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一線の越え方
08-2
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コンビニの前に到着すると、俺は一度周囲を見渡した。
が、まだどこにもそれらしき車は停まっていなくて、再び取り出した携帯を開く。
時刻は丁度十分前。
ちょっと早すぎたかもしれないと思った俺は、とりあえず歩道端のガードレールに浅く腰を預けた。
(つきあいたいっつったって……どうすんだよ)
反芻するが、なかなかこれと言った手段は思い浮かばない。
相原は、久々に本気でそう思った相手だから、できるだけ慎重に行きたいんだと言っていた。
一度目が一度目だっただけに、少しでもその印象を拭いたいからと、暫くジムも休むつもりだ、とも。
だからって、どうして俺がそこに巻き込まれなきゃならないんだと思うけど、ファミレスで支払いをしようとした俺は財布を忘れていて、結局相原に借りを作る結果になってしまったし…。
次第に本気なんだとの訴えを強くした彼の必死さは、見ていて無下にもできなくなって。
仕方なく俺は、「機会があれば、期待はするな」と言い添えて、渋々その要求を飲むことにした。
なのに、そんな時に限って、望まない『機会』はすぐにやってくる…。
「――おい。直人」
「…!」
道路側に背を向けて、俯くように携帯の画面を覗いていた俺は、不意に背後からかけられた声に思わず肩を揺らした。
思いの外考え込んでいた所為で、外界からの刺激に過敏になっていたらしい。
驚いた俺は、慌てて腰を上げ、振り向いてその声の主を見る。
いつ着いたのかまるで気がつかなかったが、そこには黒い車が停まっていて、
「とっとと乗れよ。早くしろ」
彼は助手席の窓を開け、運転席から端的に促した。
「何か希望はあるか」
「き、希望?」
「食いてーもんの希望」
「あ、あぁ…えっと」
走り出したばかりの車内で、先に口を開いたのは彼の方だった。
気まずいと感じる暇も無かったそれには少し安堵もしたけど、急にそんな問いを向けられても返答に困る。
俺は僅かに思案して、
「あ、じゃあ居酒屋とか…」
ここはもう酒の力を借りようと思い立つ。
酒に関して、俺はそう強くも無いけど、悪酔いすることもない。
眠くなるのは早いけれど、それもその前にお茶に切り替えれば良いだけのこと。
ただ酒が入ると、普段より少し気は大きくなるようなので、迷って言えないことも言えるかと思ったのだ。
だけど、
「別にいいけど……お前、一人で飲む気かよ」
返えされたその言葉に、俺は遅れてはっとする。
「あ、ごめん。そっか…じゃああの、ファミレスとかでも、なんでも」
そうだよ。いま俺が乗ってるのは何なんだって話だ。
このまま居酒屋行ったって、運転手である彼は一滴だって飲めないじゃないか。
そんなこと、普段なら考えるまでもないことなのに、どうして気が回らなかったのか。
「ほんと、マジ…ごめん。どこでもいいから」
重ねて訂正しながら、俺は自分の配慮の無さに少し落ち込んだ。
しかも、俺は下方を向いていて、彼は前方を向いているから、目が合うことは無いはずなのに、時折視線を感じる気がして何となく居た堪れない。
絶対気の所為だろうとは思う。
思うのに、そのくせ顔を上げて確認する勇気もなくて、俺は逃げるように助手席の窓外に目を向ける。
「じゃあ、俺の部屋でいいか」
「…え」
「どこでもいいってんなら。丁度今日、親戚から届いた酒があるし…適当に食い物だけ買って行きゃいいだろ」
言うなり、彼はさっさと車線変更をしていた。
俺の返事なんて待つこともなく。
ともすれば、待つまでもないと言わんばかりに。
が、まだどこにもそれらしき車は停まっていなくて、再び取り出した携帯を開く。
時刻は丁度十分前。
ちょっと早すぎたかもしれないと思った俺は、とりあえず歩道端のガードレールに浅く腰を預けた。
(つきあいたいっつったって……どうすんだよ)
反芻するが、なかなかこれと言った手段は思い浮かばない。
相原は、久々に本気でそう思った相手だから、できるだけ慎重に行きたいんだと言っていた。
一度目が一度目だっただけに、少しでもその印象を拭いたいからと、暫くジムも休むつもりだ、とも。
だからって、どうして俺がそこに巻き込まれなきゃならないんだと思うけど、ファミレスで支払いをしようとした俺は財布を忘れていて、結局相原に借りを作る結果になってしまったし…。
次第に本気なんだとの訴えを強くした彼の必死さは、見ていて無下にもできなくなって。
仕方なく俺は、「機会があれば、期待はするな」と言い添えて、渋々その要求を飲むことにした。
なのに、そんな時に限って、望まない『機会』はすぐにやってくる…。
「――おい。直人」
「…!」
道路側に背を向けて、俯くように携帯の画面を覗いていた俺は、不意に背後からかけられた声に思わず肩を揺らした。
思いの外考え込んでいた所為で、外界からの刺激に過敏になっていたらしい。
驚いた俺は、慌てて腰を上げ、振り向いてその声の主を見る。
いつ着いたのかまるで気がつかなかったが、そこには黒い車が停まっていて、
「とっとと乗れよ。早くしろ」
彼は助手席の窓を開け、運転席から端的に促した。
「何か希望はあるか」
「き、希望?」
「食いてーもんの希望」
「あ、あぁ…えっと」
走り出したばかりの車内で、先に口を開いたのは彼の方だった。
気まずいと感じる暇も無かったそれには少し安堵もしたけど、急にそんな問いを向けられても返答に困る。
俺は僅かに思案して、
「あ、じゃあ居酒屋とか…」
ここはもう酒の力を借りようと思い立つ。
酒に関して、俺はそう強くも無いけど、悪酔いすることもない。
眠くなるのは早いけれど、それもその前にお茶に切り替えれば良いだけのこと。
ただ酒が入ると、普段より少し気は大きくなるようなので、迷って言えないことも言えるかと思ったのだ。
だけど、
「別にいいけど……お前、一人で飲む気かよ」
返えされたその言葉に、俺は遅れてはっとする。
「あ、ごめん。そっか…じゃああの、ファミレスとかでも、なんでも」
そうだよ。いま俺が乗ってるのは何なんだって話だ。
このまま居酒屋行ったって、運転手である彼は一滴だって飲めないじゃないか。
そんなこと、普段なら考えるまでもないことなのに、どうして気が回らなかったのか。
「ほんと、マジ…ごめん。どこでもいいから」
重ねて訂正しながら、俺は自分の配慮の無さに少し落ち込んだ。
しかも、俺は下方を向いていて、彼は前方を向いているから、目が合うことは無いはずなのに、時折視線を感じる気がして何となく居た堪れない。
絶対気の所為だろうとは思う。
思うのに、そのくせ顔を上げて確認する勇気もなくて、俺は逃げるように助手席の窓外に目を向ける。
「じゃあ、俺の部屋でいいか」
「…え」
「どこでもいいってんなら。丁度今日、親戚から届いた酒があるし…適当に食い物だけ買って行きゃいいだろ」
言うなり、彼はさっさと車線変更をしていた。
俺の返事なんて待つこともなく。
ともすれば、待つまでもないと言わんばかりに。
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