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第1話 学園のマドンナ渡辺美沙
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教室で昼食を摂りながら窓の外を見る。
入学から二週間が経過した現在、春の日差しは暖かく食後に眠気が押し寄せるので午後の授業が心配になる。
思うに、昼休憩後最初に歴史の授業を持ってくるのは間違いではないかと考える。
この快晴は週末まで続くと天気予報で言っていたので、予報が外れないでくれと内心で祈りながら窓を開けると、気持ちの良い風が入ってきた。
一年生の教室は四階にあるからか、中庭が見下ろせる。
そこでは二年や三年の先輩。互いに仲良くなった新入生がシートを広げランチタイムを楽しんでいた。
早速学内のトップカーストが形成されているようで、あの社交性は見習わなければならないところだろう。
どうすればあのように振る舞えるのかと考え、一年の集団を見ていると中心に非常に可愛らしい女子生徒を発見する。
1年Dクラスの渡辺美沙(わたなべみさ)。彼女は入学して間がないのに既に全学年の生徒に認識されており、二つ隣のここBクラスでも連日彼女の話題で持ちきりだ。
それというのも、温和な性格と誰とでも話しやすい雰囲気。これまで見てきた中で紛れもなく一番の整った容姿を持っているからだ。
既に二年三年の間で学園一のアイドルの称号を得たらしく、事実テレビで見るアイドルと並べても見劣りしていない。
そんな彼女を見ていれば何か分かるのではないかと思っていると、何かに気付いたのか彼女が顔を上げた。
一瞬、目が合ったような気がするのだが、昼休みに窓から顔を出しているのは俺だけではない。それでも視線が合っている気がするので俺もじっと見ていると……。
「まーた、外ばかり見てる」
ふと人の声に気付き視線を戻すと、クラスメイトの女子が俺を見ていた。
「相川君っていつも外ばかり見てるよね?」
確か、クラス委員長に立候補した子で大きな瞳がくりくりしていて背が低くて可愛らしい印象だ。
「ああ、天気が気になってさ」
「ふーん、週末に何か予定でもあるの?」
「おっ、察しがいいな。その通りだよ」
週末という単語で楽しみが膨らむ。思わず笑みを浮かべてしまう程だ。
「それって……もしかして、デート?」
「デート?」
男女が約束してどこかへ出かける行為のこと。何故に委員長はそのような思考に至ったのだろうか?
「いや、一人で出掛けるだけだし彼女がいたこともないからさ」
俺たちはまだ高校に入学したばかりだ。中学で付き合っていた男女も確かにいたのだが、趣味に青春を費やした俺にはそういう浮いた話は一切ない。
「と、そろそろ休憩時間が終わるから私戻るね」
そんな悲しいことを考えていると、委員長も察したのか席に戻って行ってしまう。
「週末、本当に晴れるといいんだけどな」
俺はてるてる坊主でも作ろうか悩むのだった。
「ふぅ、やっと週末になった」
バスを乗り継ぐこと数十分。歩くこと十分。俺は県内にある、とある漁港へと来ていた。
時刻は早朝を過ぎており、漁港で働く人たちは引き上げており堤防にはちらほらと人が見える。
俺は良さげな場所に陣取ると早速準備を始めた。
「風は弱いし、潮の流れも穏やかだ。今日は楽しい気分で釣りができそうだな」
そう、俺が嵌っている趣味というのは釣りで、子供の頃親父に連れて行ってもらってからというものすっかりのめり込んでしまい、今ではこうして一人で出掛ける程になっている。
仕掛けを垂らし魚を待っている時間というのはとても楽しく、実際に釣れた瞬間の喜びは言葉では言い表せない。
竿に鈴をつけ、魚が食いつけばわかるようにすると俺は持ってきた本を読み始める。水筒から珈琲を注ぎ口に含むと楽しい週末の開始だ。
しばらくの間、釣りと読書に没頭していると、何やら騒がしさで集中力が途切れた。
騒ぎの元を探ってみると、大学生くらいの数人に囲まれ、一人の少女が立っていた。
白のワンピース姿に麦わら帽子にサンダルと、完璧なまでのお嬢様スタイル。太陽の光を浴びて輝くウェーブかかった亜麻色の髪、どこかで見たことがある、アイドルのような整った容姿に思わす視線が吸い寄せられる。
