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一線の越え方
16...明示【Side:三木直人】
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憶えているのは、相原の涙と、それに起因する矛盾に気付いたこと。
それを疑問に思った俺は、明白な答えも出せないまま、ただ何故だか相原に酷い罪悪感を抱いた。
どうして俺がと思うものの、払拭しきれない遣る瀬無さはどうにも堪え切れなくて、結局俺は気がつけば家を飛び出していた。
思えば鍵を閉めたかどうかもわからないけど、それよりとにかく気が急いた。
これはもう、直接問い詰めるしかないと思って。あの男に、どうしても。
相原のことは、後輩として確かに可愛いと思っている。だからって、なにも彼の為にそうしたわけじゃない。
彼らの仲を取り持ったのが自分であるからと、その責任を感じたからでもない。
ただ、理由も解らないまま、あの男のことで頭を悩ませている自分に堪えきれなくなったからだ。
だからって、自分の体調がどの程度なのか、舐めていたつもりもなかった。
なかったけど、――結果、俺の記憶は目的を果たす前にぷっつり途切れてしまっていた。
(……なんか、気持ちいい…)
ひやりと、額に感じた冷たい心地に、ふと意識が浮上する。
未だぼんやりとした頭の中は霞がかってはいたけれど、小さく数回瞬いたのち、目を開けると、
(あれ…)
予想とは違う景色が視界に広がっていた。
最初はほとんど真っ暗だった。
けれど案外すぐに目は慣れて、慣れればそこが見慣れない部屋であることはすぐにわかった。
いつも自分が見上げていた自室の天井ではなく、自室ほど低い天井でもなく。
視線を横向ければ、部屋自体も少し広かった。
「ここ、どこ……」
呟いて、そっと身体を起こそうとすると、高熱の名残で関節が軋んで、無意識に小さく声が漏れた。
「――起きたのか」
と、殆ど同時に、部屋の扉が開いて、短い声がかけられる。
顔を上げると、扉の脇に、廊下の灯りを背に佇む彼の姿があった。
「…なんで」
「何でって、ここ俺の部屋」
逆光になっていても、相手が誰であるかはすぐにわかる。
「だ、だからなんで、俺ここにいんの」
何から問えばいいのか、起き抜けの頭では迷うばかりだったが、ともかく現状を把握したくて口を開く。掠れた声に咳払いを重ねながら、
(え……)
遅れて、上体を起こした際に布団の上に落ちていたタオルに気が付いた。
拾い上げると、まだそれは冷たくて、シーツにも薄らと水気が染みこんでいた。
「それは俺が聞きたい」
「は……」
何もかも、理解するのが後手にまわって、ようやくタオルの意味に気付いても、それについての言葉はすぐには出てこない。
それどころか、聞き慣れた平坦な声音に思わず目を細め、
「意味、わかんねぇんだけど」
気持ちとは裏腹に、吐き捨てるように言ってしまった。
それを疑問に思った俺は、明白な答えも出せないまま、ただ何故だか相原に酷い罪悪感を抱いた。
どうして俺がと思うものの、払拭しきれない遣る瀬無さはどうにも堪え切れなくて、結局俺は気がつけば家を飛び出していた。
思えば鍵を閉めたかどうかもわからないけど、それよりとにかく気が急いた。
これはもう、直接問い詰めるしかないと思って。あの男に、どうしても。
相原のことは、後輩として確かに可愛いと思っている。だからって、なにも彼の為にそうしたわけじゃない。
彼らの仲を取り持ったのが自分であるからと、その責任を感じたからでもない。
ただ、理由も解らないまま、あの男のことで頭を悩ませている自分に堪えきれなくなったからだ。
だからって、自分の体調がどの程度なのか、舐めていたつもりもなかった。
なかったけど、――結果、俺の記憶は目的を果たす前にぷっつり途切れてしまっていた。
(……なんか、気持ちいい…)
ひやりと、額に感じた冷たい心地に、ふと意識が浮上する。
未だぼんやりとした頭の中は霞がかってはいたけれど、小さく数回瞬いたのち、目を開けると、
(あれ…)
予想とは違う景色が視界に広がっていた。
最初はほとんど真っ暗だった。
けれど案外すぐに目は慣れて、慣れればそこが見慣れない部屋であることはすぐにわかった。
いつも自分が見上げていた自室の天井ではなく、自室ほど低い天井でもなく。
視線を横向ければ、部屋自体も少し広かった。
「ここ、どこ……」
呟いて、そっと身体を起こそうとすると、高熱の名残で関節が軋んで、無意識に小さく声が漏れた。
「――起きたのか」
と、殆ど同時に、部屋の扉が開いて、短い声がかけられる。
顔を上げると、扉の脇に、廊下の灯りを背に佇む彼の姿があった。
「…なんで」
「何でって、ここ俺の部屋」
逆光になっていても、相手が誰であるかはすぐにわかる。
「だ、だからなんで、俺ここにいんの」
何から問えばいいのか、起き抜けの頭では迷うばかりだったが、ともかく現状を把握したくて口を開く。掠れた声に咳払いを重ねながら、
(え……)
遅れて、上体を起こした際に布団の上に落ちていたタオルに気が付いた。
拾い上げると、まだそれは冷たくて、シーツにも薄らと水気が染みこんでいた。
「それは俺が聞きたい」
「は……」
何もかも、理解するのが後手にまわって、ようやくタオルの意味に気付いても、それについての言葉はすぐには出てこない。
それどころか、聞き慣れた平坦な声音に思わず目を細め、
「意味、わかんねぇんだけど」
気持ちとは裏腹に、吐き捨てるように言ってしまった。
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