掛けた。
「本当だよ。買い物して次どうしようか話してたら、いきなり相沢が目の前通り過ぎたんだもん」
俺の正面に座る沢口さんも面白そうに会話に参加した。
「俺も今日は家から出るつもりなかったんだけど、こいつに誘われちゃってさ」
相沢は俺の肩を抱くと、強引に二人の視界に俺を納めた。
「ところでさぁ、相沢。その人紹介してよ」
「「えっ?」」
石川さんの言葉に俺と渡辺さんが反応する。
目を丸くし、彼女と視線を合わせる。これはどういうドッキリだろうか?
俺と渡辺さんが戸惑っている間に、相沢は悪戯な笑みを浮かべている。
「なんだ、お前ら。気付いてないのか?」
「どういうこと?」
沢口さんが首を傾げると、満を持して告げる。
「相川だよ。同じクラスの」
「「えええええええええええええええええっ!?」」
石川さんと沢口さんが驚き、俺を凝視してきた。
「学校と全然印象違うじゃん!」
石川さんがテーブルに手をつき立ち上がると身を乗り出す。
「もっと、おとなしい無害系の……どんな顔してたっけ?」
沢口さんは半眼になるとじっと俺を観察してきた。
女子二人にじっと見られ、俺は緊張して身動きがとれなくなる。
「ふ、二人とも。あまりジロジロ見ちゃだめ!」
そんな俺の状態を察してか、渡辺さんが二人を止めてくれた。
どうにか石川さんが席に腰を下ろし、沢口さんが視線を外すと、俺はホッと胸を撫で卸す。
「ていうーか、全然ありじゃん。どうして今まで隠してたん?」
石川さんは親しみの籠った笑顔を俺に向けると、疑問を口にした。
「別に……隠すとか、そんなつもりはなかったんだけど……」
服装にかんしては今日変えたばかり。他に変わったのは髪型くらいのものだ。
彼女が俺を良くなったというのなら、それはきっと、店員さんや相沢が選んでくれた私服補正が働いているのだろうと思う。
自分の手柄でない以上、胸を張って応えられる自信がない。
「服のセンスも中々、読モの相方に欲しいかも」
沢口さんはアゴに手を当てるとそんなことを呟いた。
「こいつ、読モやってるんだよ」
「そうなの!? 凄いね!」
相沢が、沢口さんのプロフィールを俺に教えてくれる。確かに着ている服がお洒落だとは思ったが、雑誌に載るような有名人だとは思わなかった。
俺が沢口さんに尊敬の眼差しを向けていると……。
「にしても、こんな身近にこんな逸材がいるなんて、完全に見逃してたっしょ」
石川さんが妙に俺をもてはやす。
「本当にね、相沢と並んで目の保養になる」
二人は盛り上がり、次々と質問をしてくる。俺は困惑しながらもそれに答えていると……。
「そう言えば、渡辺さんはコイツに最初から気付いてたんだよな?」
相沢の疑問に、その場の全員の視線が渡辺さんへと向いた。
「そう言えばそう! どうしてわかったん?」
石川さんが疑惑の視線を渡辺さんへと送る。もしかすると、俺たちの関係がバレてしまうのではないか?
