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灯る頃
08-2
しおりを挟む(――何でこんなことになるんだよっ!)
時刻は二十四日の午後一時。直人との約束の刻限は大幅に過ぎてしまっていた。
散々、直人に遅れるなと念を押したくせに、自分がこれじゃあ彼に合わせる顔がない。
死にそうな思いで直人のアパートに辿り着いた俺は、ひとまず無事にここへ到着出来たことにホッとした。それと同時にドッと疲れが押し寄せてきて、自然顔が不機嫌になる。
昨日、山中でお目当てのものを手に入れた俺は、嬉々としてそれを荷台に載せた。で、いざ帰宅!という段になってポンコツ車にエンジンが掛からなくなってしまったのだ。
何分山奥でのこと。助けを求めてちょっと前に立ち寄った道の駅まで歩いて戻ったら、辺りはすっかり夕闇に包まれてしまった。
道の駅に着いてから、圏外で役立たずの携帯を軽トラの中に置き去りにしてきたことに気付いた俺だったが、さすがにそんな状態のなか、またさっきの場所まで戻る気にもなれなくて渋々ビジネスホテルを手配してタクシーに乗り込んだのだ。
風呂には入ったが、着替えはないという最悪の状態のもとで一夜を明かした俺は、タクシーの運転手に頼んで適当な車修理工場を紹介してもらった。
昨日からの顛末を話し、彼らと共に軽トラへと戻った頃には九時半を過ぎていた。
昨日の俺は――今も、だが――山に入る気満々で、汚れることが前提だったから作業服で出かけていた。
本来なら今頃はちゃんと着替えて、家のほうも万事スタンバイOKの状態で直人を迎えに来ていたはずだったんだが……。
現実はというと、格好は泥だらけの作業服のまま。オマケに車は現地の車屋に無理言って修理してもらったおんぼろの軽トラで……。あまつさえ荷台にはシートに包まれて荷物が乗っかっているという有様だ。
ひとまず身体に付いた木の葉や埃はざっと払い落としてみたものの、今の俺は思いっきり冴えないこと極まりない。
携帯も、電波が届かない場所で何の措置もしないまま放置していたせいで電池の消耗が激しかったらしく、いつの間にか電池切れになっていた。愛車にはいつも載せてある車内用の充電器を忘れて行った俺は、焦る気持ちと相まって今の今まで直人に連絡を取らず仕舞いだったのだ。
ホテルにいた折、一度公衆から掛けようかと試みてみんだが、肝心な直人の携帯番号がどうしても思い出せなくて……メモリに頼りきりだった自分に腹が立つだけの結果に終わった。コンビニに行けば、乾電池で通話可能になるキットがあることも頭に浮かんでこないほどに、そのときの俺は混乱していたらしい。
帰りの車中でそのことに気付いた俺だったが、車を停めること自体がタイムロスに感じられて、とりあえずは……とここまで来てしまった。
(怒ってる、よ……なぁ)
直人のアパート前に立って、こんなに陰鬱な気持ちになったのは初めてかも知れない。
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