こちら、ダンジョン最下層。

Ryo

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第1章

その1

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 子供の頃、誤ってダンジョンへと迷い込んでしまった。
 生まれた村の近くには、小規模ながらダンジョンが存在し、それを村が運営することで小さくも栄えた村だった。
 しかし、いくら小規模でもダンジョンはダンジョン。モンスターだって湧くし、中は複雑に入り込んでいる。
 冒険者だろうと油断すれば死ぬ。ましてや、ただの村人、しかも子供。当時10歳。
 ダンジョンへと入ってしまったようだと知った両親と村のみんなは大慌て。ダンジョン目当ての冒険者を雇って、捜索させた。
 しかし、5日経っても見つからず、戻って来る気配もない。モンスターに食われたにしては、全くそういった痕跡もない。
 それから更に5日、捜索が始まって10日。これだけ探して見つからないとなると、もう……。
 悲しみに涙する両親を慰めつつ、捜索は打ち切り。子供は死んだと、村の誰もが思っていた。

「可哀想に……まだ10歳だろう?」
「あぁ、働き者で優しい子だったのにな……」
「どうかしたんですか?」
「ラルクんとこのユルクだよ、ダンジョンで行方不明の」
「さすがに死んでるだろうな……これだけ帰って来ないとなると」
「えぇ!? 僕、死んじゃったんですかぁ!?」
「「…………は?」」

 驚く僕に、唖然とした顔のおじさん2人。

「「はぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!??????」」

 ダンジョンに迷い込んでから、12日。僕は村へ帰って来た。
 おじさん達の叫び声に何事かと集まりだした視線は、自然とその前でビックリしている僕に向き。

『はぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!????⁇』

 誰かが呼んできたのか、暫くして両親も駆け付けた。
 泣きながら僕を抱き締める母と、怒りながらも安堵した様子の父、そして口々に良かったと言う村のみんなに、僕は1人だけ首を傾げていた。
 というのも、僕はダンジョンに潜ってから12日も経っていたことに気づいていなかったんだ。それこそ、昼間の散歩くらいの感覚。
 ずっとダンジョン内を探索していたのに、特に疲労感も空腹感もなく。1人だけ時間の流れが違うようだった。
 その時は、とにかく無事に戻って来たことを喜ばれ、その理由は放置されていたけど。
 僕自身も、初めての冒険に心踊り、些細な事だと気にしていなかった。
 僕が生きていたことを祝して、その日の夜は村中でお祭り騒ぎ。すると当然、みんなの興味は僕がどうやってダンジョン内で生き抜いたのかに向いた。
 これに1番興奮していたのは、話をしていた僕。

「ダンジョンに入ったすぐのとこに、隠し通路があったんです! そこからダンジョンの最下層まで行けて、それどころか各階層の隠し部屋に通じていました!
 え? そんな通路は見つかってない? ということは、僕が初めて見つけたってことですか⁉︎ わぁ、光栄だなぁ!
 モンスターですか? うーん、特に出会わなかったです。隠し通路だったからですかね?
 それよりも、隠し部屋でまだ開かれていない宝箱がありましたよ! さすがにミミックだったら困るので、そのままにしてきましたけど……え、連れていって欲しい? あぁ、お兄さんは冒険者の方ですか! もちろんです、僕も中身が気になりますから!
 ダンジョンってもっと危ない、怖いところかと思っていたんですけど、すっごい楽しいところですね!」

 こうして僕は、ダンジョンに魅入られた。



**********



 ダンジョンに初めて潜った日から、僕は暇を見つけてはダンジョンに潜った。
 ダンジョン内の隠し通路を探し、隠し部屋で宝箱を見つけ、既存のマップを更新する。
 12歳になった僕は、遂に村のダンジョンを完全にマッピングした。モンスターの種類と出現ポイント、モンスターハウスの位置と規模、トラップの全容、隠し通路と隠し部屋の存在。
 その結果、これまでのダンジョンマップは本来の半分程度でしかなかったことが判明した。
 そして、そのついでに判明したことがもう一つ。

「ユルクに魔法の才能がなぁ……」
「えぇ。しかも、無意識に使っている、というか使い熟しているところを見るに、かなりの才能があるかと。それこそ宮廷魔法師のトップを狙えるレベルですな」

 村のダンジョンが大幅にマップ更新されたことを聞きつけた王都の冒険者ギルドが、調査隊を派遣した。
 その中に、若い頃に宮廷魔法師をしていたという高名の魔法師のおじいさんがいた。
 マップを更新したのが子供ぼくだと知った魔法師のおじいさんが、僕に『鑑定』という相手の能力を見る魔法を使ってみたところ。
 僕は無意識のうちに『身体強化』『高級回復』『完全記憶』『魔力探知』を、ダンジョンに潜っている間で常時発動させていたことが分かった。
 その中でも『高級回復』は宮廷魔法師でも使える人が少なく、疲労や空腹感を覚えることなく活動できた理由がコレ。

