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エレスチャル王国編
11.それからの生活
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フローライト・ハイルシュタイン公爵令嬢の元に厄介になって、半年が経った。
彼女の提案で、私は彼女専属の護衛という扱いになっている。
屋敷内での身分は使用人だが、手伝いはさせてもらえなかった。
屋敷での家事全般を預かっているメイド長であるロゼリエッタに理由を尋ねると「お嬢様に手伝わせているようで落ち着かないから」との事。
「だからといって、世話になりっぱなしというのもな…」
「ふふ、良いじゃない。ケイは私の護衛なのだから、側にいなければ」
「それはそうなんだがな、フローラ……」
半年もの間、ほぼ側にいた私達の関係も少しばかり変わった。
お互いに敬称をつけるのをやめ、私は彼女の希望により「フローラ」と呼んでいる。家族にはそう呼ばれているらしい。
私が呼んでもいいのか、と聞くと。
『何を言ってますの。ケイはもう、私の家族みたいなものですわ。私自慢の護衛で、姉ですもの』
そう笑顔で言われたのが、嬉しかったのを覚えている。
敬語もいつしか使わずということになり、まるで本当に姉妹のような態度になっていった。
今も、屋敷の庭に備え付けられたテーブルに座り、フローライトと共に午後のお茶を飲んでいる。
クスクスと笑う彼女は、カップを持ち上げると何か思い出したのか、小さく、あ、と呟いた。
「そういえば、もうすぐ学校が…」
「学校? フローラは学生だったのか」
「あら、当然ですわ。ハイルシュタインを継ぐ者が、愚かではいられませんもの」
ふふん、と胸を張るように言うフローライトを微笑ましく眺めながら、私も一口紅茶を飲む。
甘い物が苦手な私の為に、甘さ控えめの紅茶が出されている。美味しい。
「学校か……そうなると、私は学校の外で待つ事になるな。送迎は任せてくれ」
この半年の間で、馬車の操縦も教わった。基本は専属の運転手がいる為、私が運転することはないが。
護衛として、非常事態に備えるのは当然だからな。運転できるに越したことはない。
さすがに学校内まではついていけないだろうと、当然のように答える私に、フローライトが不満そうに眉間にシワを寄せる。
「あら、ついてきてくれないの? せっかく自慢の姉を紹介できると思っていたのに」
「いや、さすがに校内に部外者が入るわけにはいなかいだろう」
フローライトの我儘に呆れた視線を向ける。
一緒に過ごして分かった事で、フローライトはとても聡明だが甘えん坊な性格だった。
最初は姉のようだと思っていたのだが、今では可愛い妹のように思っている。
しかし、フローライトの我儘だと思っていた彼女の話は、どうやら違うようで。
私の反応に、不思議そうな顔で首を傾げていた。
「あら、ケイのいた世界では違うのかしら」
「何がだ?」
「私達の学校では、身分ある者が護衛を連れてくるのは珍しい事ではないの。校内にはちゃんと、護衛の方達の為のスペースもあるわ」
「……そもそも、護衛を必要とする身分の者が、いなかったからな…」
なんだそれは、と更に呆れた気持ちが溢れる。
学校でまで護衛をつけるとは……学校で何の危険があると言うんだ。
しかし、まぁ、フローライトの近くにいれるというのであれば、別に離れる理由もないのでついていくが。
そういえば、私はまだ高校を卒業できていなかったのだし、まだ学ぶべき立場の人間なのだが。
護衛というだけで学校へ行くのも、何か変な感じだ。
学校か、と少しだけ懐かしく思っていると、何やら寂しげな笑顔を浮かべるフローライト。
「それに……学校の図書館は、世界中から書物を集めているの。そこなら、ケイが元の世界へ帰る方法も、見つかるかもしれないわ」
「……そうだな」
あれから、フローライトは約束通り、私が元の世界へ帰る為の方法を探してくれている。
屋敷にある本を全てひっくり返し、見つからなければ街へ出て新しい本を探す。
しかし、今のところ成果はゼロ。
たったの一つも、世界を越える方法は、出てこない。
その事に落胆する一方で、安堵する自分もいた。
今も、シュンとするフローライトの頭を撫でてやる事しかできない。
「ゴホンッ」
随分と大きな咳払いに、フローライトの後ろに控えるディアンに視線を向ける。
「風邪か? オブシディアン」
「……違う。それに、その名で呼ぶなと言っただろう」
ギッと睨みつけてくるディアンは、本名をオブシディアンという。
てっきりディアンという名だと思っていた私に、馴れ馴れしく呼ぶな、と言われ改めて自己紹介されたのだ。
しかし、本名で呼ばれるのは好きではないと、最終的に「ディアン」と呼ぶ事になっている。
「ふふ、ディアンは羨ましいのよね」
「羨ましい?」
「な、何をおっしゃいますかお嬢様っ」
何が? と首を傾げる私だが、ディアンの慌てようからして、本当に羨ましいことらしい。
何を羨ましいと感じているのかは分からないが。
「ケイは鈍感さんね」
「そうだろうか…」
武術をやっている身として、勘は良い方だと思うのだが…。フローライトが言うからには、そうなのだろう。