渡辺さんがどのように返事をするかで運命が決まる。俺が、彼女は何と答えるかに意識を集中していると……。
「それは、だって。相川君ですし」
ところが、渡辺さんはそんな疑いの視線を意にも介さず、両手を前で合わせると笑顔で答えた。
「だ、だってさ、こんなに普段と違うよ。私服だし、髪セットしてるし」
沢口さんが、普段の俺との差異を告げる。彼女がここまで言うということは、ぱっと見で同一人物には見えないくらい差が出ているのだろう。
なぜ、俺だと気付いたのか説明を請求されている。きっと渡辺さんなら上手く誤魔化してくれる。俺はそんな信頼を彼女に向け――。
「確かにそうですけど、見た目も普通に相沢君ですし、私服なら――」
「んっ! んんっ!」
危なかった、そう言えば渡辺さんは割と天然なところもあたのだった。
「おいっ、相川うるさいぞ」
「ごめん、ちょっと喉の調子が悪くて」
眉根を寄せ非難してくる相沢に片手を挙げて謝っておく。
「おいおい、体調管理はしっかりしろよ」
相沢に呆れられたのだが、この際それはどうでもいい。
「それで、どうして急にそんなイメチェンしたの?」
沢口さんが好奇心に目をキラキラさせ話し掛けてくる。身を乗り出してくるのだが、心なしか距離が近く、目の前に彼女の顔があるので答え辛かった。
「それは……成り行きというか……」
本当はここまでするつもりはなかったのだが、店員さんと相沢に圧されてしまい、結果としてこのような姿になったのだ。
「コイツ実は、女と約束があるらしくてさ」
「おいっ!」
俺は焦って相沢を止めるため手を伸ばすのだが、奴は両手をガードすると話し続けた。
「一緒に出掛ける時の服がないからって、俺に頼んで来たんだよ」
「へぇー、可愛いじゃん」
相沢の報告に、石川さんは頬杖を付くと優しい目を向けてきた。
「健気でいいよね。もし、私がそんな話聞かされたら、一発で恋に落ちちゃうかも」
沢口さんは両手を組み首を傾け、目をキラキラさせるとうっとりとした表情を浮かべる。実は結構乙女な人なのかもしれない。
「真帆はそんなこといって、誰とも付き合おうとしないじゃん」
そんな沢口さんに、石川さんが突っ込みを入れる。
「それは、私の心をキュンキュンさせてくれる男子がこの世にいないからだしー」
石川さんと沢口さんが俺の行動について盛り上がり始めるのだが、それより渡辺さんの様子が気になった。
彼女を見ると、頬を赤くしてこちらを見ている。相沢のせいで妙な感じで伝わってしまったせいでだろう。
このまま放置すれば誤解されたま明日を向かえることになる。それだけは避けたかった。
「まったく、相沢。ふざけすぎだって、でたらめばかり言いやがって」
俺は髪をかきあげ、冷静を装うと皆に向かって話し掛けた。
「そろそろ夏物の服が欲しくて、今回相沢を誘って買い物に来ただけだし、この髪型だってショップの店員さんと相沢の悪のりなんだ。一緒に出掛ける女の子ってのも俺は言った覚えはない」
あくまで服を買いに来ただけ、一緒に出掛ける女の子云々は相沢の妄想。実際に一言も口にしていないので嘘ではない。
「なるほど、相沢の作り話か」
「本当だったら素敵だったのにねー」
俺の堂々とした態度に、石川さんも沢口さんも納得した様子。日頃の相沢の態度に逆に救われた状態だ。
「ふーん、女の子の為ってのは嘘なんだ。じゃあ、相川君って今フリーなんだねー」
「えっ? そうだけど?」
沢口さんが目をキラリと光らせると悪戯な声を出す。
「だったらさ、今度、私とも一緒に遊びに行こうよ」
唐突に右手を伸ばし、俺の左手に触れてくる。
「何だったら、明日とかどう?」
あまりの予想外の事態に、俺の脳が状況を把握できずかたまっていると……。
「だ、駄目です!?」
「み、美沙?」
突然、渡辺さんが立ち上がり叫ぶと、パッと手が離れた。
「明日なんて急ですし、相川君も予定があるかもしれないじゃないですか」
普段らしからぬ態度の渡辺さんに、その場の全員がぽかんと彼女を見る。
少ししてそれに気付いたのか、彼女は顔を逸らし椅子に座り直す。
「ああ、ごめん。明日はちょっと用事があるから……」
「あ、うん。そだね」
すっかり毒気を抜かれたのか沢口さんも乾いた表情を浮かべ俺に返事をする。
結局この日はその後、少ししてから解散するのだった。
買い物を終えた人間が休憩に立ち寄ったのか、運よく空いた六人用のテーブル席に俺たちは荷物を置き、順番に飲み物を買いに行く。
「相沢、何飲む?」
「ん、俺はコーラフロートかな?」
「オッケー」
俺は自分の分として抹茶ラテを注文すると、溜息を吐き、遠目に三人を見た。
「何だよ、そんなに嫌だったのか?」
相沢はそんな俺を非難するような目で見る。どうやら誤解させたようだ。
「別に嫌ではないけど、向こうも俺なんかがいたら楽しめないんじゃないかと思って」
石川さんも沢口さんも、学園に入学して以来目立っている、カースト上位の生徒だ。相沢のように社交的でスポーツもできる人物なら気軽に接することができるのだろうが、俺のように交友が広くない人間にはハードルが高い。
「そんなことないだろ。お前って話してみると割と面白いし、聞き上手だからな」
「そっか、ありがとよ」
相沢の特に根拠のない慰めを適当にスルーする。
程なく注文した品を受け取ると、俺たちは席に戻った。
「それにしても、すごい偶然だよね」
一番左の席に座った石川さんがストローでドリンクを飲みながら身を乗り出し相沢に話し掛けた。
「本当だよ。買い物して次どうしようか話してたら、いきなり相沢が目の前通り過ぎたんだもん」
俺の正面に座る沢口さんも面白そうに会話に参加した。
「俺も今日は家から出るつもりなかったんだけど、こいつに誘われちゃってさ」
相沢は俺の肩を抱くと、強引に二人の視界に俺を納めた。
「ところでさぁ、相沢。その人紹介してよ」
「「えっ?」」
石川さんの言葉に俺と渡辺さんが反応する。
目を丸くし、彼女と視線を合わせる。これはどういうドッキリだろうか?
