一線の越え方

市瀬雪

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13日の金曜日

1【Side:山端逸樹】

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「ねえ逸樹《いつき》さん、『13日の金曜日』って映画知ってる?」

 久々に直人《なおひと》と会えた金曜日。
 たまには宅飲みしようぜと直人を誘って、つまみやら酒やらをしこたま買い込んで、俺は家に彼《恋人》を連れ込んだ。
 もちろん、ある程度飲んだら自然の流れで直人を抱くのは大前提だ。
 直人はほろ酔いぐらいにさせると感度も上がるし、何より体温がいつもより高くなって、挿《い》れた時、俺自身が直人を抱いてる!って実感できるのが堪らなくいい。
 あまり飲ませすぎると眠ってしまうから丁度いい塩梅《あんばい》を見極める必要があるけれど、そういう変化を観察することも含め、直人相手だと楽しいと思えてしまうから不思議だ。

 よく冷えたビールを開けて、グラスに移すのが面倒でそのまま口をつけたところで直人に問いかけられた。
 一応直人の前にも俺の前にもグラスは置いてあるんだが、直人はまだプルタブに手を掛けてすらいない。まぁ、恐らく彼も缶から直飲みするだろうからグラスは使われないだろう。

「は? なんだそれ」
 今日がまさに13日の金曜日だからこんなことを言い出したんだろうか?

 敬虔《けいけん》なプロテスタントだったうちの両親は、割とそういうのを気にしている風ではあったけれど、俺自身は糞食らえと思って過ごしてきた。
 まさか直人からそんな言葉が出るとは思ってもみなくて、俺は正直戸惑う。

「今日がそうだからか?」
 言いながら、「とりあえず飲めよ」と直人の前に置かれたままの缶ビールを、自分が手にした空の缶でほんの少し彼の方へ押しやると、俺は立ち上がって冷蔵庫に新しいのを取りに行く。

「え? もう飲んだの?」
 冬の寒い時期によくそんながぶ飲みできるね、とやや呆れ顔の直人を尻目に、「エアコン、ガンガンにきかせてんだから普通に飲めるだろ」と答える。
 っていうか実際、俺が飲んでも仕方ねぇんだって。
「けど直人、お前だって冬だからって熱燗《あつかん》つけるようなタイプじゃねぇだろーが」
 分かっていて不機嫌そうにそう言うと、「まぁね」と軽く微笑まれた。
 くそっ。笑顔、可愛すぎんだろっ。
 ほろ酔いにしてから……とか段々どうでも良くなってきて、取ってきたばかりの冷えた缶を手にしたままテーブルに手をついて直人の方へ身を乗り出したら、寸でのところでガードされてしまう。
(くそっ。キスのお預けって……一体何の焦らしプレイだよ!)
「話、まだ終わってない」
 どうやら直人は13日の何とやらの話をまだ続けたいらしい。
(俺は今すぐにでもお前を押し倒したいんだよ。あまり長く待ては出来ねーぞ?)
 思いながら座ると、俺は半ば自棄《やけ》になってビールを煽る。
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