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村の診療所

その6

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「はい、これで大丈夫ですよ。痛みは治まってる筈ですが、しばらくは無理しないようにしてくださいね?」

司祭服の女性が立ち上がると、目の前の長椅子に座る2つの人影に声をかけた。

「あー、司祭様。本当にありがとうございます」

「あー、うちらの村に司祭様がいらしてくれるなんて、ありがたや、ありがたや…」

おばあさんが2人、並んで手を合わせて眼の前の司祭の女性を拝んでいる。

「あのー、私は神様ではないので、そーいうのは止めてくださいと何度も言ってますのに…本当に困ります…」

拝まれていた司祭姿の女性は、照れて顔を赤くしながらおばあさんに話している。



ここはウィズ=ダムの南にあるルビナの村。

その入り口付近に建てられたこの建物は、軍が野営等で使う簡易の大型テントの様にも見えた。


中では先ほどの司祭と別に、学者風な服装をした女性が忙しくなにか書類をかいている。

それに加えて普通の男性より一回りは大きな大男が、立派な鎧をまとって入り口に立っており、建物の周囲には数人の兵士が巡回して見張りをしていた。


そんな建物に、ドスドスと足音を響かせながら巨大な人影がやってくる。

その人影は入り口に立つ大男に軽く会釈をすると、建物の中へと入っていく。


「すいません、司祭さまー。ちょっとみてもらえないだろうかー?」

「はいー、すこしお待ちください…あら、ランスウッドさん。今日はどうされました?」

奥の部屋から出てきた司祭は、入ってきたトロール族のランスウッドに声をかける。


「仕事してたら木がたおれてきてー、それに腕があたったんだー。オレは平気だっていったんだけど、ホーガンがみてもらえっていうからー」

「そーなんですか、ホーガンさんが…とりあえずそこに座ってください。ちょっと触診しますね…」


今でこそこんな風に平和な雰囲気だが、この司祭達が来た初日はそれはピリピリしたものだった。



「───というわけで、私達はジュライから参りました。貴方がこの村の代表の方なのですよね?」

「はい、私はホーガンといいます。一応まとめ役という事になってますな、ホッホッホ」

老人は家へやってきたこの村には場違いなくらい立派な服装の司祭に挨拶を返す。

「しかし、うちのマレットの事を調べるために、こんな遠くまでよくいらっしゃったとは。とりあえずお茶でも出しましょう。少しお待ちください…」

「いえいえ、お気になされずに。私達は挨拶をしましたら、すぐに出ますので…」


「なんか、のんびりとした村だな…」

鎧の大男が横にいた兵士に声をかける。

「そーですね…こんな村なら、護衛なんか要らなかったかもしれませんねー…」

兵士もまったりとした感じで、大男に返事をする。


その時、ドンドンと扉が叩かれたかと思うと、バンッと扉が開かれる。

「すまんだー、ホーガン。ホリーが崖をすべって下におちていっただー」

入ってきてこの村のまとめ役の名を呼ぶその巨大な体格は、まぎれもない魔物のトロール族だった。


「トロールだとっ!?、なぜこんなところに魔物が!?。司祭様!、学者殿!、そこを動かないでください!」

大男と兵士が腰の剣を抜き、目の前のトロールに構える。

何が起こったのか分からないトロールは、何事かと驚いて動けなくなっていた。


「おのれ、魔物め。オレが倒してくれるっ!」

大男が剣を振りかぶりトロールに接近しようとしたところ、突然首根っこを掴まれたような感覚がしたかと思うと、いきなり真後ろに引き倒される。

「ホッホッホ、足元を気をつけないと、転んで危ないですよ?。あと、この者はランスウッドといいまして、この村の住民なので、安心して下さい」

後ろからトコトコと歩いてきた老人が、トロールの前に立って大男たちの方を向く。

「それで、ホリーさんはどんな様子ですか?」

「無事だとおもうだー。でもー、何かあったらいえってホーガンいってたからー、とりあえずそこでいごかねぇようにいってあるだー」

老人は話を聞きながらうんうんと頷いて「よい対応です」とトロールを褒めている。


「ちょ、ちょっと待たれよ、ご老人!。その魔物が住民とは、ご老人は正気かっ!!?」

転倒していた大男は、ヨロヨロと立ち上がりながら、それでも声荒く老人を指をさす。

「正気も何も、ウィズ=ダム王もちゃんと公認しておりますよ?。なので、この者は紛れもなくこの村の住人です」

「この国の王までがっ!?。そ、そんなバカな話がっ!!」

大男は老人の言葉に驚きながらも、未だ剣を抜いたまま油断なくトロールを睨むのだった。
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