一線の越え方

市瀬雪

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13日の金曜日

続9

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「っん……ぁ、ぃうっ……!」

 逸樹さんのもう一方の手が、俺の胸を撫でてくる。肉付きの薄い、真っ平らなそれを焦らすようにゆっくりとまさぐって、そのくせ不意にきゅっと突起を摘み上げてくる。触れあわせた唇の隙間から、飲み込み損ねた唾液と共に、くぐもった甘い吐息が漏れた。

「ぁ、待っ……逸樹さ……俺、ちょっと」

 逸樹さんだけでなく、俺の身体にも再び熱は灯っている。それは疑いようもなかったけれど、そこでふと俺は下腹部に別の違和感を覚えて口づけを解いた。
 過ぎったのは、熱を吐き出したいのとはまた別の欲求だった。

「……なんだよ」
「あ、うん……あの」

 あからさまに不満そうに目を細められ、俺はわずかに目を泳がせた。

 めちゃめちゃ言いにくいけど――本当なら、死ぬほど言いたくないことだけど、このごに及んで言わずに済むとも思えなくて、俺はおずおずと口を開く。

「俺……さっきから、トイレ、行きたくて……」

 普段の俺なら、はっきり逸樹《だれか》さんのせいで、予定外に飲む羽目になったからだって訴えていたと思う。思うけど、さすがにここでそれを言うのは無しだってことくらいわかる。
 だってそんなの、嫌な予感しかしない。逸樹さんの性格を知る人なら、十中八九思うだろう。――そんなの、逆効果でしかないって。

 だから俺は、できる限り謙虚に言ったつもりだ。

「ちゃんと、戻ってくるから……」

 そう、最大限に譲歩したつもりだった。

 ――なのに。なのに!

「ここでしろよ」

 立ち上がろうとした俺の腕を掴み、逸樹さんはきわめて当然のように言った。

「それなら、待ってやる」

 俺は絶句した。

 こ――…この人、何言ってんの……? マジで頭おかしいんじゃないの?
 これ以上ないくらいに凍り付いてしまった俺を引き寄せ、逸樹さんは更に耳元で囁いた。

「いや、やめた。――無理だな。やっぱ待てねぇわ」

 はぁ?!

「ほら、続き」
「ちょ、待っ……」

 撤回するの、早すぎだし……!

「我慢するなら、好きにしな」

 俺を胸に抱き留めたような形のまま、言うも半ばに、逸樹さんの手が俺の下肢へと伸ばされる。かと思うと、早急に両脚を抱え上げられ、割り開かれたそこにあてがわれたのは――。

「や、やめ……っちょっ、待……!」
「待てねぇって言ったろ」

 精一杯身を捩り、なんとかそれから逃れようとしたけれど、的確に抑え込んでくる逸樹さんの身体はびくともしない。
 逸樹さんの屹立が、くぼみの縁をゆるゆると躙る。それが間もなく中心で止まる。ぐち、と、触れあった場所から卑猥な水音が聞こえた気がした。

「ま、待……っマジで、無理……っや、ぃ――あぁ!」

 次の瞬間、逸樹さんは躊躇うことなく、一気に俺を貫いた。
 悲鳴じみた嬌声と共に、下腹部から溢れたものがお湯に紛れる。

(最っ低……この人、マジ最低……!)

 もうそれ以外の言葉は出てこない。
 そして次に感じたのは恐怖だった。

(俺……これからどうなんの……)

 心の中で改めて思う。
 ――いや、思わずにはいられなかった。

(ジェイソンが怖いとか……アンタの方が、よっぽど怖ぇよ!)



END
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