「なるほどなぁ……だから、12日間もダンジョンに潜っていられたんだなぁ」
「は? 12日間?」
「いやぁ、ユルクが10歳の頃にダンジョンに迷い込んだのが始まりでして。その時は12日間をダンジョン内で探索していたそうなんですよ。なのに、帰って来たコイツときたらピンピンしていて『ダンジョンって楽しい!』と笑ってました。あの時は本当に死んだと思っていた、俺らの気持ちも分かって欲しいもんだ」
「父さん……それはごめんって、何度も謝ってるじゃないですか。僕だってそんな長い間、ダンジョンにいたとは思わなかったんです」
「12日間もずっと魔法を……? しかも10歳で? 常時平行発動なんて、現役のワシですら3時間が限度だったのに……?」
「ん? どうかしましたか?」
「ユルク君! 君は魔法師になるべきじゃ! いや、君なら伝説の魔導師にだって!」
「えぇ……僕、別に魔法にはあまり興味が」
「……世界中のダンジョン、見てみたくないかね?」
「なります! 立派な魔法師に!」

 そんな調子で、僕はその魔法師のおじいさんーーーシャルダンさんの弟子として、魔法の勉強をすることになった。
 実は彼が、単独でドラゴンをも倒してみせた王国の英雄であったとか、魔法師からは『魔導師に最も近い存在』として尊敬されている人物であったとか、それを知るのはまだ先の話。



**********



 15歳になった僕。更に魔法を詳しく学ぶ為、そして世界中のダンジョンを巡る為、僕は師匠シャルダンさんに連れられ村を出た。
 心配する母だったが、「男は旅に出て大きくなるもんだ」という父の謎理論を後押しとして、目尻に涙を浮かべながらも笑って見送ってくれた。
 まず目指したのが、王都にある師匠の家。そこにある世界地図や、旅をするのに必要となる道具を調達する為だ。
 生まれてから村から出たことがなかった僕にとっては、王都に着くまでの道のりもドキドキの冒険だった。
 その頃には、ある程度の攻撃魔法も教わっていたから、道中にモンスターと遭遇しても師匠の手を煩わせることなく処理できていた。

「A級モンスターを一撃……」
「え? アレってそんなに強いモンスターでしたか?」
「君が相手となると、ほとんどのモンスターはE級になるじゃろうな……」

 呆れ顔の師匠の反応にも、王都に着く頃には見慣れたものになった。
 その時に『王国の英雄』話を耳にしたが、何故か師匠は詳しく教えてくれなかった。というか、嫌そうだった。
 王都の師匠宅は驚くほど大きくて、もしかして貴族か何かかと思ったけど、師匠曰く「金だけがある」状態なんだそう。
 英雄っていうのが関わってるようだけど、やはり詳しくは教えてくれず。僕も別段知りたいわけでもなかったので、スルー。
 まぁ後日、師匠の後輩らしい宮廷魔法師の方にいろいろと聞かせてもらったのだが。
 それはともかく。
 僕が気になったのは、師匠が持ってきた世界地図。それには現在確認されているダンジョンがマークされていたのだけど。

「こんなに沢山っ」
「そりゃあ、世界中ともなると、その数は1万近くになるぞ」
「うわぁ……生きてる間に全部回れるかなぁ」
「それは無理じゃろうな。それなりに広いダンジョンを巡ることになる」
「えぇ!? そんなぁ…………いや、確か……はっ! 師匠、不老不死の魔法、ありましたよね!?」
「ま、まぁ、あるにはあるが……難解過ぎて、今じゃ使える者はおらんぞ? 当然、ワシにも無理じゃ」
「どんなものか教えてください!」

 それから、5日後。

「本当に、成功させよった……」
「やったぁ! これで全てのダンジョンを回れますね、師匠!」

 師匠から教えてもらった魔法を解析、試行錯誤を繰り返した結果、僕は不老不死になった。
 そのついでに師匠も不老不死になったが。



**********



 それから、約250年。
 ようやく、僕と師匠は全てのダンジョンを制覇した。
 村のダンジョンのようにほとんどのダンジョンマップは未完成であり、隠し通路や隠し部屋が多く見つかった。
 それに伴って、新しいトラップやモンスターも発見。
 村でただ暮らしているだけじゃ知りえなかった世界を、僕は満喫した。

「しかし、不老不死じゃからの。どうするんじゃ?」
「そうですねぇ……まだ見つかっていないダンジョンを探しに行くのも良いですが」
「君は本当にダンジョンしか頭にないのぉ……」

 呆れ顔の師匠に、僕はここ最近考えていたことを語る。

「師匠、作ってみませんか?」
「ん? 何を?」
「ダンジョンですよ!」
「……は?」





 こうして、僕(と師匠)のダンジョン制作が始まった。
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