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一線の越え方
10...言及【Side:三木直人】
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だめだと言われたらどうしようかと思った。
かと言って、飲む量を間違えると俺は眠たくなってしまうし…。
(この人は……何かいくら飲んで酔わなさそうだけど)
そんなことを思いながら、ちらりと相手の手元を見る。
俺が一缶目をやっと空けると言う頃なのに、彼は既に三缶目のビールを飲んでいた。
「そろそろ話す気になったか」
「…あ、うん」
そう答えはしたものの、そのつもりもなく緊張でもしているのか、思ったよりも気分が高揚していない。
アルコールを摂取しているはずなのに、何だか水でも飲んでいるかのようだ。
だけど、さすがに本題に入らないままいつまでもこうしているわけにもいかないので、
「あのさ」
仕方なく俺は、一つ息を吐いてから改めて顔を上げた。
「変なこと訊くけど、アンタ…じゃなくて、山端さんって男に興味あったりする……?」
顔を上げると、いつから見られていたのか、すぐに視線がかち合って、思わず声が僅かに上擦る。
誤魔化そうと咳払いを一つして、手の中の缶の残りを呷るが、
「………」
予想に反して、彼は何の反応も示さない。
手元に戻した視線で彼を再度窺うと、一拍ののち、
「……お前、何言ってんの」
意外そうにも呆れたようにも、彼は無表情のままぽつりと呟いた。
「いっ…や、あの、友達が…!」
その視線の鋭さは余りにも身に染みて、居心地の悪さに俺は思わず腰を浮かせる。
慌てて取り繕おうとして、缶からも手を離し、「いやちょっと待って、そうじゃなくて」と首を振るが、彼の面持ちは変わらない。
「友達が何だよ。愛のキューピットにでもなりてーのか」
それどころか、明らかに皮肉を込めた言葉を続けられ、俺は自分の物言いの拙さを思い知る。
かと言って、その言葉はあながち間違いでもなく、俺は静かに座りなおして、いま一度浅く吐息する。
何となく彼を直視できない視線は、僅かにだけ下方に落とした。
「まぁ、そんなようなもんなんだけど……脈があるのか、ないのかくらい、聞けないかと思って」
「…誰にだよ」
「ああ、えっと…相原真琴ってヤツなんだけど」
手持ち無沙汰に、一度は手放した缶にも再び手を伸ばす。
缶の中は既に空だったけど、そんなのはいまはどっちだっていい。
とにかく、伝えようと思っていたことだけは何とか言葉に出来たから、後は彼の反応を待って――。
「知らねーな」
けれど、間もなく返って来たのはそんな返事で、俺は瞬いてまた視線を上げる。
その表情を見るに、今度は冗談でも皮肉でもないようだった。
「え…知らないって、だって……山端さん、アイツと……」
「寝たんだろって言いてーのか」
ぎくり、と。
思わず身体が強張る。
俺が言いよどんだ言葉の先を、彼は何の躊躇いもなくはっきりと口にした。
その迷いのなさに、わけも解からないまま、俺は内心少し怯む。
彼は俺の視線の先で、残りのビールを一気に呷った。
かと言って、飲む量を間違えると俺は眠たくなってしまうし…。
(この人は……何かいくら飲んで酔わなさそうだけど)
そんなことを思いながら、ちらりと相手の手元を見る。
俺が一缶目をやっと空けると言う頃なのに、彼は既に三缶目のビールを飲んでいた。
「そろそろ話す気になったか」
「…あ、うん」
そう答えはしたものの、そのつもりもなく緊張でもしているのか、思ったよりも気分が高揚していない。
アルコールを摂取しているはずなのに、何だか水でも飲んでいるかのようだ。
だけど、さすがに本題に入らないままいつまでもこうしているわけにもいかないので、
「あのさ」
仕方なく俺は、一つ息を吐いてから改めて顔を上げた。
「変なこと訊くけど、アンタ…じゃなくて、山端さんって男に興味あったりする……?」
顔を上げると、いつから見られていたのか、すぐに視線がかち合って、思わず声が僅かに上擦る。
誤魔化そうと咳払いを一つして、手の中の缶の残りを呷るが、
「………」
予想に反して、彼は何の反応も示さない。
手元に戻した視線で彼を再度窺うと、一拍ののち、
「……お前、何言ってんの」
意外そうにも呆れたようにも、彼は無表情のままぽつりと呟いた。
「いっ…や、あの、友達が…!」
その視線の鋭さは余りにも身に染みて、居心地の悪さに俺は思わず腰を浮かせる。
慌てて取り繕おうとして、缶からも手を離し、「いやちょっと待って、そうじゃなくて」と首を振るが、彼の面持ちは変わらない。
「友達が何だよ。愛のキューピットにでもなりてーのか」
それどころか、明らかに皮肉を込めた言葉を続けられ、俺は自分の物言いの拙さを思い知る。
かと言って、その言葉はあながち間違いでもなく、俺は静かに座りなおして、いま一度浅く吐息する。
何となく彼を直視できない視線は、僅かにだけ下方に落とした。
「まぁ、そんなようなもんなんだけど……脈があるのか、ないのかくらい、聞けないかと思って」
「…誰にだよ」
「ああ、えっと…相原真琴ってヤツなんだけど」
手持ち無沙汰に、一度は手放した缶にも再び手を伸ばす。
缶の中は既に空だったけど、そんなのはいまはどっちだっていい。
とにかく、伝えようと思っていたことだけは何とか言葉に出来たから、後は彼の反応を待って――。
「知らねーな」
けれど、間もなく返って来たのはそんな返事で、俺は瞬いてまた視線を上げる。
その表情を見るに、今度は冗談でも皮肉でもないようだった。
「え…知らないって、だって……山端さん、アイツと……」
「寝たんだろって言いてーのか」
ぎくり、と。
思わず身体が強張る。
俺が言いよどんだ言葉の先を、彼は何の躊躇いもなくはっきりと口にした。
その迷いのなさに、わけも解からないまま、俺は内心少し怯む。
彼は俺の視線の先で、残りのビールを一気に呷った。
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