俺と渡辺さんが戸惑っている間に、相沢は悪戯な笑みを浮かべている。
「なんだ、お前ら。気付いてないのか?」
「どういうこと?」
沢口さんが首を傾げると、満を持して告げる。
「相川だよ。同じクラスの」
「「えええええええええええええええええっ!?」」
石川さんと沢口さんが驚き、俺を凝視してきた。
「学校と全然印象違うじゃん!」
石川さんがテーブルに手をつき立ち上がると身を乗り出す。
「もっと、おとなしい無害系の……どんな顔してたっけ?」
沢口さんは半眼になるとじっと俺を観察してきた。
女子二人にじっと見られ、俺は緊張して身動きがとれなくなる。
「ふ、二人とも。あまりジロジロ見ちゃだめ!」
そんな俺の状態を察してか、渡辺さんが二人を止めてくれた。
どうにか石川さんが席に腰を下ろし、沢口さんが視線を外すと、俺はホッと胸を撫で卸す。
「ていうーか、全然ありじゃん。どうして今まで隠してたん?」
石川さんは親しみの籠った笑顔を俺に向けると、疑問を口にした。
「別に……隠すとか、そんなつもりはなかったんだけど……」
服装にかんしては今日変えたばかり。他に変わったのは髪型くらいのものだ。
彼女が俺を良くなったというのなら、それはきっと、店員さんや相沢が選んでくれた私服補正が働いているのだろうと思う。
自分の手柄でない以上、胸を張って応えられる自信がない。
「服のセンスも中々、読モの相方に欲しいかも」
沢口さんはアゴに手を当てるとそんなことを呟いた。
「こいつ、読モやってるんだよ」
「そうなの!? 凄いね!」
相沢が、沢口さんのプロフィールを俺に教えてくれる。確かに着ている服がお洒落だとは思ったが、雑誌に載るような有名人だとは思わなかった。
俺が沢口さんに尊敬の眼差しを向けていると……。
「にしても、こんな身近にこんな逸材がいるなんて、完全に見逃してたっしょ」
石川さんが妙に俺をもてはやす。
「本当にね、相沢と並んで目の保養になる」
二人は盛り上がり、次々と質問をしてくる。俺は困惑しながらもそれに答えていると……。
「そう言えば、渡辺さんはコイツに最初から気付いてたんだよな?」
相沢の疑問に、その場の全員の視線が渡辺さんへと向いた。
「そう言えばそう! どうしてわかったん?」
石川さんが疑惑の視線を渡辺さんへと送る。もしかすると、俺たちの関係がバレてしまうのではないか?
