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居場所
その21
しおりを挟むあの戦いから30日が過ぎ、トロール達の大工ギルドでの監視も終わる時が来た。
少女達はトロール達を連れ、久々に城へと帰ってきていた。
久々に会う部下達に囲まれ、トロール王は話をこれでもかと聞かされている。
困り気そうながらも、その表情は極めて柔らかかった。
部下達の話をとりあえず止めさせて、トロール王は少女達の前に立つ。
「部下達が世話になった。心より感謝をする」
深く頭を下げるトロール王に、少女が答えた。
「ブラッドウッドさん、頭を上げてください、わたくし達は何もしてませんの。全ては真面目に頑張ったトロールさん達のおかげなんですのよ?」
少女にそう言われ、トロール王は「まことにありがたい…」と頭をあげる事も出来ずに声を漏らしていた。
「ところで、これからトロールさん達はどうしますの?」
少女が誰にとでもなく疑問を投げかける。
「うむ…出来ればこれまでの様に、街で働かせてもらえるならそれ以上の事はないのだが」
「でも、トロールさん達もそれぞれやりたい事はありますのよね?」
少女は当然の様にトロール王に問う。
「やりたい事…少女よ、それはどういう事なのだ?」
「どういうもなにも、今までやってもらっていた大工だけが仕事ではないですの」
トロール王は少女をみながら「それはそうだが…」と声を漏らす。
「皆さんはなにかやりたい仕事とかはないですの?」
少女はトロール達に問いかける。
言っていいものかと悩んでいるのか、トロール達はざわざわと話し合い出す。
そしてしばらくして、一人のトロールが手を上げる。
「おれ、農作物を育ててみたい…」
1人が意見を言った事で火が付いたらしく、次々に手をあげて自分の夢を語っていく。
「オレ、もう少しあの大工って仕事を続けてみたい…」
「この城みたいな、なんかでっかい建物を建ててみたい」
「俺は───」
好きな様に夢を語るトロール達───そんな部下達を信じられないものを見る様にトロール王が見つめている。
「ブラッドウッドさん、街のお仕事は色々あるんですの。同じやるなら、好きな方がきっと楽しいですの」
少女が当然の事の様に、笑顔でトロール王へと言った。
「だが、仮にも捕らえられている我らがそんな我が儘を言って良いものなのか…?」
それでもまだ納得できないトロール王は、少女に答えを乞う。
そして少女は、トロール王の手を取り、その目をじっと見る。
「監視期間は終わってますの。ならこれからは、トロールさん達が自分の好きを追っかけていいんですの」
「どの程度効果があるか知らんが、城には俺からもお前達の意見に添える様に言っておこう」
「…不死王」
言われた青年は、その呼び名は止めろとトロール王に言った。
少女と青年は近くの兵士に、王様に合わせてもらう様に伝える。
しばらくすると大臣が兵士を連れてやってきた。
「王は多忙なため今回は来られません。ですがお話は伺っております、ある程度はこちらに任せるとの事です」
「…ある程度というのは、どういう事ですの?」
少女が大臣に質問すると、大臣は「よいですか?」と言葉を繋いでいく。
「各々バラバラになられるとさすがに監視を続けるのはこちらも大変なのです。ですので、トロール王にはこれまでの様に城に居てもらう事になります」
「…それは人質という事ですの?」
大臣は少し申し訳なさそうな顔をした。
「別に監禁するとかではなく、これまでの様にこの部屋に居てもらう事になります。でも確かに、事実上の人質になるのは否定できません」
「…そうなんですの」
少女がとても悲しそうな顔をする。
「少女よ、なぜそんな顔をする?。部下達はより自由になれるのだろう?。それで十分ではないか」
「でも、それじゃブラッドウッドさんはどうなりますのっ!?」
少女が少し涙ぐみながらトロール王に声をあげる。
「私の最大の望みは、部下達の無事だ。これ以上はない…大丈夫なのだ、少女よ。ありがとう」
トロール王はとても優しい声で、少女へと感謝を述べるのだった。
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