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剣聖
その18
しおりを挟む「声は届くかとは一体…それより、なぜ部下達が無事なのだ!?」
トロール王が拳士へと詰め寄り疑問する。
「…トロール王よ、俺を忘れたか?」
拳士は顔の黒衣をずらし、トロール王にだけにそれを見せる。
「骸骨兵!?…だが喋る骸骨兵《スケルトン》なぞ……はっ、まさか不死王か!?」
「やっと気づいたか、馬鹿者め」
不死王は黒衣を戻すと、トロール王の腹部を軽く叩く。
「トロール達には傷付けずに無力化させる様、夢魔王に命じていた。怪我ひとつないはずだ」
「あの魔術師、夢魔王だったのか!?。だが夢魔王はサンド=リヨンで戦死したときいていたが…そもそも不死王、お主も倒されたのではなかったのか?」
トロール王が焦ってるのは初めて見たなと、不死王はぼんやり考える。
「まぁ、それも色々あってな。さっきも言ったが、後ろに控えていたオーク共はもう倒してある」
「なんと!?。あの数を1人ででか!?」
一応驚きはしたものの、不死王ならやれるかと納得は出来た。
「というわけで、とりあえずお前は自由というわけだ。それを踏まえて、大人しく話を聞く気はあるか?」
「………話とは何をだ?」
不死王がこちらへと右手で指してくる。
「…お前達、トロールのこれから、だ」
そう言った後、不死王が「あっ!」と声を漏らした。
「すまん、ちょっとやる事を思い出した。あとは夢魔王に聞け。それと…」
不死王が丘に顔を向けた。
「俺や夢魔王が魔族って事は、とりあえず伏せておいてくれ。頼むぞ」
それだけ言うと、不死王は丘へとすごい勢いで走り出していった。
残された自分は両手を上げて抵抗の意思のないことを伝え、自分の部下達の方へと歩いていった。
「もぉっ!、遅いですのっ!!」
神官の少女が少し怒りながら不死王へと不満を漏らす。
不死王は「すまんな」と言いながら少女を抱えると、夢魔王達の方へと向かって走り出した。
抱えられながら少女は不死王をじっと見る。
「トロール王さんはちゃんと説得出来ましたの?」
不死王は走るスピードを落とすこともなく、「あぁ」と答えた。
「…トロールの皆さんも、気に入っていただけるといいですの」
少女はまだ会った事もないトロール達の未来を願うのだった。
一応街人や城の者達に不安を与えてはいけないからと説得されて、トロール王とその部下達は大人しく紐で後ろ手に縛られる。
そして兵士達に連れられて、城の中庭へと到着した。
流石にトロールを城の建物内には入れれないだろうという兵士隊長の機転だった。
「捕虜として連れてきたとは聞いていたが、本当にトロールを…」
ウィズ=ダム王の横に立つ大臣が驚きの声をあげる。
「魔術師殿、そして兵士達。よくやってくれた」
王が兵士達にねぎらいの声をかけた。
そしてトロール達の横に立つ黒衣の人影へと顔を向ける。
「そしてシェイドとマレットよ…また救われたな。国を代表して心から礼を言おう」
「王様、ありがとうございますですの」
少女がぺこりと頭を下げ、不死王も遅れて軽く頭を下げる。
「それで王様、ひとつお話があるのですが、聞いて頂いてもよろしいですの?」
「それは国を救ってくれた勇者の言葉だ。当然きこう」
王様がうむと頷いてるのを見て、少し落ち着いた少女が言葉を続ける。
「トロールさん達に、この街で生活する事を許可してもらいたいですの」
大臣と城に居た兵士達が急にざわつく。
王は少女をじっと見たまま、静かに口を開く。
「トロールを…魔物をこの街で自由にさせろ、マレットはそう言うのだな?」
「えぇ、その通りですの。トロールさん達はもう魔王城へと帰らないと言ってくれましたの。だから、できたらこの街で生活して欲しいんですの」
王様は顔をしかめて、正直なんと答えればよいかと迷っていた。
「さすがにそのままだと不安だろう?。だからトロール王は城で捕虜として残ってもらう」
不死王が悩んでいる王へと声をかける。
「シェイドよ、それにどんな意図が?」
「分からんか?。もし街でトロールが何かをすれば、王に害が及ぶというのなら、トロール達もそんなことはしないだろう?」
「絶対にしないです」
「王を守るのは、我々にとって当然の事です」
「王に不利になる事なぞする訳がありません」
トロール達が同意の声をあげる。
そしてトロール王が、人の王へと深々と頭を下げる。
「トロールの王ブラッドウッドである。人の王よ、我らに住まう場所を与えてくれないだろうか」
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