何故か顔が赤いディアンを振り返り、またクスクスと笑う彼女。
見慣れた光景に、平和だな、と静かに笑った。
彼女の提案で、私は彼女専属の護衛という扱いになっている。
屋敷内での身分は使用人だが、手伝いはさせてもらえなかった。
屋敷での家事全般を預かっているメイド長であるロゼリエッタに理由を尋ねると「お嬢様に手伝わせているようで落ち着かないから」との事。
「だからといって、世話になりっぱなしというのもな…」
「ふふ、良いじゃない。ケイは私の護衛なのだから、側にいなければ」
「それはそうなんだがな、フローラ……」
半年もの間、ほぼ側にいた私達の関係も少しばかり変わった。
お互いに敬称をつけるのをやめ、私は彼女の希望により「フローラ」と呼んでいる。家族にはそう呼ばれているらしい。
私が呼んでもいいのか、と聞くと。
『何を言ってますの。ケイはもう、私の家族みたいなものですわ。私自慢の護衛で、姉ですもの』
そう笑顔で言われたのが、嬉しかったのを覚えている。
敬語もいつしか使わずということになり、まるで本当に姉妹のような態度になっていった。
今も、屋敷の庭に備え付けられたテーブルに座り、フローライトと共に午後のお茶を飲んでいる。
クスクスと笑う彼女は、カップを持ち上げると何か思い出したのか、小さく、あ、と呟いた。
「そういえば、もうすぐ学校が…」
「学校? フローラは学生だったのか」
「あら、当然ですわ。ハイルシュタインを継ぐ者が、愚かではいられませんもの」
ふふん、と胸を張るように言うフローライトを微笑ましく眺めながら、私も一口紅茶を飲む。
甘い物が苦手な私の為に、甘さ控えめの紅茶が出されている。美味しい。
「学校か……そうなると、私は学校の外で待つ事になるな。送迎は任せてくれ」
この半年の間で、馬車の操縦も教わった。基本は専属の運転手がいる為、私が運転することはないが。
護衛として、非常事態に備えるのは当然だからな。運転できるに越したことはない。
さすがに学校内まではついていけないだろうと、当然のように答える私に、フローライトが不満そうに眉間にシワを寄せる。
「あら、ついてきてくれないの? せっかく自慢の姉を紹介できると思っていたのに」
「いや、さすがに校内に部外者が入るわけにはいなかいだろう」
フローライトの我儘に呆れた視線を向ける。
一緒に過ごして分かった事で、フローライトはとても聡明だが甘えん坊な性格だった。
最初は姉のようだと思っていたのだが、今では可愛い妹のように思っている。
しかし、フローライトの我儘だと思っていた彼女の話は、どうやら違うようで。
私の反応に、不思議そうな顔で首を傾げていた。
「あら、ケイのいた世界では違うのかしら」
「何がだ?」
「私達の学校では、身分ある者が護衛を連れてくるのは珍しい事ではないの。校内にはちゃんと、護衛の方達の為のスペースもあるわ」
「……そもそも、護衛を必要とする身分の者が、いなかったからな…」
なんだそれは、と更に呆れた気持ちが溢れる。
学校でまで護衛をつけるとは……学校で何の危険があると言うんだ。
しかし、まぁ、フローライトの近くにいれるというのであれば、別に離れる理由もないのでついていくが。
そういえば、私はまだ高校を卒業できていなかったのだし、まだ学ぶべき立場の人間なのだが。
護衛というだけで学校へ行くのも、何か変な感じだ。
学校か、と少しだけ懐かしく思っていると、何やら寂しげな笑顔を浮かべるフローライト。
「それに……学校の図書館は、世界中から書物を集めているの。そこなら、ケイが元の世界へ帰る方法も、見つかるかもしれないわ」
「……そうだな」
あれから、フローライトは約束通り、私が元の世界へ帰る為の方法を探してくれている。
屋敷にある本を全てひっくり返し、見つからなければ街へ出て新しい本を探す。
しかし、今のところ成果はゼロ。
たったの一つも、世界を越える方法は、出てこない。
その事に落胆する一方で、安堵する自分もいた。
今も、シュンとするフローライトの頭を撫でてやる事しかできない。
「ゴホンッ」
随分と大きな咳払いに、フローライトの後ろに控えるディアンに視線を向ける。
「風邪か? オブシディアン」
「……違う。それに、その名で呼ぶなと言っただろう」
ギッと睨みつけてくるディアンは、本名をオブシディアンという。
てっきりディアンという名だと思っていた私に、馴れ馴れしく呼ぶな、と言われ改めて自己紹介されたのだ。
しかし、本名で呼ばれるのは好きではないと、最終的に「ディアン」と呼ぶ事になっている。
「ふふ、ディアンは羨ましいのよね」
「羨ましい?」
「な、何をおっしゃいますかお嬢様っ」
何が? と首を傾げる私だが、ディアンの慌てようからして、本当に羨ましいことらしい。
何を羨ましいと感じているのかは分からないが。
「ケイは鈍感さんね」
「そうだろうか…」
武術をやっている身として、勘は良い方だと思うのだが…。フローライトが言うからには、そうなのだろう。
何故か顔が赤いディアンを振り返り、またクスクスと笑う彼女。
見慣れた光景に、平和だな、と静かに笑った。
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