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7.好きなら回れ右をしろ
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「ここで一括で買ったら、ポイントも付くとかって……」
「そうですね、つきますね。今なら上乗せもやってますし」
誰かに聞いてきたのだろうか。珍しく自分から質問してきた内容に、ふと一人の金髪頭の青年の顔が思い浮かんだ。
金髪頭――香坂は、自身の機種変を済ませた後も時折店に姿を見せていた。覗いていく売り場は様々だったが、スタッフそれぞれが香坂の商品に関する知識量には驚いていたくらいだ。元々友人関係の彼から、優駿が何か聞いてきたのだとしても不思議はない。
「すごいお得なんですね。じゃあ、どうせ変えるならその方がいいですよね」
優駿は腰を浮かせて、僅かに身を乗り出した。
「だったら、変えます!」
そして終いには宣誓でもするかのように告げられて、かえって宰の方が気圧されそうになった。その瞳は必要以上に輝いているように見えた。
「……分かりました。分かりましたが……」
宰は若干怯んだような心地ながらも、手近の書類を開き、支払い金額に関して詳細の書かれたページを提示した。
「一括で払うとなると……もちろん機種にもよりますが、最初にそれなりに纏まったお金が必要になります。それでもよろしいですか?」
優駿の境遇を考えれば、それくらい大したことではないと分かっていた。分かっていたが、これも手順の一環、一応確認はしておかなければならない。
「大丈夫です。お金ならありますから」
案の定、優駿はさらりと言ってのけた。そのまるで迷いのない言いように、宰は「ああ、全く変わっていない」と、呆れる――と言うより、どこか悲しいような気分になった。
心の中で、それも親の金だろうと思いながら、けれどももうそこまで踏み込むことはしない。自分がいちいち口出しすることではないと、頭ではわかっているのだ。
そこに優駿の元気な声が降ってきた。
「美鳥さん、俺、産まれて初めてバイトしたんですよ! 六月下旬から、今もまだ! 今日も昨夜からさっきまで、工事現場の手伝いしてきたとこで……」
予想外の言葉だった。驚いた宰は、知らず伏せていた視線を上げた。
優駿の表情は気迫に満ちていた。かち合った双眸も、いつにも増して強い光を帯びている。
「俺、今まで自分で働くってことがどんなに素晴らしいか知らなかった。最初は本当に大変だと思ったけど……自分で決めた仕事だって思ったら、そして美鳥さんの言葉の意味を考えていたら、自然と頑張れるようになりました」
優駿は徐にポケットから封筒を取り出した。それを呆然とする宰の目の前に置き、「これ」と少しだけ前に出す。
宰は逸る鼓動を抑えて、優駿の手元を見た。
「これだけあったら、足りますよね? 俺、変えたい機種の金額とか、まだよく知らないんですけど……」
(っていうか……一体幾ら入ってんだよ)
あくまでも笑顔の優駿を尻目に、宰は差し出された封筒を掴む。目の錯覚ではなかった。気の所為でもない。やはり分厚い。
「小泉さん……すみません。ちょっとこれ、開けていいですか」
「え? はい」
まさか千円札ばかりではないだろうと思いながら、封筒の中を確認する。
「あの、もし足りなかったらまだ家に少し……」
「あのですね……小泉さん」
遮るように言いながら、宰は静かに封筒を閉じた。優駿の表情が不安そうに曇る。その余りに見当違いな反応に、堪えきれず盛大な溜息をついた。そして封筒を差し返し、はっきりと告げる。
「これで足りない金額の機種なんて、うちには置いていませんから」
「そうですね、つきますね。今なら上乗せもやってますし」
誰かに聞いてきたのだろうか。珍しく自分から質問してきた内容に、ふと一人の金髪頭の青年の顔が思い浮かんだ。
金髪頭――香坂は、自身の機種変を済ませた後も時折店に姿を見せていた。覗いていく売り場は様々だったが、スタッフそれぞれが香坂の商品に関する知識量には驚いていたくらいだ。元々友人関係の彼から、優駿が何か聞いてきたのだとしても不思議はない。
「すごいお得なんですね。じゃあ、どうせ変えるならその方がいいですよね」
優駿は腰を浮かせて、僅かに身を乗り出した。
「だったら、変えます!」
そして終いには宣誓でもするかのように告げられて、かえって宰の方が気圧されそうになった。その瞳は必要以上に輝いているように見えた。
「……分かりました。分かりましたが……」
宰は若干怯んだような心地ながらも、手近の書類を開き、支払い金額に関して詳細の書かれたページを提示した。
「一括で払うとなると……もちろん機種にもよりますが、最初にそれなりに纏まったお金が必要になります。それでもよろしいですか?」
優駿の境遇を考えれば、それくらい大したことではないと分かっていた。分かっていたが、これも手順の一環、一応確認はしておかなければならない。
「大丈夫です。お金ならありますから」
案の定、優駿はさらりと言ってのけた。そのまるで迷いのない言いように、宰は「ああ、全く変わっていない」と、呆れる――と言うより、どこか悲しいような気分になった。
心の中で、それも親の金だろうと思いながら、けれどももうそこまで踏み込むことはしない。自分がいちいち口出しすることではないと、頭ではわかっているのだ。
そこに優駿の元気な声が降ってきた。
「美鳥さん、俺、産まれて初めてバイトしたんですよ! 六月下旬から、今もまだ! 今日も昨夜からさっきまで、工事現場の手伝いしてきたとこで……」
予想外の言葉だった。驚いた宰は、知らず伏せていた視線を上げた。
優駿の表情は気迫に満ちていた。かち合った双眸も、いつにも増して強い光を帯びている。
「俺、今まで自分で働くってことがどんなに素晴らしいか知らなかった。最初は本当に大変だと思ったけど……自分で決めた仕事だって思ったら、そして美鳥さんの言葉の意味を考えていたら、自然と頑張れるようになりました」
優駿は徐にポケットから封筒を取り出した。それを呆然とする宰の目の前に置き、「これ」と少しだけ前に出す。
宰は逸る鼓動を抑えて、優駿の手元を見た。
「これだけあったら、足りますよね? 俺、変えたい機種の金額とか、まだよく知らないんですけど……」
(っていうか……一体幾ら入ってんだよ)
あくまでも笑顔の優駿を尻目に、宰は差し出された封筒を掴む。目の錯覚ではなかった。気の所為でもない。やはり分厚い。
「小泉さん……すみません。ちょっとこれ、開けていいですか」
「え? はい」
まさか千円札ばかりではないだろうと思いながら、封筒の中を確認する。
「あの、もし足りなかったらまだ家に少し……」
「あのですね……小泉さん」
遮るように言いながら、宰は静かに封筒を閉じた。優駿の表情が不安そうに曇る。その余りに見当違いな反応に、堪えきれず盛大な溜息をついた。そして封筒を差し返し、はっきりと告げる。
「これで足りない金額の機種なんて、うちには置いていませんから」
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