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司祭長 キール
その15
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(…確かに私にとってはデメリットです。ですが、本当にこれはデメリットだけなのでしょうか…?)
キールは現状をしっかり考える。
確かに自分の魔力が他人に流れたのは想定外だが、それによってこの神官の少女は突然ランクアップを果たしている。
それも見た所、なにも体に無理はしていない様に見える。
(…これは1つの可能性がありませんか?)
もし繋がった者同士の魔力の共有が出来るという事は、仮に一人は街に居たままでも戦場の回復の助けが出来るという事ではないのか?。
自分達高位の司祭が出ていかなくても、高位の回復魔法を1兵卒の神官が使う事が出来る。
そして、戦場で走り疲労している神官でなく、街に居る者から魔力を使えるというのなら、それだけで十分なのでは?。
自分の行きついた考えに、同じ様に気付いた者もいるようで、こちらを目を見開いてみている。
(…これ、凄まじい魔法革命になりかねませんよっ!?)
キールは自分の心臓が、興奮で激しく鼓動しているのをとても実感していた。
「えっと、先ほど見せていただいて、なんとなく感じるものがありました。私も出来ないか試してみますので、見てもらってよろしいですか?」
司祭長の発言に、少女が明らかに驚いた顔をした。
「……出来るかもって、キールさんは何をなさるつもりなんですの?」
少女が見て分かるくらい、心配そうな顔をして司祭長を見ている。
「先ほど私に託してくれたように、私も光を他人に預けれないかと試してみようかと思います」
司祭長の発言に、少女は明らかに動揺している様にも、言っていいものか悩んでる様にも見えた。
(…自分にしか出来ないと思っていた事が他人にやれるかもと不安なのですね?)
司祭長は今の少女の心境をそう納得する。
(…確かに唯一感が奪われるのは大きなショックかもしれない───でも、これを世界へ広げていく事が、大きな可能性なのです)
キールは少女へと優しく微笑み、声をかける。
「大丈夫です。仮に私が出来たとしても、貴女のすごさは何も変わりませんから」
「いえ…そうじゃ…ないんですの…」
少女は何か言いたそうだが、言えないまま口をつぐむ。
「それでは、やってみますね?。鑑定士達は先ほどのマレットさんの時との違いがないか、しっかり見ておいてください」
司祭長はそう言うと目を閉じ、胸の前で手を合わせる。
そして先ほど自分に入ってきた感覚を思い出しながら、それを逆回転させるイメージで、自分の胸から魔力を取り出そうと思考する。
まず襲ってきたのは強烈な虚脱感というか疲労感だった。
(…え?。なんですか、この感覚はっ!?)
「キール様の魔力に多少揺れが見えますが、許容と思われます」
高位鑑定士の発言を聞き、先程の険しい表情をしていた少女を思い出し、コレはそういうものなのかもしれないと納得しておく。
そして更に魔力を取り出そうと試みていく司祭長の合わせてる手が、ほんの少しだけ光り出す。
それはさっきの少女が取り出した光に比べればはるかに弱い、今にも消えそうなものだった。
先ほどのソフトボール位あった少女の光に比べればはるかに小さい、小指の先にも満たない小さな光だった。
「キール様の魔力が徐々に手に集まっていきます。さっきのマレットさんの時と同じです」
そう言われる司祭長の顔は、ひどくゆがんで苦しそうだった。
額からは冷や汗が流れていて、必死に歯をかみしめて何かを耐えている様に見える。
「キール様の魔力の流れが激しく乱れています。大丈夫なのですか!?」
「キール様!。無理はおやめください!!」
周囲の司祭達が声をあげ、司祭長を止めようとする。
司祭長の目の前の少女は激しく顔をゆがませ、とても申し訳なさそうに正面の司祭長を見ている。
それからすぐに司祭長の手から光は消え、司祭長は大きく息を吐き下を向き、激しい呼吸を繰り返すのだった。
「ごめんなさい…ごめんなさいですの…」
少女が顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いて、未だ息荒くうつむいたままの司祭長に謝っている。
大きく息を吸い体を起こした司祭長は、少女の前に膝をつき座ると、顔を覆って泣く少女の手を取った。
「怒ってないので正直に答えてください。マレットさん、コレはいつもこうなのですか!?」
「ごめんなさい、ちゃんと言っておくべきでしたの……ごめんなさい、ごめんなさいですの…」
まっすぐ見つめる司祭長に、少女は泣き顔で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ただ謝り続けるのだった。
キールは現状をしっかり考える。
確かに自分の魔力が他人に流れたのは想定外だが、それによってこの神官の少女は突然ランクアップを果たしている。
それも見た所、なにも体に無理はしていない様に見える。
(…これは1つの可能性がありませんか?)