「だからさ、俺らと一緒に遊びに行こうぜ」
「魚も全然釣れないし、無駄な時間だったからな」
「まあでも、こんな可愛い子が釣れたんだからよくね?」
「こ、困ります!」
柄の悪い連中だ。釣りは老若男女全員が楽しめる分、それぞれのモラルというものが重視される。
「あの、ここは釣り場であってナンパする場所じゃないんですけど?」
釣り人としてのマナーは困っている人がいれば助ける。海難事故などで毎年命を失う人もいるので、良識を持って行動するのが当然だ。
「あんだよ、ちょっとくらいいいだろうが?」
「彼女『困ってる』と言っているでしょう? あなた方も釣りをするなら互いに不愉快にならないよう行動を心掛けてください」
気が付けば周囲の注目を浴びていたのか、冷めた視線が大学生たちに突き刺さっている。
「ちっ、ちょっと話し掛けただけじゃなねえか」
「はー、止め止め」
「こんな場所二度と来るか」
彼らは釣り道具を乱暴に片付けると立ち去って行く。
これで釣り場の安全は保たれ、俺は幸せな週末の時間を取り戻そうと読書を再開すると……。
「あ、あの……」
なんとも可愛らしい声が聞こえた。顔を上げると先程ナンパされていた少女である。
「ん、どうかした?」
年齢はおそらく俺とそう離れていない。多分同級生か上下一つくらいだろう。
何か用があるのかと思い俺は首を傾げると彼女を観察する。
先程は遠かったので解らなかったが、思わず息を飲みそうになる美貌。
俺が返事を待っていると、彼女の形の良い唇が動く。
「えっと、相川良一君。ですよね?」
「どうして俺の名前を……?」
こんなところで名前を呼ばれ動揺する。彼女のような知り合いが俺のこれまでの人生にいるはずもなかったからだ。
じっと見ていると、確かに見覚えのある顔をしている。着ているワンピースを学校の制服にしてみると……。
「もしかして、渡辺さん?」
俺の言葉を肯定するように首を縦に振る。
何ということだろうか、俺がナンパから助けたのは学園のマドンナと評されている渡辺美沙だった。
入学から二週間が経過した現在、春の日差しは暖かく食後に眠気が押し寄せるので午後の授業が心配になる。
思うに、昼休憩後最初に歴史の授業を持ってくるのは間違いではないかと考える。
この快晴は週末まで続くと天気予報で言っていたので、予報が外れないでくれと内心で祈りながら窓を開けると、気持ちの良い風が入ってきた。
一年生の教室は四階にあるからか、中庭が見下ろせる。
そこでは二年や三年の先輩。互いに仲良くなった新入生がシートを広げランチタイムを楽しんでいた。
早速学内のトップカーストが形成されているようで、あの社交性は見習わなければならないところだろう。
どうすればあのように振る舞えるのかと考え、一年の集団を見ていると中心に非常に可愛らしい女子生徒を発見する。
1年Dクラスの渡辺美沙(わたなべみさ)。彼女は入学して間がないのに既に全学年の生徒に認識されており、二つ隣のここBクラスでも連日彼女の話題で持ちきりだ。
それというのも、温和な性格と誰とでも話しやすい雰囲気。これまで見てきた中で紛れもなく一番の整った容姿を持っているからだ。
既に二年三年の間で学園一のアイドルの称号を得たらしく、事実テレビで見るアイドルと並べても見劣りしていない。
そんな彼女を見ていれば何か分かるのではないかと思っていると、何かに気付いたのか彼女が顔を上げた。
一瞬、目が合ったような気がするのだが、昼休みに窓から顔を出しているのは俺だけではない。それでも視線が合っている気がするので俺もじっと見ていると……。
「まーた、外ばかり見てる」
ふと人の声に気付き視線を戻すと、クラスメイトの女子が俺を見ていた。
「相川君っていつも外ばかり見てるよね?」
確か、クラス委員長に立候補した子で大きな瞳がくりくりしていて背が低くて可愛らしい印象だ。
「ああ、天気が気になってさ」
「ふーん、週末に何か予定でもあるの?」
「おっ、察しがいいな。その通りだよ」
週末という単語で楽しみが膨らむ。思わず笑みを浮かべてしまう程だ。
「それって……もしかして、デート?」
「デート?」
男女が約束してどこかへ出かける行為のこと。何故に委員長はそのような思考に至ったのだろうか?
