一線の越え方

市瀬雪

文字の大きさ
上 下
1 / 84
一線の越え方

01...退廃【Side:山端逸樹】

しおりを挟む
 俺にとってゴムは必需品だ。
 誰かと交わることは嫌いじゃないけれど、直にするのには抵抗がある。

 どんなに深く身体を繋げても、薄皮一枚で隔絶されている状態。そのぐらいの距離が心地よいと感じる俺は、やっぱり問題ありなんだろうな。

 そんなことを思いながら激しくグラインドを繰り返す俺の下で、大人の男と呼ぶには未熟な身体が揺れる。
 指が白くなるぐらいシーツを握り締めたその姿に、俺は酷く興奮した。

 初めてだったんだろう。挿れた瞬間ひきつったような声を上げた彼に、俺は気付いていて知らん振りをした。

 数ヶ月前から通い始めたジムで出会った男。
 十代後半ぐらいの幼さの残る彼を、欲求不満解消のためだけにホテルへ連れ込んだ。

 彼が、いつも俺のことを見ているのは知っていたから。羨望の眼差しで俺を見詰める彼が、誘えば断らないと計算ずくで声をかけたのだ。

 甘い囁きも、優しい愛撫も、キスさえも、俺には無縁のしろものだ。
 出したいから抱く。
 相手は誰でも構わない。
 それこそ、今回のように女じゃなくっても一向に気にしない。

 酷いヤツだと自分でも思うけれど、こういう性分なんだから仕方ない。

 一夜限りのこの逢瀬が終われば二度と会うつもりはない。
 後腐れのない関係が一番望ましいからだ。

(始めたばかりのジムだけど、解約しなくちゃな)

 そんなことを思いながら、俺は袋の中に欲望を吐き出した。




 ぐったりと眠る彼の枕元へ、三万置いて部屋を出た。

 目が覚めたら好きにするだろう。
 終わった後の相手のことは、考えないようにしている。

 肌を重ねれば情が芽生えるなんて嘘だ。
 どんなに激しく抱いても、俺は心から満たされたことがない。

(いい加減な関係をやめない代償だろうか)

 ふとそんなことを思って、一人苦笑する。

(どうでもいいけどな)

 愛だの恋だの騒いで他人に翻弄されるのはごめんだ。

 左肩にかけたリュックを持ち直すと、俺は暗くなっても尚、通行量の減らない夜の街を歩いた。

 横断歩道の向こうに、一際明るい照明に照らされてコンビニが建っている。
 それを見て、俺はふと思い出した。

(そろそろ無くなりそうだったな……)

 いつでも鞄に忍ばせているゴムが、さっき使ったので残り一個になった。

 生で犯るのは俺の性分じゃねぇ。
 買い足しておいたほうがいいだろう。

 夜のコンビニは、幸い男の店員が多い。別に女が居たからと言って気にしやしないが、何となく同性のほうが買いやすいのは確かだ。

(信号も丁度青に変わったことだし)

 そう思った俺は、コンビニを目指して道路を横断した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

琥珀いろの夏 〜偽装レンアイはじめました〜

桐山アリヲ
BL
 大学2年生の玉根千年は、同じ高校出身の葛西麟太郎に3年越しの片想いをしている。麟太郎は筋金入りの女好き。同性の自分に望みはないと、千年は、半ばあきらめの境地で小説家の深山悟との関係を深めていく。そんなある日、麟太郎から「女よけのために恋人のふりをしてほしい」と頼まれた千年は、断りきれず、周囲をあざむく日々を送る羽目に。不満を募らせた千年は、初めて麟太郎と大喧嘩してしまい、それをきっかけに、2人の関係は思わぬ方向へ転がりはじめる。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

処理中です...