渡辺さんがどのように返事をするかで運命が決まる。俺が、彼女は何と答えるかに意識を集中していると……。
「それは、だって。相川君ですし」
ところが、渡辺さんはそんな疑いの視線を意にも介さず、両手を前で合わせると笑顔で答えた。
「だ、だってさ、こんなに普段と違うよ。私服だし、髪セットしてるし」
沢口さんが、普段の俺との差異を告げる。彼女がここまで言うということは、ぱっと見で同一人物には見えないくらい差が出ているのだろう。
なぜ、俺だと気付いたのか説明を請求されている。きっと渡辺さんなら上手く誤魔化してくれる。俺はそんな信頼を彼女に向け――。
「確かにそうですけど、見た目も普通に相沢君ですし、私服なら――」
「んっ! んんっ!」
危なかった、そう言えば渡辺さんは割と天然なところもあたのだった。
「おいっ、相川うるさいぞ」
「ごめん、ちょっと喉の調子が悪くて」
眉根を寄せ非難してくる相沢に片手を挙げて謝っておく。
「おいおい、体調管理はしっかりしろよ」
相沢に呆れられたのだが、この際それはどうでもいい。
「それで、どうして急にそんなイメチェンしたの?」
沢口さんが好奇心に目をキラキラさせ話し掛けてくる。身を乗り出してくるのだが、心なしか距離が近く、目の前に彼女の顔があるので答え辛かった。
「それは……成り行きというか……」
本当はここまでするつもりはなかったのだが、店員さんと相沢に圧されてしまい、結果としてこのような姿になったのだ。
「コイツ実は、女と約束があるらしくてさ」
「おいっ!」
俺は焦って相沢を止めるため手を伸ばすのだが、奴は両手をガードすると話し続けた。
「一緒に出掛ける時の服がないからって、俺に頼んで来たんだよ」
「へぇー、可愛いじゃん」
相沢の報告に、石川さんは頬杖を付くと優しい目を向けてきた。
「健気でいいよね。もし、私がそんな話聞かされたら、一発で恋に落ちちゃうかも」
沢口さんは両手を組み首を傾け、目をキラキラさせるとうっとりとした表情を浮かべる。実は結構乙女な人なのかもしれない。
「真帆はそんなこといって、誰とも付き合おうとしないじゃん」
そんな沢口さんに、石川さんが突っ込みを入れる。
「それは、私の心をキュンキュンさせてくれる男子がこの世にいないからだしー」
石川さんと沢口さんが俺の行動について盛り上がり始めるのだが、それより渡辺さんの様子が気になった。
彼女を見ると、頬を赤くしてこちらを見ている。相沢のせいで妙な感じで伝わってしまったせいでだろう。
このまま放置すれば誤解されたま明日を向かえることになる。それだけは避けたかった。
「まったく、相沢。ふざけすぎだって、でたらめばかり言いやがって」
俺は髪をかきあげ、冷静を装うと皆に向かって話し掛けた。
「そろそろ夏物の服が欲しくて、今回相沢を誘って買い物に来ただけだし、この髪型だってショップの店員さんと相沢の悪のりなんだ。一緒に出掛ける女の子ってのも俺は言った覚えはない」
あくまで服を買いに来ただけ、一緒に出掛ける女の子云々は相沢の妄想。実際に一言も口にしていないので嘘ではない。
「なるほど、相沢の作り話か」
「本当だったら素敵だったのにねー」
俺の堂々とした態度に、石川さんも沢口さんも納得した様子。日頃の相沢の態度に逆に救われた状態だ。
「ふーん、女の子の為ってのは嘘なんだ。じゃあ、相川君って今フリーなんだねー」
「えっ? そうだけど?」
沢口さんが目をキラリと光らせると悪戯な声を出す。
「だったらさ、今度、私とも一緒に遊びに行こうよ」
唐突に右手を伸ばし、俺の左手に触れてくる。
「何だったら、明日とかどう?」
あまりの予想外の事態に、俺の脳が状況を把握できずかたまっていると……。
「だ、駄目です!?」
「み、美沙?」
突然、渡辺さんが立ち上がり叫ぶと、パッと手が離れた。
「明日なんて急ですし、相川君も予定があるかもしれないじゃないですか」
普段らしからぬ態度の渡辺さんに、その場の全員がぽかんと彼女を見る。
少ししてそれに気付いたのか、彼女は顔を逸らし椅子に座り直す。
「ああ、ごめん。明日はちょっと用事があるから……」
「あ、うん。そだね」
すっかり毒気を抜かれたのか沢口さんも乾いた表情を浮かべ俺に返事をする。
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