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男装麗嬢の麗しき日常
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暫く別室へと下がっていた王妃と王女、公爵家夫人と令嬢が夜会会場へと戻ってきた。
まっすぐ自らのパートナーの下へ脚を進めた4人に、自然と視線が集まる。
そんな中で、1人、アレクサンドラへと歩み寄る男性貴族がいた。
「ご機嫌よう、アレクサンドラ」
青味がかった銀髪に、神秘的な紫の瞳をした青年。
ユグドラ王国に3家ある公爵家が1家、レインノーズ家次男ハインセル・レインノーズだ。
優秀な騎士を輩出するローズワイス家が武家として有名であるのに対し、レインノーズ家は文家として有名だった。
かく言う、この国の現宰相はレインノーズ家当主であり、歴代の宰相の多くはレインノーズ家本家か分家筋の出身である。
その宰相カインセルは、今日は所用の為に夜会の出席を免除されている。
次男のハインセルも文官として王宮勤めしているので、近衛騎士として勤めているアレクサンドラとは良く顔を合わせていた。
「あぁ、ハインセル殿。おっと……ご機嫌よう」
つい普段通りの騎士としての礼をしそうになったアレクサンドラは、自らが今着ているのが騎士服ではなくドレスなのに気付き、慌てて淑女の礼へと変更した。
そんな彼女の様子を微笑ましく眺めていたハインセルは、こちらへ足早に向かって来たアイザックにも丁寧に頭を下げた。
「アイザック殿下、ご機嫌麗しゅう」
「あぁ……」
ハインセルに比べ若干硬めな表情のアイザックを気にすることなく、アレクサンドラへ微笑みかける。
「珍しい……というか、君がドレスを着ているのなんて、初めてみたよ。それなら、この後のダンスも参加するんだよね?」
「そうなるな……暫く踊っていないから、勘が鈍っていそうで心配だ」
「あはは、君は運動センスがあるから、きっと大丈夫さ。殿下、よろしければ彼女とのダンス、私にも機会をいただけませんか?」
今日のパートナーであるアイザックに確認をとるのは、夜会での常識ではある。
しかし、それはパートナー同士が恋人であったり婚約者であったり、夫婦であったりした場合が基本で、今回のアレクサンドラ達の場合は本人の承諾さえあれば問題はない。
アレクサンドラは、きっと相手が第二王子であるアイザックだから、王族相手に気を遣っているのだろうと判断した。
アイザックは、ハインセルの瞳から挑戦的な色をしっかりと読み取った。
つまり、そういうことだ。
「……アレクサンドラが、望むのなら」
「ありがとうございます。どうだろうか、アレクサンドラ」
「私は構わない。脚を踏んでも文句は受け付けていないからな」
「もちろんさ。それでは、私は一旦ここで」
礼をとり2人から離れたハインセルの背中を、内心アイザックは溜息をつきながら見送った。
まっすぐ自らのパートナーの下へ脚を進めた4人に、自然と視線が集まる。
そんな中で、1人、アレクサンドラへと歩み寄る男性貴族がいた。
「ご機嫌よう、アレクサンドラ」
青味がかった銀髪に、神秘的な紫の瞳をした青年。
ユグドラ王国に3家ある公爵家が1家、レインノーズ家次男ハインセル・レインノーズだ。
優秀な騎士を輩出するローズワイス家が武家として有名であるのに対し、レインノーズ家は文家として有名だった。
かく言う、この国の現宰相はレインノーズ家当主であり、歴代の宰相の多くはレインノーズ家本家か分家筋の出身である。
その宰相カインセルは、今日は所用の為に夜会の出席を免除されている。
次男のハインセルも文官として王宮勤めしているので、近衛騎士として勤めているアレクサンドラとは良く顔を合わせていた。
「あぁ、ハインセル殿。おっと……ご機嫌よう」
つい普段通りの騎士としての礼をしそうになったアレクサンドラは、自らが今着ているのが騎士服ではなくドレスなのに気付き、慌てて淑女の礼へと変更した。
そんな彼女の様子を微笑ましく眺めていたハインセルは、こちらへ足早に向かって来たアイザックにも丁寧に頭を下げた。
「アイザック殿下、ご機嫌麗しゅう」
「あぁ……」
ハインセルに比べ若干硬めな表情のアイザックを気にすることなく、アレクサンドラへ微笑みかける。
「珍しい……というか、君がドレスを着ているのなんて、初めてみたよ。それなら、この後のダンスも参加するんだよね?」
「そうなるな……暫く踊っていないから、勘が鈍っていそうで心配だ」
「あはは、君は運動センスがあるから、きっと大丈夫さ。殿下、よろしければ彼女とのダンス、私にも機会をいただけませんか?」
今日のパートナーであるアイザックに確認をとるのは、夜会での常識ではある。
しかし、それはパートナー同士が恋人であったり婚約者であったり、夫婦であったりした場合が基本で、今回のアレクサンドラ達の場合は本人の承諾さえあれば問題はない。
アレクサンドラは、きっと相手が第二王子であるアイザックだから、王族相手に気を遣っているのだろうと判断した。
アイザックは、ハインセルの瞳から挑戦的な色をしっかりと読み取った。
つまり、そういうことだ。
「……アレクサンドラが、望むのなら」
「ありがとうございます。どうだろうか、アレクサンドラ」
「私は構わない。脚を踏んでも文句は受け付けていないからな」
「もちろんさ。それでは、私は一旦ここで」
礼をとり2人から離れたハインセルの背中を、内心アイザックは溜息をつきながら見送った。
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