「いや、一人で出掛けるだけだし彼女がいたこともないからさ」
俺たちはまだ高校に入学したばかりだ。中学で付き合っていた男女も確かにいたのだが、趣味に青春を費やした俺にはそういう浮いた話は一切ない。
「と、そろそろ休憩時間が終わるから私戻るね」
そんな悲しいことを考えていると、委員長も察したのか席に戻って行ってしまう。
「週末、本当に晴れるといいんだけどな」
俺はてるてる坊主でも作ろうか悩むのだった。
「ふぅ、やっと週末になった」
バスを乗り継ぐこと数十分。歩くこと十分。俺は県内にある、とある漁港へと来ていた。
時刻は早朝を過ぎており、漁港で働く人たちは引き上げており堤防にはちらほらと人が見える。
俺は良さげな場所に陣取ると早速準備を始めた。
「風は弱いし、潮の流れも穏やかだ。今日は楽しい気分で釣りができそうだな」
そう、俺が嵌っている趣味というのは釣りで、子供の頃親父に連れて行ってもらってからというものすっかりのめり込んでしまい、今ではこうして一人で出掛ける程になっている。
仕掛けを垂らし魚を待っている時間というのはとても楽しく、実際に釣れた瞬間の喜びは言葉では言い表せない。
竿に鈴をつけ、魚が食いつけばわかるようにすると俺は持ってきた本を読み始める。水筒から珈琲を注ぎ口に含むと楽しい週末の開始だ。
しばらくの間、釣りと読書に没頭していると、何やら騒がしさで集中力が途切れた。
騒ぎの元を探ってみると、大学生くらいの数人に囲まれ、一人の少女が立っていた。
白のワンピース姿に麦わら帽子にサンダルと、完璧なまでのお嬢様スタイル。太陽の光を浴びて輝くウェーブかかった亜麻色の髪、どこかで見たことがある、アイドルのような整った容姿に思わす視線が吸い寄せられる。
「だからさ、俺らと一緒に遊びに行こうぜ」
「魚も全然釣れないし、無駄な時間だったからな」
「まあでも、こんな可愛い子が釣れたんだからよくね?」
「こ、困ります!」
柄の悪い連中だ。釣りは老若男女全員が楽しめる分、それぞれのモラルというものが重視される。
「あの、ここは釣り場であってナンパする場所じゃないんですけど?」
釣り人としてのマナーは困っている人がいれば助ける。海難事故などで毎年命を失う人もいるので、良識を持って行動するのが当然だ。
「あんだよ、ちょっとくらいいいだろうが?」
「彼女『困ってる』と言っているでしょう? あなた方も釣りをするなら互いに不愉快にならないよう行動を心掛けてください」
気が付けば周囲の注目を浴びていたのか、冷めた視線が大学生たちに突き刺さっている。
「ちっ、ちょっと話し掛けただけじゃなねえか」
「はー、止め止め」
「こんな場所二度と来るか」
彼らは釣り道具を乱暴に片付けると立ち去って行く。
これで釣り場の安全は保たれ、俺は幸せな週末の時間を取り戻そうと読書を再開すると……。
「あ、あの……」
なんとも可愛らしい声が聞こえた。顔を上げると先程ナンパされていた少女である。
「ん、どうかした?」
年齢はおそらく俺とそう離れていない。多分同級生か上下一つくらいだろう。
何か用があるのかと思い俺は首を傾げると彼女を観察する。
先程は遠かったので解らなかったが、思わず息を飲みそうになる美貌。
俺が返事を待っていると、彼女の形の良い唇が動く。
「えっと、相川良一君。ですよね?」
「どうして俺の名前を……?」
こんなところで名前を呼ばれ動揺する。彼女のような知り合いが俺のこれまでの人生にいるはずもなかったからだ。
じっと見ていると、確かに見覚えのある顔をしている。着ているワンピースを学校の制服にしてみると……。
「もしかして、渡辺さん?」
俺の言葉を肯定するように首を縦に振る。
何ということだろうか、俺がナンパから助けたのは学園のマドンナと評されている渡辺美沙だった。
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