21 / 84
一線の越え方
13...あてつけ【Side:山端逸樹】*
しおりを挟む
直人とあんなことがあって一週間近く経つけれど、俺の日常は何ひとつ変わらなかった。
彼の手に握らせたはずの携帯番号へ、見知らぬ番号から着信が入ることもない。
(あいつ、渡してないのか?)
何故だろう?
あんなに言いにくそうにしてまで頑張っていた友人との仲人役なのに。
俺との関わりを断ちたいから友人にも近付かせまいという腹だろうか?
(随分嫌われたもんだな)
当たり前だ、と思う。
普通ノーマルな奴がいきなりあんなことをされればそのショックは相当なはずだ。
俺は、取り返しの付かないことをした――。
それだけは分かった。
いつだってそうだ。
自分が本当に欲しいと思った物は絶対に手に入らない。
望まないものは向こうからやってくるのに、望むものはいつだって遠ざかる。
(らしくねぇな)
この調子だと、仕事にも支障が出かねない。
こうやって悶々としている間にだって、現場は刻一刻と動いているのだ。
こんな、心ここに在らずの俺が監督していたのでは作業員の足を引っ張る可能性だってある。
「すまん。ちょっと出てくる。何かあったら携帯に電話してくれ」
下請けで仕事をさせている、土木作業員の一人にそう声を掛けると、俺はバリケードの外へ出た。
会社の軽トラに乗り込むと、座り心地の悪いシートに背中を預けて深い息をつく。
そのまま少し車を走らせてから、俺は現場から少し離れたところにある公園横の路肩に車を停めた。
「電話……」
胸ポケットに仕舞いこんだ携帯を取り出すと、アドレス帳を開いてから「三木直人」と表示された画面を見つめてしばし考え込む。
彼に聞いてみたかったことを、ひとつ聞きそびれている。
(あいつは何で俺の現場を知ってたんだ?)
それが、何故だか胸中でモヤモヤとつっかえていて落ち着かない。
(もしかしたら……あいつ)
そんな一縷の望みを持ってしまうのも、俺らしくなくて嫌だった。
(もしそうだとしても今更なんだけどな)
全て壊してしまった後で、そんなことを聞いて何になるんだろう?
(そもそも電話したって出ないかも知れねぇし……)
いや、十中八九出ないだろう。
そんなことは分かっている。分かっちゃいるが――。
俺は自分の気持ちにケリを付けたくて、消せずに残したままの、その番号へコールした。
『はい、もしもし』
俺の予想に反して、殆ど呼び出し音を聞かないままに、直人が出た。
今回は発信者番号を通知してかけたが、それが理由で出てくれたとは思えない。
メモの番号を見て、俺からの着信だと分かれば確実に着拒されていただろうし、そうでないならば、直人のことだ。見知らぬ番号からの電話に、警戒するのが普通だと思えた。
いずれにしても出方が不自然だ。
若干早口で電話を受けた直人の様子も引っかかる。
もしかしたら画面を確認し辛い状況――例えば講義中――だったのかも?と思い、でもそれならそもそも電話自体に出るわけないか、と考え直す。
(じゃあ、何に対して焦ってるんだ?)
寸の間そんなことを考えてから、俺は一切の雑念を取り払った。
彼の手に握らせたはずの携帯番号へ、見知らぬ番号から着信が入ることもない。
(あいつ、渡してないのか?)
何故だろう?
あんなに言いにくそうにしてまで頑張っていた友人との仲人役なのに。
俺との関わりを断ちたいから友人にも近付かせまいという腹だろうか?
(随分嫌われたもんだな)
当たり前だ、と思う。
普通ノーマルな奴がいきなりあんなことをされればそのショックは相当なはずだ。
俺は、取り返しの付かないことをした――。
それだけは分かった。
いつだってそうだ。
自分が本当に欲しいと思った物は絶対に手に入らない。
望まないものは向こうからやってくるのに、望むものはいつだって遠ざかる。
(らしくねぇな)
この調子だと、仕事にも支障が出かねない。
こうやって悶々としている間にだって、現場は刻一刻と動いているのだ。
こんな、心ここに在らずの俺が監督していたのでは作業員の足を引っ張る可能性だってある。
「すまん。ちょっと出てくる。何かあったら携帯に電話してくれ」
下請けで仕事をさせている、土木作業員の一人にそう声を掛けると、俺はバリケードの外へ出た。
会社の軽トラに乗り込むと、座り心地の悪いシートに背中を預けて深い息をつく。
そのまま少し車を走らせてから、俺は現場から少し離れたところにある公園横の路肩に車を停めた。
「電話……」
胸ポケットに仕舞いこんだ携帯を取り出すと、アドレス帳を開いてから「三木直人」と表示された画面を見つめてしばし考え込む。
彼に聞いてみたかったことを、ひとつ聞きそびれている。
(あいつは何で俺の現場を知ってたんだ?)
それが、何故だか胸中でモヤモヤとつっかえていて落ち着かない。
(もしかしたら……あいつ)
そんな一縷の望みを持ってしまうのも、俺らしくなくて嫌だった。
(もしそうだとしても今更なんだけどな)
全て壊してしまった後で、そんなことを聞いて何になるんだろう?
(そもそも電話したって出ないかも知れねぇし……)
いや、十中八九出ないだろう。
そんなことは分かっている。分かっちゃいるが――。
俺は自分の気持ちにケリを付けたくて、消せずに残したままの、その番号へコールした。
『はい、もしもし』
俺の予想に反して、殆ど呼び出し音を聞かないままに、直人が出た。
今回は発信者番号を通知してかけたが、それが理由で出てくれたとは思えない。
メモの番号を見て、俺からの着信だと分かれば確実に着拒されていただろうし、そうでないならば、直人のことだ。見知らぬ番号からの電話に、警戒するのが普通だと思えた。
いずれにしても出方が不自然だ。
若干早口で電話を受けた直人の様子も引っかかる。
もしかしたら画面を確認し辛い状況――例えば講義中――だったのかも?と思い、でもそれならそもそも電話自体に出るわけないか、と考え直す。
(じゃあ、何に対して焦ってるんだ?)
寸の間そんなことを考えてから、俺は一切の雑念を取り払った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
病み男子
迷空哀路
BL
〈病み男子〉
無気力系主人公『光太郎』と、4つのタイプの病み男子達の日常
病み男子No.1
社会を恨み、自分も恨む。唯一心の支えは主人公だが、簡単に素直にもなれない。誰よりも寂しがり。
病み男子No.2
可愛いものとキラキラしたものしか目に入らない。溺れたら一直線で、死ぬまで溺れ続ける。邪魔するものは許せない。
病み男子No.3
細かい部分まで全て知っていたい。把握することが何よりの幸せ。失敗すると立ち直るまでの時間が長い。周りには気づかれないようにしてきたが、実は不器用な一面もある。
病み男子No.4
神の導きによって主人公へ辿り着いた。神と同等以上の存在である主を世界で一番尊いものとしている。
蔑まれて当然の存在だと自覚しているので、酷い言葉をかけられると安心する。主人公はサディストではないので頭を悩ませることもあるが、そのことには全く気づいていない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる