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居場所
その20
しおりを挟む数日後、トロール達の街での居住が確保できたという事で、トロール達9人を連れて少女と不死王、そして何人かの兵士が街へと出てきていた。
拘束もされずに歩いているトロールの巨体を街人は怯え、遠目に見ている。
トロール達を受け入れると決めた次の日には掲示板等で住民達には告知はしていたものの、実際に見るとそうなるよなと兵士は住民たちに理解を示す。
そして連れられたトロール達はある場所へと案内される。
「ごめんくださいですのー。親方さん、トロールさん達を連れてきましたのー」
建物のなかから「おーう」と、野太い男性の声が上がる。
「おぉう…実際見るとほんとでけぇな!。これなら色々やってもらえそうだな、ガッハッハ」
親方はトロールの姿に怯える事すらなく、近くに居たトロールをバシバシ叩きながら豪快に笑っていた。
ここは大工達のギルド───そして、さっきの親方と呼ばれた男性がこの大工ギルドの長に当たる人物である。
トロール達が本当に大丈夫なのかを監視するのと、社会に慣れてもらうのと、加えて街の住人にもトロール達に慣れてもらう為、ここに連れて来られたのだった。
選ばれた理由は色々あるが、豪快な血気溢れる人が多いここなら、魔族でも結構受け入れてくれるのではないか?、というのが一番だった。
とりあえず一応監視期間の一か月をこちらで過ごしてもらう事になっている。
もちろん、兵士達は常時監視で数人いるし、不死王達にも定期的に見に来るようにも要請が来ていた。
トロール達はやった事のない人間達の作業に戸惑いながらも、親方たちから飛んでくる指示に大人しく従いながら、重い物を運んだりと忙しく働いていた。
就業時間も終わり、トロール達は居住場所へと移動する。
帰る前に親方や仲間の大工が集まってきていた。
そしてトロール達に「兄ちゃん達すごい力だな!。また明日も頼むぜ?。ガッハッハ」と楽しげに言いながらバンバン叩いていたので、とりあえずは大丈夫らしい。
トロール達の案内も終わったので、監視で一緒に軟禁状態だった少女と不死王は久々に自由を得たので、教会に帰る前にちょっと冒険者ギルドへと足を伸ばす事に。
「こんばんわーですの。お姉さん久しぶりですのー」
少女がカウンターに駆け寄り、中で事務仕事をしていた受付のお姉さんへと声をかける。
「あら?。マレットさん、お久しぶり…って、ジュライに向われたんじゃなかったんですか?」
「行ったんですけど、ちょっと急用が出来たので途中で戻ってきたんですの」
お姉さんは少女を見ると、少し悲しそうな顔になる。
「そうなんですか、それは大変でしたね。でも折角ジュライに行けたのに…(高位鑑定士《ハイウォッチャー》に見てもらえなくて)残念でしたね」
「えぇ、折角の新しい街でしたのに…(観光できないで)ホント残念でしたの」
女子(?)2人がカウンターでワイワイ話し出したので、不死王はいつもの椅子に腰かけると、いつもの様に楽器を取り出しポロンポロンと弾き始めた。
「…あ、危うく忘れるとこでしたの」
少女はそう言うと、肩から下げた鞄をごそごそと漁り始めた。
「なんですか?。お土産か何か、ですか?」
「あー…急いで戻ってきたので、そんな余裕はありませんでしたの。ごめんなさいですの」
少女の声が申し訳なさそうに少し小さくなった様に見える。
「あ、いえいえ、こちらこそすいません」
お姉さんがあわあわと忙しく手を動かしながら、必死にフォローをする。
「…あ、ありましたの。これをお城から預かって来てますの」
少女はお姉さんの前に封をされた手紙を差し出した。
それは前にも見たこともあるウィズ=ダムの封蝋のしてある立派な封筒だった。
敏いお姉さんは、なんとなく察する。
「あ…お預かりします。今読んでも大丈夫ですか?」
「はい、お願いしますの」
少女がそう答えたので、お姉さんはハサミで封を開け中の手紙に目を通す。
お姉さんの口から小さく「やっぱりかぁ」と漏れてるのには、本人は気付いてなさそうだった。
「────はい、分かりました。シェイドさんもちょっとよろしいですか?」
お姉さんが入り口で楽器を弾いていた不死王へも声をかける。
そしてカウンター間に二人が並んだところで、コホンと咳を一つすると宣言する。
「ウィズ=ダム王の要請を受け、特例でマレットさん、シェイドさん、以上2名のランク4昇格を認めます。おめでとうございます」
お姉さんが制限すると、目の前の少女が黒衣の青年へと手を上げハイタッチをした。
この手の事は苦手そうなのに、それでもちゃんと少女に付き合ってあげる青年は、さすがだなとお姉さんは感心する。
それからしばらく雑談をすると、少女達は扉からギルドを出ていく。
(…久々のアレでしたね)
お姉さんはどこか満足気にさっきまで事務作業をしていた席に座る。
(…しかし、あの子達がちゃんとポイントを貯めて昇格したのはまだ一度もないんですねぇ)
そんな風にあの二人を改めて感心をするが、それと同時に疑問も湧いた。
(…そもそも、特例が何度も発令する冒険者って何なのでしょうか?。やはりなにか強い権力が働いているのでは?)
書類処理も進めずに色々妄想するお姉さん。
だがお姉さんは知らない、その後に続くさらなる驚きの事実を…。
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