もし繋がった者同士の魔力の共有が出来るという事は、仮に一人は街に居たままでも戦場の回復の助けが出来るという事ではないのか?。
自分達高位の司祭が出ていかなくても、高位の回復魔法を1兵卒の神官が使う事が出来る。
そして、戦場で走り疲労している神官でなく、街に居る者から魔力を使えるというのなら、それだけで十分なのでは?。
自分の行きついた考えに、同じ様に気付いた者もいるようで、こちらを目を見開いてみている。
(…これ、凄まじい魔法革命になりかねませんよっ!?)
キールは自分の心臓が、興奮で激しく鼓動しているのをとても実感していた。
「えっと、先ほど見せていただいて、なんとなく感じるものがありました。私も出来ないか試してみますので、見てもらってよろしいですか?」
司祭長の発言に、少女が明らかに驚いた顔をした。
「……出来るかもって、キールさんは何をなさるつもりなんですの?」
少女が見て分かるくらい、心配そうな顔をして司祭長を見ている。
「先ほど私に託してくれたように、私も光を他人に預けれないかと試してみようかと思います」
司祭長の発言に、少女は明らかに動揺している様にも、言っていいものか悩んでる様にも見えた。
(…自分にしか出来ないと思っていた事が他人にやれるかもと不安なのですね?)
司祭長は今の少女の心境をそう納得する。
(…確かに唯一感が奪われるのは大きなショックかもしれない───でも、これを世界へ広げていく事が、大きな可能性なのです)
キールは少女へと優しく微笑み、声をかける。
「大丈夫です。仮に私が出来たとしても、貴女のすごさは何も変わりませんから」
「いえ…そうじゃ…ないんですの…」
少女は何か言いたそうだが、言えないまま口をつぐむ。
「それでは、やってみますね?。鑑定士達は先ほどのマレットさんの時との違いがないか、しっかり見ておいてください」
司祭長はそう言うと目を閉じ、胸の前で手を合わせる。
そして先ほど自分に入ってきた感覚を思い出しながら、それを逆回転させるイメージで、自分の胸から魔力を取り出そうと思考する。
まず襲ってきたのは強烈な虚脱感というか疲労感だった。
(…え?。なんですか、この感覚はっ!?)
「キール様の魔力に多少揺れが見えますが、許容と思われます」
高位鑑定士の発言を聞き、先程の険しい表情をしていた少女を思い出し、コレはそういうものなのかもしれないと納得しておく。
そして更に魔力を取り出そうと試みていく司祭長の合わせてる手が、ほんの少しだけ光り出す。
それはさっきの少女が取り出した光に比べればはるかに弱い、今にも消えそうなものだった。
先ほどのソフトボール位あった少女の光に比べればはるかに小さい、小指の先にも満たない小さな光だった。
「キール様の魔力が徐々に手に集まっていきます。さっきのマレットさんの時と同じです」
そう言われる司祭長の顔は、ひどくゆがんで苦しそうだった。
額からは冷や汗が流れていて、必死に歯をかみしめて何かを耐えている様に見える。
「キール様の魔力の流れが激しく乱れています。大丈夫なのですか!?」
「キール様!。無理はおやめください!!」
周囲の司祭達が声をあげ、司祭長を止めようとする。
司祭長の目の前の少女は激しく顔をゆがませ、とても申し訳なさそうに正面の司祭長を見ている。
それからすぐに司祭長の手から光は消え、司祭長は大きく息を吐き下を向き、激しい呼吸を繰り返すのだった。
「ごめんなさい…ごめんなさいですの…」
少女が顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いて、未だ息荒くうつむいたままの司祭長に謝っている。
大きく息を吸い体を起こした司祭長は、少女の前に膝をつき座ると、顔を覆って泣く少女の手を取った。
「怒ってないので正直に答えてください。マレットさん、コレはいつもこうなのですか!?」
「ごめんなさい、ちゃんと言っておくべきでしたの……ごめんなさい、ごめんなさいですの…」
まっすぐ見つめる司祭長に、少女は泣き顔で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ただ謝り続けるのだった。
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