一線の越え方

市瀬雪

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13日の金曜日

続3

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 *  *  *

(あー、この感じ、久しぶり……)

 どうにか自分で身体を清めた俺は、先に湯船に入っていた逸樹さんの前に、背中を向けて座り込んでいた。

「なんでそっち向きなんだよ」
「別にいいだろ」

 そんなの、単に恥ずかしいからに決まってる。
 泡のおかげで身体は隠れてるけど、アンタの視線は露骨すぎるくらい露骨だし……。

「っつーか、別に先に上がってくれていいよ。俺一人でも、もう……」

 大丈夫だし、と続けようとした言葉を、「はぁ?」と強めの語気に遮られた。

「この状況で一緒に入らねぇとかねぇだろ」
「……そうですか」

 さも俺の方がおかしなことを言ったみたいに――それこそ常識のように言い切られる。
 俺は目の前の泡を両手ですくいながら、ははは、と乾いた笑いをこぼした。

 まぁ、確かに逸樹さんちのお風呂は広いし、二人で入ってもそこまで狭さは感じない。
 浴槽だって、アパートのものとは段違いに容量がある。

 だからって……だからって、それが当たり前だと思うなよ。

 心の中でつっこみながら、若干遠い目で泡と戯れる。


(まぁ、いいか……)

 俺は諦めたようにため息をつき、それから一度目を瞑る。そうすることで、努めて意識を切り替えた。

 なんだかんだ思うことはいっぱいあるけど、どうせ言ったって通じないことは分かっている。それならいっそ、現状を楽しんだ方が賢明な気もした。

 だってほら、少なくとも泡風呂これに罪はないわけだし……。
 いや、うん。正直やっぱ気持ちいいんだよな。この主張しすぎない香りもいい感じだし、滑らかに肌を包む泡の感覚もほんと心地良くて。このちょっとした特別感のある光景とかも、なんか楽しいし――。

 ――とか、ようやくほっと力を抜いた俺は、身体が温まるのに比例して、ほどよく回ってきた酔いに無意識に身を任せてしまう。

 少しずつ眠気も降りてきて、まどろみの中で泡を撫でながら、気がつくとこてんと頭が後ろへ傾いている。それを受け止めていたのは逸樹さんの肩だった。
 俺は知らず逸樹さんにもたれるようにして目を閉じると、そのままくうくうと寝息を立てそうになり――。

「……っ、ちょ、ちょっと……っ」

 けれども、それを逸樹さんは許してくれなかった。

「や、っ……」

 肌の上を泡が滑るのに乗じて、逸樹さんの手が俺の胸元へと伸びてくる。
 水面から出ていた胸を覆っているのは、吸い付くような濃密な泡だけだった。そのぬるぬるとした滑りを借りて、焦らすように色付きの周辺を撫でられる。かと思うと、息つく間もなく両方の突起を同時に弾かれた。

「ぃん……っ!」

 びり、とそこから鮮烈な痺れが走る。
 辛うじて声は堪えたけれど、おかげで身体からはいっそう力が抜けてしまった。

「寝んじゃねぇよ」

 囁く声が、耳に直接注ぎ込まれる。

「この俺を放って寝るとか、マジあり得ねぇから」

 ぴちゃ、と鮮やかすぎる水音がして、耳殻を執拗に舐められる。
 耳朶を食まれ、甘噛みされる。その一方で、胸の突起をしつこいくらいに擦られる。
 泡を介したまま摘み上げ、押し潰されて、先端を爪先で引っかかれると、そのいつもとはどこか違う感覚に、一際甘い吐息が漏れた。

「んぁっ……ぁ、待……っも、……いっ」
「もう、なんだよ……?」
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