こちら、ダンジョン最下層。

Ryo

文字の大きさ
上 下
12 / 14
第1章

その8

しおりを挟む
 とりあえず、C級ランクのボスまでは特に異議はないようだ。
 運営してみて、冒険者の反応を見てから変えるのもありだろう。今のところは、これで問題なさそうだ。

「次はB級ですね。僕としてはオーガあたりが良いかと思ってるんですが、ディアが『それでは甘い』と言うんです」
【僭越ながら……マスターのダンジョンとして、B級ダンジョンからは甘えを許さない姿勢でありたいと。】
「……と、いうと?」
【ケルベロスくらいはご用意させて頂きたいと思っております。】
「ケ、ケルベロスっ⁉︎ S級ランクの、しかも幻獣ではないですか!」

 驚くライシュの言う通り、ケルベロスとはモンスターランクでS級に分類され、滅多に人前に姿を現さない幻獣とされている。
 3つの頭を持つ巨大な犬の姿をしており、上級魔法をこなすほどの知性も持っている為にかなり厄介なモンスターだ。
 見つけるのも難しいモンスターなので、ケルベロスの被害に会ったという話はあまり聞かない。

 唯一、世界的に有名な事件でいえばーー『モンスター召喚』でケルベロスを喚び出し戦力にしようとした愚王の策略により、一晩でその制御を失ったケルベロスに滅ぼされた国があったか。
 以来、召喚魔法で喚び出せるのはA級まで、という制約が魔法に組み込まれている。
 S級は元来、そこらの人間よりも遥か昔から生きている為に知性が高く、また誇り高い存在だ。たかが人間が制御できるなど、到底無理な話だったのだ。

 幻獣の中で珍しくその凶暴さが知られているケルベロスは、実は今とあるダンジョンにいる。
 召喚が困難なS級モンスターだが、居場所が分かっていれば他に方法はある。

「……まさか、奴に頼むのかの?」

 僕の考えを察した様子の師匠が、珍しく顔色を悪くしていた。不老不死である僕らは、体調不良とも無縁である。
 師匠のいう「奴」というのが誰なのか、分かっていない3人は師匠の様子に首を傾げているが、僕は笑って頷いてみせる。

「はい。頼めば貸してくれるかと」
「奴にそんな頼みごとをするのは、お前さんくらいのもんじゃろうなぁ……」

 まぁ、何故かみんなを嫌っているからなぁ。話せば面白い方なんだけど。
 師匠も以前に僕と一緒に彼女に会った時は、今のように顔色を悪くして無言だった。彼女も、そんな様子を気にすることなく、むしろ「珍しい奴よ」と僕に笑いかけていたし。

「はぁ……まぁ、君が頼むのなら貸してくれる可能性は高いか。それは良いが、B級ダンジョンのボスとして、ケルベロスはちとやり過ぎではないかの?」
【《魔導師》であるマスターのダンジョンとして、生半可な対応は承認できません。】
「とは言ってものぉ……」

 渋る師匠の横では、ライシュが何やら難しい顔をしている。チラリ、と僕の手元の紙を見やると、恐る恐るといった様子で手を挙げた。

「あの……B級でケルベロスとなると、A級のボスはどうなるのでしょう……?」

 その言葉に、ピタリと固まる師匠。
 聞きたくなさそうな表情になるのに苦笑するも、ディアはどこか誇らしげな雰囲気で告げる。

【もちろん、最後にはマスターへ挑もうというのですーーレッドドラゴンを、提案いたします。】
「…………」

 レッドドラゴンはSS級に分類されるモンスターであり、この世に5体いる古竜種の1体である。
 その名の通り古来より生きる竜であり、最古体のホワイトドラゴンは1万年以上を生きているらしい。最年少のブラックドラゴンでさえ、3000年は超える。
 その中でレッドドラゴンはホワイトドラゴンに次ぐ8000年以上を生きる個体で、古竜種で最も過激な気性をしている。戦闘狂、とまでは言わないが、強い者との闘いを楽しむ傾向にあった。
 火山地帯に住む彼女レッドドラゴンと遭遇した時は、急に襲いかかってくるものだから、加減を間違えてところだった。
 いきなりドラゴンブレスを放つのは危ないと後に叱っておいたので、今では少しくらい落ち着いていると思いたい。
 レッドドラゴンと聞いて、師匠は彼女を思い出しているのか遠い目をして、レイグス親子は驚きに目を見開いていた。

「レッドドラゴン……古竜種、ですか。幻獣よりも、その存在自体が眉唾だと思われていますが」
「おかしな話ですよねぇ。ホワイトドラゴンは霊峰カラディンの守護者なのに。長く生きているだけあって、随分と穏やかな方でしたよ」
「……会ったことがあるんですね、ユルクさん。さすがというか、なんというか」

 カラディンを攻略しようとすると、自然とホワイトドラゴンに会う必要がある。
 その時に少し話したが、レッドドラゴンとは違い物腰の柔らかい、思慮深い御仁だった。彼の興味は戦闘ではなく、知識にあったようだし。

【レッドドラゴンはとても闘いを好むお方とのこと。マスターに挑もうなどという愚か者……もとい挑戦者なら、それなりに強者もいることでしょう。彼の方も満足いただけるのではないかと。】
「そうなんですよね。彼女も火山地帯での生活に飽きていたようですし、僕もこれには賛成しているんです」

 A級ダンジョンのボスとしては、少しばかりレベルが高いかもしれないが……まぁ、そこは彼女に加減することを覚えてもらう良い機会かもしれないとも思う。
 S級のケルベロスの次はSS級のレッドドラゴンと続き、師匠は疲れた顔で溜息をついていた。

「まぁ、まだ本人達の了承を得ておらんからの。ほぼ決まってるようなもんじゃが……」
「ユルクさんへの布石だと思えば、適任のような気もいたしますけどねぇ」

 カップを持ちながらクスクス笑うミーナ。師匠も諦めたようにカップに手を伸ばした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。 一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

処理中です...